67、合流する騎士と煌めく恩寵
あれだけレオさんが私のことを「姫さん」と呼んでいるのに、なぜか傭兵団の人たちの認識は「迷子の女の子」だったことが解せない。
だけど迷子認識だからか皆が私にたくさん優しくしてくれるし、たくさんお菓子もくれる。もう! 子どもじゃないってば!
「まぁまぁ姫さん、今はこのまま誤解させておこう。下手に騒ぎにするよりはいい」
「でも……」
「誘拐したやつらが姫さんをどう認識していたのかが分からない。念のため『姫』よりも『村娘』として認識させておいたほうがいい」
「わ、わかりました」
子ども扱いされたと怒ってる場合じゃなかった。誘拐されていた理由がよく分からない今、下手に情報を出さないほうがいいよね。
それに、私が春姫だって知られたら、こうやって親しくしてもらえないかもしれない。おじさんたちがお菓子くれなくなるとかツライから、きっとこのままでいいのだ。
傭兵団の野営では、あまり明かりを使わない。唯一の明かりは各所に置かれたテントの真ん中にある焚き火で、傭兵さんたちが交代で火の番をしている。
私とレオさんとアサギは、大きめのテントでゆったり食後のお茶を飲んでいた。
「そうだ、アサギは塔から来たんだよね。ジャスターさんに伝えてから来たの?」
『ぎんいろには、こっちの方向にハナがいるって言ってから飛んできたよ』
「よくやったチビ麟。アイツなら俺の居場所を分かっているだろうから、迎えは待たずにこのまま町へ向かおう」
『チビじゃなくてアサギ!』
ぷりぷりしているアサギを撫でてなだめる私は、レオさんの言葉に首を傾げる。
「レオさんの行動をジャスターさんは把握しているんですか?」
「ずっと俺の補佐としてやってきてたからな。それに今は恩寵で認識できることも多い」
「ジャスターさんの『鑑定』は、場所で見れば何が起きたのかが分かるんですよね」
考えると、恩寵ってすごく強い力だよね。使い方を間違えたら怖いことになりそう。
でも、レオさんたちが悪いことに使うとは思えないし、きっと神様は恩寵を渡す人を選んでいると思う。
「姫さんが消えた場所でジャスターが『鑑定』すりゃ、黒幕も一発で分かるだろうからな。どうしてか今回、姫さんが誘拐されたのに何も感じないのがなんか引っかかるんだ」
「感じる、ですか?」
「移動の魔法陣が失敗して姫さんだけ違う場所に飛ばされた時、あとは魔獣の群れに遭遇した時もだ。姫さんの危機を騎士としての本能みたいなもので感じる」
「なるほど……それが今回なかったということは、私自身が危険に晒されてなかったってことでしょうか」
「そうかもしれないが、薬を使って眠らせるとか不穏すぎるだろ」
「ですよね」
「ま、俺がいれば姫さんには指一本ふれさせないから、安心してな」
手に持つマグカップに入っているお茶を飲むと、ふんわりとした花の香りでズシリとした気持ちが軽くなる。同じようにレオさんも感じたのか、お茶を飲んで表情が柔らかくなっていてホッとする。
「お茶の中に花が入っているんですね」
「春の塔お膝元の町、名物の姫花茶だからな」
「姫花茶?」
「知らないのか? 姫さんがたくさん花を咲かせてるから、それを町の人たちが加工して名物として売り出してるんだぞ」
「ちらっと聞いてましたけど、名物になってたんですね」
「それに、姫さんの名前が『ハナ』だっていうから、皆こぞって品物の名前に『花』をつけてるぞ」
「えっ、なんですかそれ!! 恥ずかしいんですけど!!」
「茶だけじゃないぞ。『姫花ケーキ』とか、『姫花クッキー』とか」
「いやー!! 恥ずかしいー!!」
『アサギはフワフワの姫花パンが好きー』
羞恥に悶える私に、アサギがトドメを刺してくれた。やめて……私のライフはマイナスよ……。
「自分としては『姫花酒』も捨てがたいと思いますが」
「ジャスターさん!」
バサリとテントの入り口が開いて姿を現したのは、眉目秀麗なメガネ男子ジャスターさんだ。騎士が二人になったせいか、湧き上がる安心感がすごい。これが『姫』と『騎士』の絆効果ってやつか……いや、よく知らないけど。
レオさんはジャスターさんが来ることを分かってたみたいで、もうひとつマグカップを出すと、ポットのお茶を入れてやっている。雑なオッサンに見えるけど、意外と繊細で気がきく男なのである。
「ただいまお迎えに参りました、我が姫君。サラ殿からお着替えの服などを持たされておりますので、後ほどご確認ください」
「ありがとうジャスターさん。そしてサラさんさすがです。助かります」
「思ったよりも早かったな。飛ばしたのか?」
「意外とキアランが優秀でしたよ。状況を把握してすぐに塔の自分に向けて矢文を飛ばしましたからね」
「え? 町からですか?」
「そうです。彼の恩寵を使って矢文を射ったのですよ」
えっと……矢って障害物があったらそこに当たるはずだよね? なんで「塔の中にいるジャスターさん」に矢文届いたのかな? おかしいよね?
「どうやら彼の恩寵『命中』は、障害物など関係なく対象に当てるようですね」
「あの、ちなみに『命中』って恩寵はよくあるものですか?」
「弓を使用したり投擲する人に授かりやすい恩寵のようですが、多くは命中率が上がるくらいのものですね」
「……そう、ですかぁ」
出たよ。また謎のオリジナリティーあふれる恩寵が。
「もう一つの彼の恩寵である『支援』で、姫君をさらったバカ貴族らしき家名が『鑑定』で判明しました。元貴族のキアランが捕まえたでしょうから、もう大丈夫ですよ姫君」
「あ、ありがとう、ございます……」
黒い笑みを浮かべつつ銀縁メガネがキラリと光るジャスターさん。うん、普通に怖すぎるね。
美形がやると通常の倍以上に効力を発揮すると思うんだ。
「それにしても、なんで私をさらったりしたんだろう?」
なんとなく口にしたその疑問に、目の前にいる美丈夫二人の表情が一気に変わる。
「理由がどうであれ、許されることではありませんよね? 筆頭」
「滅する以外の選択肢が見えないよなぁ? ジャスター」
清々しいくらいの笑顔で言い合う二人に、誘拐犯たちの未来が見えた気がした……。
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