66、騎士の謎スキルとアサギの成長
なにやら恐ろしげな笑みを浮かべるレオさんに怯えていると、少し離れたところに生き物の気配を感じる。
ほら、私ってば身体能力強化で色々敏感になっちゃってるじゃない?
「レオさん」
「大丈夫。傭兵の仲間だ」
気配の方向を見ることなくレオさんが縦抱っこを、片腕に私のお尻を乗せる感じのやつに変更している。さすがに降りようとするけど、がっちり膝をキメられていて動けない。
「は、恥ずかしいので、降ろしてくださいぃ……」
「ダメだ」
えぇー……。
謎の過保護スキルを発動するレオさんに困り果てる私の近くで、「ブッフォ」と噴き出す音が聞こえる。
「団長そのお姫さん、かわいいかわいそうだから、降ろしてやりやしょうぜ?」
「騎士として今ここで離すわけにはいかん。あと元団長と呼べ」
「へいへい、分かってますよ団長」
かわいいかわいそうと言われた私は、羞恥に悶えながらもおとなしくレオさんに抱っこされたまま傭兵団の人たちと合流する。
どうやら私が馬車から飛び降りた林の奥にあるひらけた場所に、偶然レオさん率いる傭兵団が休憩していたらしい。
だけど……。
「ねぇ、私のいた場所からかなり離れているけど、なんで分かったの?」
「ん? なんとなくだ」
「なんとなく」
「塔にいる時も、姫さんが今なにをしているか、どこにいるのかくらいは分かっていたからな。なんとなく」
「なんとなく」
ちょっと怖い。レオさんのなんとなくがちょっと怖い。
「ははは、そりゃお姫さんは驚きますわな。うちの団長は離れた所にいる傭兵たちが何をしているか、魔獣の気配も分かる凄腕なんでさぁ」
「そうなんですか! レオさんすごいです!」
一瞬、不穏な発言かと身構えていたけど、傭兵さんの話を聞いて納得する。
そうだよね。日本の剣豪とかも、目を閉じで剣筋を見極めるとかあるらしいし、レオさんくらいの強い人ならこれくらい軽いよね。
「しばらく歩けば傭兵団と合流できる。その間に姫さんが捕まってからのことを話せるなら話してくれ」
「はい」
まだ少し怖さが残っているけれど、レオさんの体温で安心感がポコポコ湧いてくるから大丈夫みたい。
私は一回深呼吸して、これまでのことを思い出しながらレオさんに話した。
「小さいし、細っこい。そんでかわいい」
「妖精か? 女の子? なんでこんな所にいるんだ?」
「迷子かぁ、さぞかし心細かっただろうなぁ」
「団長がいればなんも心配することねぇからな。ほら、菓子食うか?」
無事に傭兵団と合流した私たちは、荒くれ者と名高い傭兵さんたちに口々に声をかけられる。前回の儀式で行軍についてきてくれたのとは別の人達みたいで、私の顔を知る人はいないようだ。
荒っぽい感じはするけど皆さんすごく優しいんだよね。近所の気のいいおっちゃんって感じ。
「団長、こんな所に女の子を置いて行った奴らがいたのか? ちゃんとボコったんだろうな」
「俺が責任もってボコっとくから心配するな」
レオさんが喧嘩っ早い傭兵さんに釘をさすように言う。貴族が絡んでいるかもしれないし、下手に動いたら何をされるか分からないもんね。権力怖い。
「レオさん、サラさんとキラ君に無事だって伝えたいんですけど、何か方法はありますか?」
「町までまだ距離がある。野宿になるがここで待っていれば無事だって分かるだろう」
「待ってるだけでいいんですか?」
「キアランが大馬鹿野郎じゃなければ、だ」
そう言いながらもレオさんは傭兵さんたちに野営の準備するよう指示している。これは騎士としてのキラ君を信じているってことだよね。
「まぁ、お仕置きは決定だけどな」
強く生きて。キラ君。
そっと空に向かって祈っていると、空に黒い影がポツリと見える。アレはなんだ? 鳥か? いや、鳥にしては形がおかしい?
『ハナー!!』
「アサギ!?」
チワワくらいのアサギが空からものすごいスピードで落ちてくる。あれ、これって受け止めたら私に力学的なものがプラスされたダメージが……。
「ほらよ、『鉄壁』だ」
『いやーん!!』
透明な壁……じゃなく、トランポリンみたいな何かに当たり、はね返ったアサギは再び空へと飛んでいってしまう。
レオさんの恩寵『鉄壁』は、硬くもできるし柔らかくもできる。以前も私が落ちるのをクッションみたいにして受け止めてくれたことがあるからね。ほんとレオさんすごいよね。
「レオさん……なんでアサギをはね返しちゃったんです?」
「すまん、勢いだ」
「もう、アサギに謝ってくださいね」
「あのまま落ちてたら姫さんが痛い思いすんだろうが」
『ちょっと! アサギがハナに痛いことするわけないでしょ!』
再び空から「くるくるくる~……しゅたっ!」と着地を成功させたアサギは、ぷりぷりしながらレオさんに文句を言っている。小型犬が怒ってても可愛いだけなのになぁとほのぼの見てたら、レオさんが呆れた様子でため息を吐く。
「それでも、だ。……そもそも姫さんの胸に飛び込むとか、絶対に禁止だって言っただろが」
『えー!! いい匂いするのにー!!』
ガタイのいいレオさんと小動物が口喧嘩するとか、合わせ技一本で可愛いがしゅごい……じゃなくて。
「ちょ、ちょっと、レオさんいつからアサギと会話ができるようになったんですか?」
「あん? そういえば会話しているな」
『ハナ! アサギは成長しているの! いっぱいハナからパワーもらって、いっぱい寝て、成長しているの! ほめてほめて!』
ポーンと飛び上がって私の腕の中にすっぽり収まったアサギに、思わず「よーしよしよし」とモフモフ撫でさする。
「すごいよアサギ! でも塔の関係者だけにしてね。危ないから」
『はーい!』
「まぁ、遅いけどな」
「あっ……」
いけない。傭兵さんたちがいる前で、アサギと会話しちゃった。オロオロする私に、レオさんがニヤリと笑って「大丈夫だ」と言ってくれる。
「これから気をつけてくれればいい。今回の仕事は塔の権限を使って、俺が傭兵団を率いている。傭兵の任務に塔が絡む時は、かならず誓約書にサインするから下手なことは言えなくなる」
「危なかったです……」
「それにコイツらはこれからも姫さんの儀式に付き添わせるからな。このチビ麟を知っててもいいだろう」
『チビじゃない! アサギだよ!』
再びぷりぷり怒り出すアサギに、レオさんと私はつい笑ってしまってさらに怒らせてしまうのだった。
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