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64、ピンクのモフモフハウス完成と移動する姫



 ウサギ小屋を作ってくれたのは、町のよろず請負屋をしているアークさんだ。

 顔に傷があったりで強面だけど、塔の敷地内に入れたということは「問題ない」ということなんだろう。


「セバスさん、アークさんって……」


「ええ、もし本人が承諾してくれるなら、庭師として雇おうと思っています」


 さすがセバスさん。人を見る目があるね。

 私が尊敬の眼差しを送っていると、セバスさんは困ったように笑った。


「実はアークを私に紹介したのは、筆頭殿でして」


「レオさんが?」


「春姫様が楽を奏でるようになりましたから、塔の庭にも多くの花が咲いたので整備しようと思っていたところ、筆頭殿が元傭兵のアークを推薦してきたのです」


「アークさんは元傭兵なんだ」


 そう言われてみれば、とても立派な体格をしている。顔や腕にある傷はもしかしたら魔獣と戦ってついたものかもしれない。

 え、ちょっと待って。元傭兵ということは、もしかして……。


「アークさんが傭兵をやめた理由って、もしかして……!!」


「最近お孫さんが生まれたとのことでして、魔獣討伐の遠征で長く町を離れたくないと言ってましたが」


「……そっかぁ」


「まだまだ現役の傭兵としてやっていける人材ですから、荒事にも対処できます。筆頭殿には感謝ですね」


「……そっかぁ」


 どこかに矢を受けたりとか、怪我が原因の引退とかじゃなくて良かったよ。ちょっとだけ期待しちゃったけど、元気が一番だよね。うんうん。

 セバスさんがアークさんとウサギ小屋にモフモフたちを入れて、不具合がないか確認してくれている。強面のアークさんがピンクのモフモフを優しく抱き上げているのを見ると、なんだかすごく癒される。

 てゆか、警戒心の強いって言われているこの子達と触れ合えるセバスさんとアークさんって……。


「執事長さんから聞いたが、アンタが今代の春姫様か?」


「あ、はい。そうです」


 背丈はレオさんくらいかな。背の高くない私からすれば見上げる形になるけど、見下ろされるこの状態は嫌な感じはなかった。

 観察されているというか、なんていうか……心配?されてる?


「こんな小さい子がなぁ……レオの野郎、俺がこうなると分かって推薦しやがったな」


「え? レオさんが、なんですか?」


 首を傾げる私と向き合うアークさんがため息を吐きながら後ろ頭をかいているのを、セバスさんは微笑ましげに見ている。ん? どうしたの?


「分かったよ。俺は塔の関係者になるよ。それでいいだろう?」


「ありがとうございます。良かったですね、春姫様」


「はい! アークさん、ありがとうございます! お孫さんとの時間もとれるように、ちゃんと調整しますからね!」


「……おう」


 なんにせよ、塔の関係者が増えるのは嬉しい。

 セバスさん達は隠しているけど、やっぱりこれまでのマイナスイメージな『春姫』が強くて、塔の関係者になってくれる人のあつまりが芳しくないのはさすがに分かっている。

 そしてそれを私に隠そうとしているのも。


「執事長さんよ、塔の人材集めたいんならこの小さい姫様を出せば一発じゃねぇのか?」


「春姫様が目立つことを望まないのですよ。あと筆頭騎士殿が反対しますからね」


「へぇ……アイツがねぇ」


 良い人材をスカウトするのに、雇い主である私が出ないというのは良くないのかもしれないけど、こういうの苦手なんだよね。姫って言われるのも未だに慣れないし……。

 でもセバスさんもレオさんも人柄を見極めて集めてくれているみたいだから、しばらくはお任せしてみよう。

 甘えてて申し訳ない。







 傭兵団のレベルアップをするため、魔獣討伐に出ているレオさんはまだ戻らない。

 『姫』である私が塔にいれば『姫の騎士』であるレオさんは移動の魔法陣が使用できるはずなんだけど、さすがに傭兵達を置いて先に帰らないだろうってジャスターさんが苦笑してた。

 早く帰ってきてみたいなことを言った気がして、ちょっと恥ずかしかった。


 そろそろ儀式の日取りが決まる時期に入って、せっかくだからと行軍中の暇つぶしアイテムを探しに私とサラさんは町へと出ることにする。護衛にはキラ君が付いてくれることになった。

 ジャスターさんは遠征に出るための予算の割り振りとか雑務に追われ、セバスさんもそのお手伝いをしている。皆それぞれ忙しそうだ。


「私だけ暇にしているのも申し訳ないなぁ」


「そんなことありませんよ。姫様も儀式の練習やこの世界の勉強をなさってるじゃありませんか」


「たまには休んだ方がいいだろう。ずっと塔の中にこもりっきりだからな」


 しかめっ面のキラ君に言われるけど、引きこもって作業するのは苦じゃないんだよね。むしろ得意な方だ。

 露店に並ぶ珍しいアクセサリーや布を見たり、財布を持つサラさんにお菓子をおねだりしたりと楽しんでいると、以前店員に絡まれた雑貨屋が見える。


「あそこはやめておきましょう」


「でも、あの時の店員じゃないみたいだよ」


「雑貨はあの店だけじゃないだろう。やめておけ」


 特に何かあったわけでもないから大丈夫だろうと思ったけど、過保護な二人は首を縦に振らない。

 その時、通り過ぎる数人の子供の一人が転びそうになるのを、キラ君が素早く抱えてやっているのに思わず拍手。


「ありがとー、おにいちゃん」


「人が多いところで走ると危ないぞ」


 すごいと感心している私だったけど、何かに腕を掴まれ後ろに引っ張られる。

 え? 何?


「姫様!!」


「!?」


 サラさんの叫び声が聞こえたと思ったけど、その姿は見えない。手で目隠しされ、埃っぽく妙な臭いのする布で鼻と口を塞がれる。

 そのまま抱え上げられた私は、馬の蹄の音と振動を感じながら、一人どこかへと移動させられるのだった。



お読みいただき、ありがとうございます。

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