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62、苦手な練習と美麗騎士の提案


 女の子のほうはチコリ。

 男の子のほうはルーク。

 薄いオレンジ色の髪は猫っ毛のふわふわで、お揃いの青を基調とした服は、セバスさんの執事服のミニチュア版みたいですごく可愛い。男の子は膝までの半ズボンで、女の子は膝丈のプリーツスカートになってる。膝って大事。

 

 紹介された時にはすでに制服を着ていたのは、塔に入れた時点で合格は決まったようなものだったからとのこと。それでも一応塔の主人である私と顔合わせして、許可を得るのは必要なことらしい。

 細かいルールが分からないけどセバスさんがいればなんとかなりそうだ。それにしても、なんでセバスさんはこんなに塔について詳しいんだろう……。

 内心首を傾げながら、キラキラした目で私を見ている二人のお子様を見てついニヤニヤしてしまう。


「これ、司書の制服ですか? 可愛いですね」


「塔で創られた制服です。二人には仕事中、この制服を着てもらうことになります。いくつか違う意匠のものがありましたから、あとで春姫様が選ぶのもよろしいかと」


「後で見せてもらうね。えーと、チコちゃんとルーくんって呼んでもいい?」


「はい! チコリはチコです!」

「はい! ルークはルーです!」


 ビシッと手を挙げて答える子供二人に、私だけじゃなくサラさんとセバスさんもメロメロだ! 子供って最強だね!

 二人の両親は塔近くの町で宿屋を経営しているという。両親共々忙しくあまり構ってもらえない二人は、町の図書館に入り浸っているのを何度か見かけたセバスさんがスカウトしたとのこと。

 セバスさんは図書館の司書に塔の書庫を見て欲しかったらしいけど、この二人の存在を見て考えを変えたみたい。


「二人とも本は好きなの?」


「本読むの大好きです!」

「覚えるの大好きです!」


 ふわっと髪を揺らして二人は答える。うん可愛い。

 ニコニコしている私に、セバスさんが仕事内容の説明に入る。


「取り急ぎ、書庫の整理をしてもらいます。目録はありますが、どこに何があるのか整理できていない状態なので。それと……春姫様」


「あ、はい、なんでしょう」


「何か必要な本があれば、整理しながらでも出してもらうことは可能かと思われますが」


 さすがセバスさんだ。では早速、双子ちゃんにお願いしちゃおうかな。


「じゃあ、神王様について書かれているもので『麟』についてなんだけど……」


「町の図書館には無かったです!」

「ここの書庫にはあるかもです!」


「よろしくね」


 気合の入った双子に無理しないように、しばらくはセバスさんが目を配ってくれるみたいでホッとする。ちなみに十歳になる二人は日曜学校に行ってるけど、すでに学ぶことはないくらいに頭が良いんだって。

 朝から夕方まで本に囲まれるって目をキラキラさせているから、子供に働かせるとかどうなんだ?とか悩まなくてもよさそう。給料はしっかりとセバスさんが出してくれるみたいだからお任せだね。







 双子ちゃんのおかげでテンション上がったまま、私はひたすら儀式の曲を練習していく。

 といっても、次がどの曲かは分からないから、過去の四季姫達の記録からアタリをつけて選曲したものだけど。


「ダメだ。ここからが上手く弾けない」


 大きく息を吐くと、目を閉じてゆっくりと首を回す。

 この白と黒の鍵盤が並ぶ楽器は、元の世界で弾いていたピアノとほぼ変わらない造りだと思う。小さい頃から習っていたからそれなりに弾けるからこそ分かる、今の曲が上手くいかない理由。


「指だよね。うん。分かってる」


 例えば右手で「ドレミファソラシド」を弾くとしたら、指は親指、人差し指、中指、親指……という順番にすれば最後は小指で終わる。そういうピアノを弾きやすい指の順番というのがあるのだ。

 私は昔からそれが苦手で、黒い鍵盤も親指で弾いてしまうくらい適当にやってしまうタイプだった。なぜ親指がダメかって、ただ単に弾きづらいからなんだけどね。手指の構造として。


「ここをしっかりしないと、後でミスが多くなるのは分かってるんだけどさー」


 サラさんは別室で仕事をするってことだし、ここは防音設備も整っているから多少の愚痴は許してほしい。

 ブツブツ言いながら楽譜と睨めっこしていた私は、ドアをノックする音に顔を上げる。


「どなたですか?」


「ジャスターです。今よろしいですか?」


 まるで歌うようなジャスターさんの声。思わず立ち上がってドアを開けようとしたけど、なぜか押しても引いても動かない。


「姫君、ここは安全ですが、ドアを開ける前に相手が誰なのかを確認する癖をつけてください」


「は、はい」


 そうだよね。日本にいた時でさえ、宅配便の人(さらに顔見知り)以外は居留守使ってたもんね。

 外にいるキラ君がドアを開けてくれて、ジャスターさんは指でメガネを押し上げながら入ってきた。


「どうです? 儀式の練習は捗ってらっしゃいますか?」


「ちょっと引っかかっているところがありますけど、これはとにかく練習あるのみ!なので、本番までにはなんとかできると思います」


「あまりご無理なさらぬように」


「はい、ありがとうございます。……ところでジャスターさんの用事はなんですか?」


 私が問うと少し迷うように視線を彷徨わせたジャスターさんは、軽く咳ばらいをして口を開く。


「姫君にもお考えがあるとは思うのですが、姫君の騎士をもう少し増やせないかと思いまして……」


「……忙しいですか?」


「いえ、四季を巡らすだけであれば、今のままでも大丈夫ですよ」


 何かが含んだような言い方をするジャスターさんの、綺麗に整った顔を私は真っ直ぐに見る。すると、彼は艶やかに微笑んで、私の目の前まで来ると片膝をついた。


「儀式だけであればよかったのですが、姫君は他にも色々と手を伸ばそうとしてらっしゃる。騎士でなくとも、塔の関係者を増やすでもよいのです。どうかご検討願います」


 なるほど。

 どうやらジャスターさんは、私がただ『四季姫』として安穏と過ごすだけではないと気づいたってことか。まぁ、そりゃ隠してないから気づくのは当たり前なんだけどね。

 それでもまさか『姫』としての仕事以外のことなのに、堂々と役職の立場を使ってしまっていいのかな?


 あれこれ考えていた私だったけど、結構長いこと片膝をついたままのジャスターさんを慌てて立ち上がらせる。


「ジャスターさん、ありがとうございます」


 そうだよね。ゆくゆくは誰の手も借りずに生活していかないとなんだから、今の内に使えるものは使っておこう。




お読みいただき、ありがとうございます。

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