59、眼鏡な騎士の秘密?
キラ君の得意なのは弓術だけど、赤毛騎士君に合わせて木剣で相手をしているみたいだ。
日々、体が大人になっていくという赤毛君は、前回レオさんと試合したときよりもひと回り体が大きくなっていて、木剣のぶつかり合う音が重たく聞こえる。
「キアラン、手を抜いてんじゃねぇぞー」
「手、なんか、抜け、るか!」
電光石火といった速さで打ち込んでいく赤毛君に、隣で見ている夏姫は扇で口元を隠している。でもニヤケているのが横からしっかり見えてますよ。指摘はしない。可愛い夏姫のニヤケ顔は、しっかりと堪能させてもらっちゃう。
押されているキラ君だけど、こっそり見ている私たちに気づいたみたい。思いっきり動揺して赤毛君の一打を受け流すことができず、よろけて尻もちついたところを首すじに木剣を突きつけられてしまった。
「勝者、夏の筆頭騎士!」
レオさんが発する声がお腹に響く。結構ちゃんとした試合だったんだね。
「前回は千剣殿しかおらなんだが、今日は他にもおるのう」
「正式訪問でしたから、夏姫の連れている騎士の数に合わせたんですよ」
「おお、そういえばそうじゃった。今、後ろに控えておる騎士も始めて見るのう」
振り返るとセバスさんとジャスターさんが並んで控えてくれている。銀ぶち眼鏡を指先でくいっと上げると、ジャスターさんはニコリと笑って一礼した。美形の笑顔、ごっつぁんです。
「我が姫君と仲良くしていただき、我ら春の騎士一同感謝しております」
「ほほう、美しいのう。それはエルフの血かの?」
「おや、お気づきですか」
「うぇぇ!? ジャスターさんエルフなんですか!?」
驚く私に、夏姫とジャスターさんは驚いた顔をしている。いやいやおかしいでしょ。私が一番驚くやつでしょ。
「知らなんだか春の君。ここまで人間離れした美しさはエルフ特有かと思うがの……」
「申し訳ございません姫君! てっきりご存知かと!」
うーん、確かに「エルフの血をひいているかも?」みたいなことをサラさんから聞いたことがあるような。
「あれ? でも耳が尖ってないですよね?」
「そこまで濃い血ではないのです。先祖にエルフがいるというだけで……今度会ってみますか?」
「え? ジャスターさんのご先祖様ってまだ生きてて……ああ、エルフって長命だからかな」
「その通りです。少なくとも千年は生きているかと思われます」
思わぬところでジャスターさんの秘密を知ってしまった。本人は隠してないというか、隠しきれないから周知の事実だろうけどね。
それにしても……エルフかぁ……。
私はジャスターさんを見上げて唸っていると、突然耳元で腰が砕けるようなバリトンボイスの攻撃が繰り出された。
「ジャスターばかり見てると、妬くぞ姫さん」
「はぅっ!?」
思わず赤くなる頬を両手で押さえて振り返ると、ニヤリと笑うレオさんと仏頂面のキラ君がいる。赤毛君は夏姫に褒められて嬉しそうだ。
「もう、レオさん驚かさないでください! キラ君お疲れ様!」
「……不甲斐ない」
「馬鹿かお前は。小柄とはいえ夏の筆頭騎士だぞ。そうそう勝てるもんじゃないだろ」
「……筆頭は勝ってただろう」
「ま、俺だからな」
しらっと返すレオさんに、あまり表情を見せないキラ君がふくれっ面になったのが可愛い。うんうん仲よさそうでいい感じだね。
「レオさん、ジャスターさんがエルフの血をひいてるって知らなかったんですけど」
「言ってなかったか?」
「言ってなかったです」
私もキラ君に負けじとふくれっ面をしてみせれば、なぜか色気のある笑みを浮かべたレオさんがいる。
「なんだその可愛い顔は。食われたいのか?」
「ひぇっ!?」
「筆頭は清らかな姫君に対してなんてことを言うんですか。最低です」
「筆頭、最低だな」
「なんだよ! 言うくらいはいいだろう! 手は出してないんだぞ!」
半眼になっているジャスターさんとキラ君に責められているオッサン騎士はさておき、頭を切り替えた私は夏姫に聞きたいことがあったことを思い出す。
「夏姫様、あの……冬姫様と秋姫様ってどういう方かご存知ですか?」
「む、急にどうしたのじゃ?」
「夏姫様のところでも行軍中に魔獣が出たということだったので、他のお二方はどうなのかなと思いまして……」
「ふむ、そうじゃのう……春の君、次の儀式の後になるが、妾は冬の君と会うことになっておる。あの方に春の君も参加して良いか聞いてみよう」
「ありがとうございます!!」
「春の君の描いた絵も見せるといい。我ら姫たちは様々な芸術を尊ぶからのう」
確かに私も音楽や美術が好きだ。人の創り出すものは何でも輝いて見えるから。
さて、冬姫はどういうジャンルが好きなのかなぁ……夏姫の楽しみにしているやつの続きも描きながら、別ジャンルの漫画も描いてみよっと。
ムキムキマッチョ料理長から大量の野菜くずをもらって、ウキウキとピンクウサギたちの元へと向かおうとしたところ、もっているカゴを持っていかれてしまう。
「軽いから大丈夫ですよ」
「そういう問題じゃないだろう。ほら、どこに持って行けばいいんだ?」
「とりあえずは私の部屋です。まだウサギ小屋ができてないので」
「そうか」
「一緒に寝るとあったかいんですよー。セバスさんはあまり良い顔しないんですけど、小屋ができるまでって許してもらったんです」
「……そうか」
なぜか微妙は表情のレオさん。謎の沈黙がしばらく続く中、私はレオさんへのお願い事を思い出す。
「レオさん、騎士さん達の朝訓練なんですけど、それに私が加わることは可能ですか?」
「ん? なんでだ?」
「この前、魔法陣から飛ばされた時に色々あって、動物と話せたり身体能力がすごく上がっていたことに気づいたんです。それで一人になった時でもある程度は身を守る術があった方がいいかなって……思って……」
横にいるレオさんの表情がどんどん険しくなっていくのを見て、どんどん声が小さくなる私。うう、不機嫌そうな美丈夫って怖いんですけど……。
びくびくしている私に気づいたレオさんは表情を柔らげる。
「わかった。とりあえず姫さんがどこまでできるか確認してみよう。それでいいか?」
「はい! ありがとうございます!」
満面の笑みで返す私にレオさんは苦笑している。うむ、イケメンはどんな表情しててもイケメンですな。
よし明日から忙しくなるぞ。
……早く漫画だけ書いて、のんびり生きていきたいなぁ。
お読みいただき、ありがとうございます!
そして活動報告にもありますが、オッサンアイドル電子書籍の配信は7月27日でした。
すみません。(と、担当さんが言ってましたw)




