56、反省する姫と反省すべき騎士
三つ子?というくらいにそっくりな女性三人が目の前に並んでいる。
「では」
「失礼」
「いたしまして」
スリーサイズなんて甘っちょろいものじゃなかった。手の指から足の指まで……そう、指の一本一本までも微に入り細に入り計測される私。
髪の長さも必要なの? え? だって伸びちゃうよ?
「終わり」
「まして」
「ございます」
嵐のような作業に目を回した私は、サラさんに支えられて椅子に腰をかける。ふぉぉ、なんかすごかった。まだフラフラするよ。
「大丈夫か娘、これをやっておけば今後が楽になる。とりあえずこの王都で流行っているデザインの服をいくつか作らせよう」
キラ君が気遣うように私を見る。いやいや大丈夫だよ。昨日はずっと寝てたから、もうすっかり元気いっぱいになったよ。
「キラ君おすすめの店なんでしょ? お任せするよ」
「ここにある見本の服だが、縫製に手を入れるよう言っておこう」
「え? このままでいいよ?」
「娘は体を動かしやすい服を求めているのだろう? このままだと肩まわりがキツくなる。ここに折り目を入れて、脇の部分の布を変えてもらおう」
「そ、そうなの? あ、はい」
正直、流行だのデザインだのは元の世界でも気にしたことはほとんどない。派手じゃなく、シンプルな服ならいいやと適当に選んでいたクチだ。そして友人によく「もっとオシャレをしろ!」と怒られていた。
キラ君の眉間のシワがどんどん深くなる。
「娘……まさか、適当でいいなどと思ってはいないだろうな?」
「そ、そんなこと……」
「ないだろうな?」
「……すみません」
ウェーブのかかった金髪を揺らし盛大なため息を吐くキラ君。うう、ごめんよ。おばちゃんキラキラした世界とは無縁な生活を送ってきたんじゃよ。ごめんよ。
「公式の場での衣装は塔より得られるが、稽古着だとしても『姫』として恥ずかしくないものを身につけねば……娘だけではない、我ら騎士までも品位を落とすことになる。ああ、いや、こちらはどうにでもなるが……」
私が明らかに落ち込んだのを見て、キラ君が慌ててフォローしてくれている。
いや、これは確かに私が悪い。春の姫として私は塔の代表であり、会社でいえば社長のようなものだ。会社のシンボルである社長が貧乏くさい格好していたら、会社の品位を落とすことになるのは当然のことだ。
「キラ君、これからは気をつけるよ。でも流行とかよく分からないから、色々と教えてくれると嬉しい」
「あ、ああ、もちろんだ。任せておけ」
ふんすと気合を入れる私に、キラ君はホッとしたような顔でコクコクと頷く。そこにレオさんとジャスターさんが部屋に入ってくる。
「姫さんお疲れ。可愛い服を作ってもらえそうか?」
「あの仕立て屋は国でも指折りの有名どころですよ。さすが貴族様ですね」
「……元貴族、だ。使えるものは使う」
「ええ、その繋がりは大事にしておいてくださいね。我らの愛すべき姫君のためにも」
「分かってる」
キラ君に向かって、ジャスターさんがメガネの縁を指でクイっと上げる様が黒いです。そして格好いいです。
レオさんは「よくやるよ」と言いながら、並べてある見本の服を物珍しそうに見ている。
「そうそう、移動の魔法陣に不具合はなかったが、ジャスターの『鑑定』でも原因は分からなかった。おそらく俺らの行動の何かが引っかかったとは思うが……」
「神王様の力が干渉した結果のようですが、姫君は一人飛ばされた時に動物以外に何者とも会わなかったのですよね」
「うん。動物と魔獣くらいだよ」
「とりあえず魔法陣じゃなく馬を使って帰ることにする。俺ら三人が交互に姫さんと同乗すればなんとかなるだろう」
「サラさんは? あと、ウサギたちはどうしよう」
「それなんだが……俺らが塔に着くまで、動物はこの屋敷で待っててもらうことになる。塔が受け入れるか分からないからなぁ」
レオさんが紺色の髪をワシワシかきながら、眉を八の字にしてサラさんを見る。モフモフなウサギたちを撫でていた私もサラさんを見る。
そんな私たちを見たサラさんは、ため息を吐いて苦笑した。
「ちゃんと大人しくするように言い聞かせてくださいね、姫様。さすがに人馴れしていないウサギを世話したことはないので」
「ありがとう! サラさん!」
えへへと笑うとウサギたちもモフモフ嬉しそうに揺れている。鳥さんは飛んでついてきてくれるらしい。レオさんが斥候を頼むとか言ってて、鳥さんは早くもやる気を出してピチュピチュ鳴いている。可愛い。
「それよりも、レオさんって動物と話せるわけじゃないのに、意思疎通ができてすごいですね」
「ああ? そんなことしてたか?」
「鳥さんがレオさんに静かにしてろって言われたって……」
「普通に話しただけだぞ?」
「それが通じているのがすごいなって思うんですけど……」
あれ? 私が驚いてるだけで、動物に意思が伝わるって普通のことだったりするのかとジャスターさんを見ると、静かに首を横に振っている。キラ君も同じく、だ。
「筆頭ですからね」
「筆頭だからだろ」
「筆頭騎士様は普段の行いはともかく、そういう非凡な資質を持ってらっしゃいますね」
ジャスターさんとキラ君の投げやりな言葉の後に、サラさんは相変わらず手厳しい評価を下していて、レオさんはガックリと落ち込んでいる。
よしよし、かわいそうに、日頃の行いが悪かったねレオさん。
「俺、今は姫さんに一途なのになぁ」
……そういうところだぞ、レオさん。
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