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55、モフモフ寝する姫

遅くなりまして……


 ふと目を開ける。右を見ればピンクのモフモフウサギがひしめき合い、左を見れば青いおまんじゅうみたいなお腹をした鳥が、置物のようにじっとしている。


『ピピッ? おきた?』


「ん、おはよう青い鳥さん。そしてピンクのモフモフたちよ」


 ウサギたちは無言で顔に体を擦り寄せてくる。モフモフが心地よい。


『ピチュ、もうおひる。しずかにしてた。つよいのおこる』


 鳥さんは朝鳴くのがお仕事なのにねぇ……てゆかレオさん、動物と言葉は通じないけど意思疎通は出来るんだね。そして「つよいの」というのは動物内?での共通認識なのかな。アサギも言ってたし。


 昨日はレオさんが魔獣を瞬殺した後、キラ君が馬たちを『支援』してくれてすごく速く王都へ入ることができた。何やらやたら豪奢なお屋敷に着くと、泥だらけの私をサラさんが泣きながら抱きしめてくれて思わず涙ぐんでしまった。お風呂もご飯も用意してくれていたサラさん。いっぱいありがとうを言ったけど、その度に「姫様が生きていてくださることがサラは一番嬉しいですよ」と返してくれた。

 アサギは私がお風呂に入れたんだけど、ピンクのモフモフウサギたちはなぜかキラ君が洗ってあげたらしい。ウサギたちを抱いて部屋に来たキラ君の顔は真っ青だった。


「こんなに大人しくて可愛いのに、怖がるなんて変なの」


 布団の中で思い出し笑いしていたら、枕元にぽふんと軽い何かが乗っかる。青と緑のグラデーションの体を撫でてやると、嬉しそうにキュキュッと鳴いた。


『ハナ、起きたの?』


「おはようアサギ。体は大丈夫?」


『アサギはハナが元気なら元気だよ』


「よかった。そうそう、この子たちついてきちゃったんだけど……」


 鳥さんは自由に出たり入ったりしているようだからいいんだけど、モフモフウサギは私の側から動かない。あと集まっているから何羽いるか分からないけど、この子たちはどうやら集団で行動するみたいだ。


「うーん……」


 真っ白なシーツにふかふかなベッド、屋根のある天井は私の心を安心させた。あの短いサバイバル生活のおかげで日常のありがたみをしみじみ感じるなぁ。


「とりあえずレオさんに塔に連れて帰りたいって言ってみよう」


 こういうのが「捨て動物を拾って親に飼いたいとお願いする」というやつか。初体験だ。ドキドキする。

 しばらく動物たちとモフモフしていたら、サラさんが朝食をワゴンに載せて持って来てくれた。慌てて着替えようとしたけど、今日は一日寝ているように言われてしまう。


「恩寵のおかげで、かすり傷とかすぐ治っちゃうし元気だよ?」


「体は良くても心は違いますよ。姫様は塔では休みなく行動しておられますから、たまには休まないと」


「塔でものんびりやってると思ってたけど……」


「毎日儀式の練習、この世界についての勉強、町へ行けば市場の調査やら何やらで休んでいないじゃないですか」


 そう言われると毎日休みなく働いているように聞こえるけど、やってる内容は大したことないからなぁ。なぜか周りから高評価なのは外見が幼く見えるからだろうか……。


「とにかく午前中だけでも大人しくしていてください。明日は仕立て屋が来る予定ですが、急いだところで塔へはまだ戻れませんから」


「そうなの?」


「今回は移動の魔法陣を使って姫様が大変なことになりましたから、帰りをどうするか騎士様たちが考えておられます。使った魔法陣は正規の店から購入したものですが、それに不具合がなかったかの調査もするそうですよ」


「おおごとになっちゃったなぁ……」


「当たり前です! 四季姫様の尊い御身に何かあれば、神王様のお怒りにふれます!」


 そうなんだよね、この世界って神罰が存在するんだって。それが神王の繋がりに触れると発動するのは分かっているらしいんだけど、いつどこどのタイミングで神罰が下るのかは分かっていないみたい。

 怖いなぁとベッドの上にいるモフモフウサギの毛をひとつまみして引っ張って遊んでいたら、その毛がそのまま綿菓子のようにフワンと取れてしまう。


「あ、あれ!? 取れちゃった!?」


『いつもとれる』

『きにすんな』


「え? そうなの?」


 まぁ、これだけモフモフしていたら多少毛が抜けても気にならなそうだけど……と、サラさんが驚いた顔で見ている。


「アンゴラウスベニウサギの希少な毛が、あっさりと手に入るなんて……」


「この毛って何に使うの?」


「髪飾りやブローチなどの装飾品に使われています。幸運のお守りとして売られることもありますね」


 ほほう。ということは、塔で飼えるなら抜け毛が毎日手に入るってことだよね。

 快適モフモフライフを目指したい私は、回転の良くなった脳みそをぐるぐるさせながら焼きたてのパンにかぶりついた。







「おい、姫さんの体調は大丈夫なんだよな」


「食事も問題なくとっていたとサラ殿から聞いています。疲れが出ているだけでしょう」


「……おひとりで、さぞかし心細かっただろう」


 ふわりと意識が浮上すると、レオさんたちの気配がする。ああ、大丈夫。ここは安全なところだ。

 いつのまにか寝ていたみたいで、サラさんが休むように言った意味が分かる。目が開かないし、体が眠りを欲している感じがする。


「それで、動物と話せるっていうのは? 恩寵としてどうなんだ?」


「歴代の春姫の記録を辿りましたが、言葉が通じないというのが普通だったので何とも……」


「とある貴族の元に下った姫もいたようだが、植物の成長を促す恩寵で、特別変わったものではなかったとある」


「そうか……」


 レオさんたちに助けられた後、馬たちと話して状態を教えたりしたらすごく驚かれたもんなぁ。

 ふわりと頭に感じるあたたかさと、優しく撫でる大きな手。


「すぐに見つけてやれなくて、悪かった」


 震えながら低く響くその声に、そんな事ないよって言いたい。迎えに来てくれてありがとうって言いたい。

 でも眠くて眠くて……。

 ゆっくりと撫でるあたたかいその手に誘われるように、再び私の意識は沈んでいった。




お読みいただき、ありがとうございます。

締め切りとリンパの腫れで更新が遅くなりました。

回復したので大丈夫です。

皆様もこの時期、体調には注意してくださいませ。(もちだが言うなって話ですが…)

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