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54、姫とモフモフ危機一髪

遅くなりましたー。



 地鳴りと一緒に地面が何度も揺れる。土埃で見えないけど、何か大きな物が追ってくるのが分かる。分かってしまう。


「うおおおおおおお!! 身体能力強化先生がんばってええええええ!!」


 ポンチョのフードに納まっているアサギの体温を感じながら、私は陸上選手もかくやという勢いで全力疾走をしている。魔獣らしき気配を感じても振り向けない。見たらダメだと脳内の警鐘に従う。

 ちょっと姫らしくない叫び声をあげているけど、許してほしい。今は清らかな乙女とか言ってる場合ではないのだ。


 一気に魔獣を引き離した私は、鳥さんの誘導に従って木のウロに飛び込む。


「はぁ……アサギの体重が羽毛みたいなもので助かったわ」


『ピチュピッ! ちょっとだけきゅうけい!』


「了解っと」


 どうやらかの魔獣は、私の足音を追いかけているみたいだ。急かす鳥の言う通りに移動しようと立ち上がったけど、なぜか違和感がある。

 音で追いかけてくると聞いたのに、なぜか地響きが遠ざかっていく気がするんだけど……。


『ピピッ! さぁ、いまのうちに!』


「今の内にって……?」


 ウロから出た私は、そのままするする木に登ると土煙の見える方向に視力を強化させていく。


「確かに魔獣はこっちに向かってないみたいね。でも、何かを追いかけている? 動物、かな?」


 どこまで視力が上がるのかと動いている生き物をターゲットにして見てみれば、薄桃色のもふもふした何かが数羽、転がるように走っているのが見える。


「さっき見たピンクウサギ!?」


 確かあの時、集まった動物達は真っ先に逃げ出したはずだ。彼らは魔獣のいる場所に近付くことはないというのに、なぜまだあんな所にいるのか……。

 なぜか分かった。魔獣に追いかけられているモフモフウサギ達は、さっき私を温めてくれた子達だって。


『ピチュチュ! ひめこっち! はやくにげるの!』


「……ごめん、鳥さん。私なら大丈夫だから先に逃げて」


 本当はダメだってことは分かっているんだ。ダメだって分かっているけど、私にはあのウサギ達を犠牲にして逃げることが出来ない。

 大丈夫。私にはできる。


「私の身体能力強化を、なめてもらっちゃ困る!」


 登ってきた木を思いきり足で揺すり大きくしならせると、そのまま魔獣のいる方向へと大きくジャンプする。


「どっせーーーーーーい!!」


 再び乙女らしからぬ気合いの入った声を出し、私は何度か空中で回転しながらもふわりと着地すると同時に、強く地面を蹴る。蹴る。蹴って走る。

 みるみるうちに土煙が近づきそのまま魔獣の前に回り込もうとしたところで、懸命に走るピンクのウサギ達の一羽が力尽きたのか地面を転がって動かなくなる。

 それを狙っていたのか、地面から魔獣が突き上げてくる前の地響きがウサギを揺らす。


「させるかああああああ!!」


 ブーツの底を擦り減らすようにブレーキをかけて、ウサギの元へ逆走する私はモフモフを手にしたと同時に、地面からの突き上げで体を空へ向かって飛ばされる。


「またなのおおおおおお!?」


 それでも着地は出来るだろうと下に目をやると、なんとそこには巨大な……ミミズ。何ともいえないその姿形に鳥肌をたててると、なんと頭のつるっとした部分に切れ目が入り、びっしりと生えた鋭い牙が覗く。


「ひぃっ!?」


 飛ばされて上がりきったところで、そのまま私は落ちていく。

 巨大ミミズの凶悪な口が大きく開き、そこに見えるのはまるで内臓のようなウネウネした何かが……


「視力を強化したままだったああああ!! いやああああああ!!」


 そのまま落ちたらミミズにぱっくりいただかれるというところで、何かを感じる。

 うん。どうりで冷静でいられると思った。


「押し流せ『鉄壁』!」


「守る盾である『鉄壁』を『支援』せよ!」


 頭の部分だけでも相当な大きさである巨大ミミズが、透明な壁に押し出されていく。これで私の落下地点には何も……。


「姫さん!!」


「うえぇ!? ちょ、レオさん!? なんでそこに……どいてえええええ!?」


 ピンクのモフモフを胸に抱いたまま、叫んでも下で待つレオさんは微動だにしない。

 いや、ちょっと! マジでぶつかるから!


「ん? あれ?」


 ふわん、ふわんと、何かに包まれた感覚がしたと思ったら、最後にふんわりと温かな青に包まれた。


「レオさんの匂い……」


「匂いだけでいいのか?」


 すっぽりと包まった青色のマントから顔を出すと、私を横抱きにして泣きそうな笑みを浮かべるレオさんがいた。


「おかえり姫さん。随分とやんちゃしてたみたいだな」


「ただいまレオさん」


「筆頭、アレをさっさと始末してきてください。弱点は頭と胴体の節目ですよ」


 レオさんが「すぐもどるから、姫さんを頼む」と近所に行くみたいな言い方で私をジャスターさんに預ける。微笑むジャスターさんに横抱きにされる私です。ええと、歩けるよ?


「おかえりなさいませ、我が麗しの姫君。もう大丈夫ですよ」


「ただいまジャスターさん」


「娘、無事で良かった」


「キラ君も、ただいま」


「……屋敷で風呂に入れてもらえ」


 にへらと笑ったら、キラ君がムッとしたようにそっぽ向いてしまった。うう、地面とか転がったから汚れてるよね。お恥ずかしいです。


「おや、キアラン君は照れ隠しで我が姫君を落ち込ませるとか、まだまだ新人のしごきが足りなかったのでしょうか」


「なっ!? あ、いや、そういうことではなく!」


「ほほう、覚悟はできてんだろうなぁ?」


「倒すの早っ!? いや、ちょっと待ってくれ筆頭……」


「待てないなぁ」


 良い笑顔の先輩騎士二人に詰め寄られたキラ君は涙目だ。そんな日常を感じさせる三人に、私は知らず強張っていた体から力が抜けるのを感じる。

 私ってこんなに緊張してたんだな……って、お腹あたりがモフモフ動くのを感じる。


「そうだ! ピンクウサギが!」


「ん? こりゃ珍しいな。アンゴラウスベニウサギだ」


「アンゴラウス?」


「アンゴラウスベニウサギですよ。とても警戒心が強い動物で、その毛には希少価値がありますね。生きてる状態のがここまで懐くとはさすが姫君ですね」


 このモフモフはそんなすごいものだったのかと、そっとマントの中を覗くと薄いピンクの毛の中からつぶらな赤い目がうるうるしている。いやいや大丈夫だよ! 君のことは私が守るよ!


「うわ!? な、なんだ!?」


「俺の『鉄壁』を抜けてきたってことは、敵じゃないから落ち着け」


 ジャスターさんに頼んで地面におろしてもらうと、ピンクのモフモフがモフモフと私の足元に集まる。腕に抱いてたモフモフを置いてやると、仲間とモフモフ嬉しそうだ。

 良かった。良かったね。


お読みいただき、ありがとうございます!

すみません、オッサンアイドルの書籍化作業でバタバタしております。

1個目の締め切り終わったので、しばらくは連載書けそうです。

よろしくおねがいします。


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