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閑話、ジャスターは観察する(塔の関係者は動揺する)



「姫様……?」


 家具も何もない殺風景な部屋の真ん中で、呆然と座り込むサラの小さな声がやけに響きます。


 その瞬間をどう表現すればよいのでしょうか。

 移動先はキアランの所有する、王都にある屋敷の一室であるはずでした。魔法陣の光が消えると、部屋が凍りつくと思われるほどの殺気が後ろから溢れたのです。

 原因は言わずもがな、我らの命より大切な姫君の喪失……もちろん自分もすぐ分かりました。姫君の不在を認識する前に、身体の一部を抉り取られたような痛みが襲いかかってきましたから。

 

 声も出せないほどの痛みを堪えていた自分とは違い、筆頭の動きは誰よりも早くありました。

 普段の行いはともかく、やはりこの人はすごいと素直に思います。


「おい、新人……どういうことだ?」


「な、何が……」


「何が、じゃねぇ。お前、姫さんに何をした?」


 自分は瞬時に持っている恩寵『鑑定』を魔法陣に向けて使用します。本来『鑑定』とは物に対して行うのですが、我らの春の姫君はその常識を覆す強さの恩寵を与えてくれました。


「筆頭、新人君のせいではないようですよ。魔法陣を『鑑定』したところ『力の干渉により誤作動』と出ています」


「ああ? どういうことだ?」


「殺気を抑えてください。新人君が倒れそうです」


「チッ……」


 舌打ちをするレオに「行儀が悪いと姫君に嫌われますよ」と言うと、すぐに背すじを伸ばして態勢を整えます。キリッとしていれば格好良いのにと思いながら、自分の見解を伝えます。


「知っての通り、自分の『鑑定』で出た『力の干渉』という部分ですが、そこをさらに詳しく知ろうとしても出てこないのをみると並みの力ではないと思われます」


「まさか……」


「ええ、神王様か……もしくはそれに連なる何かの力により、姫君は移動の魔法陣から放り出されたことになります」


「おい、なんでだ!! 神王は四季姫を守っているんじゃないのか!!」


「そうです。守ろうとした。そして干渉したのではないかと」


「……姫さんの気配が感じられないとか、初めてだ。くそっ!!」


 いつになく口調が荒々しいレオの気持ちは分かります。それでも、自分は冷静である必要があると懸命に状況を整理しながら、何か取っ掛かりがあればとキアランを見てふと気づきました。


「新人君、自分に『支援』をお願いします」


「ど、どういう『支援』なのだ? 具体的に支援する内容が分かった方が、より強い『支援』が発動できる」


「なるほど。それではこの王都に姫君がいるのか自分が『鑑定』するので、それを『支援』して範囲を広くしてもらえますか?」


「分かった」


 思った通り王都には姫君はいません。そうなると……。


「筆頭、姫君の気配とおっしゃってましたが、いつも塔では姫君の位置を把握していたのですか?」


「そりゃもちろん、姫さんがいつどこにいるのか把握しておかないと、守れないだろうが」


「なるほど……」


 確かに自分も姫君の行動を把握していましたが、それは推理や憶測によるものであって気配を察知していたわけではありません。なんというかレオの野生というか本能というか、恐ろしいものがありますね。

 ですが、今はそんな細かいことを言ってる場合ではありません。


「新人君、筆頭の気配察知する力を『支援』できますか?」


「やってみよう」


 未だ青ざめた顔のキアランは、必死に恩寵を力をレオに注いでいきます。


「北の方に何か感じる」


「大森林の方向ですね。これはまた危険な場所に……」


「危険な魔獣が多くいる所ではないか! 助けねば!」


「落ち着け。方向さえ分かれば何とかなる。姫さんには『麟』のアサギがいたよな?」


「移動する前、姫様はアサギ様を抱いておりました」


 ゆっくりと立ち上がったサラが言葉を発します。先程とは違い目に光が入っていますから、ここに一人で残しても大丈夫でしょう。


「森の中にいた場合、姫君は大変苦労をされていることでしょうね」


「分かっております。私はここで姫様を受け入れる準備をしております。騎士の方々は姫様をお迎えに行ってください」


「頼みます。キアラン、この屋敷に馬はいますか?」


「え? あ、ああ、馬車用に四頭はいるはずだ」


「悪い、借りるぞキアラン」


「先に馬番に伝えてくるっ」


 自分と筆頭に名前で呼ばれたことに戸惑うようなキアランは、少し頬を染めて部屋を出て行きました。

 なんでしょう。やけに可愛い反応をしますね。


「新人呼びなんて甘っちょろいことは終わりだ。こき使ってやる」


「ふふ、素直じゃないですね。それほどまで『支援』は使えましたが」


「そもそも姫さんからの恩寵は、おかしいくらいに有能だからな。使えないわけがない」


「確かに」


 キアランの屋敷にいる使用人を早くも取り込むサラに留守を頼み、自分たちは馬を駆って王都の北門へ向かいます。人通りの少ない時間帯であることが幸いし、短い時間で門に辿り着きます。


「携帯食料と水は三日分あります。なんとかこれで見つけましょう!」


「三日もかけるかよ!!」


「あの方の気配とやらは、まだ感じるのか!?」


「門を出たらまた『支援』をかけろ!!」


「了解した!!」


 馬を走らせながらキアランは何かを取り出し門に向けると、それに気づいたのか門番が急いで門の前にいる人々を避けさせる。


「貴族の紋章ですか」


「緊急時ということで、今だけ家名を使わせてもらった」


「良い判断です」


 王都から外に出た自分たちは、そのまま夜通し馬を走らせました。

 さすがに明け方頃、馬が限界となり仮眠をとることにしたのですが、目を閉じているだけで眠ることはありません。身体が、欠けた部分を求めているのが分かります。

 きっとこれが『姫』と『騎士』の繋がりなのでしょう。


「姫君の気配はどうです?」


「方向は合っている。キアラン『支援』による負担は?」


「ない。まだいける」


「かけ続けろ」


「分かった」


 どうせ寝られないのだろうとレオは無茶なことを言います。対するキアランも日々の鍛錬の成果が出ているようで、少しやつれたように見えますが気力までは失ってはいないようです。


 その数分後、遠くに見える森から何かの唸り声が聞こえたと思うと、大きな地響きに思わず立ち上がった我らは、目の前に広がる土煙に表情を曇らせました。

 これは『鑑定』をせずとも分かるでしょう。レオの冷やりとした殺気が再び漏れて、キアランが顔を引きつらせています。


「魔獣……土蛇型の魔獣か……こんな時に……」


 そう呟いたレオは、ハッとしたように何かに気づき空を見上げます。


「姫さん!!」



お読みいただき、ありがとうございます。

活動報告でもお知らせしましたが、7月21日なろうラジオに出ることになりましたー。

よろしくです。です。

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