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47、赤と夜の決闘?


 呆然とする夏姫と私。そして熱血キャラといった夏姫の筆頭騎士の炎のようなオーラは、一点集中でレオさんに向けられている。

 しかしその熱い何かを物ともせず、レオさんはやれやれと小さく息を吐いた。


「何を言ってるんだ。筆頭の座はそんな軽いものじゃないだろう」


「千剣と闘えるのならば、軽くもなります」


「ま、まて! 負けた場合、お主は『夏姫』である妾の筆頭騎士の座を降りても良いと言うのか!」


「……申し訳ございません。夏姫様」


 謝るだけの熱血美少年騎士だけど、それは夏姫の言葉を肯定するものだろう。ぐっと声を詰まらせる夏姫が可哀想で、私は助けを求めるようにレオさんを見る。

 紺色の髪を掻き上げながら困った顔をしたレオさんだったけど、何かを決意するように頷いた。


「よし、その条件で決闘しようか」


「レオさん!?」


「姫さん、彼には何か理由がありそうだ。悪いようにはしないからこのまま俺に任せてくれ」


 大きな体を折りたたむようにして私の耳元でそっと囁くレオさん。

 それならば大丈夫かなとホッとしたけど、軽く耳を撫でて離れるのはセクハラだと思います! ドキドキしたっつの!







 いつも騎士たちが鍛錬に使っている場所は塔の中にある。

 そこには様々な器具が置いてあって、元の世界で言う所のスポーツジムのような部屋だ。手合わせするためのスペースもあって、いつもキラ君がレオさんとジャスターさんに揉まれてボロボロになっている場所がここだ。

 頑張れキラ君。ボロボロでもキラキラだから大丈夫だよ。


「夏姫様の筆頭殿、騎士同士では恩寵が使えないことは知っているな?」


「はい。己の技のみですね」


「……分かっているならいいけどな」


 二人は木剣を持つと広場の真ん中に立った。レオさんはだらりと無造作に構え、美少年は正眼にしっかりと構える。

 審判はいない。お互いがお互いを判定するらしい。


「なぜ、なぜこんなことに……」


 涙目になっている夏姫は可憐だ。赤い着物の袖を口元に当てて、ぷるぷる震えているのが庇護欲をそそりまくる。おのれ赤毛美少年、可愛い姫を怖がらせるとは許すまじ。


「しかし千剣の剣技を見ることが出来るとは……帰ったら母様に自慢できるのじゃ」


 ……怖がってないみたいで、何よりです。

 それでも自分の騎士が筆頭の座を辞するという発言はショックだったみたいで、悲しげに眉を寄せている。やはり赤毛美少年許すまじ。二回言った。

 そんな彼に向けて、レオさんは指をクイクイッと自分に向けてみせた。


「先手は譲ってやるよ」


「では、遠慮なくいきます」


 瞬間、赤い線が走ったのが見えてガツンと木剣同士のぶつかる音が辺りに響き渡る。

 ビリビリっとした空気の圧を感じた私は、目を閉じそうになるのを必死に我慢していた。怖いけど見守ることが『姫』として大事なんじゃないかって思ったから。


「へぇ、強いな」


「さすが、ですね!」


 そのままガツンガツンと剣を合わせる二人だけど、すでに決定的な差が生まれていた。赤毛美少年が両手で剣を持っているのに対しレオさんは片手で軽々と受けている。


「ここまでの差があるとはのう。奴は騎士の中でも一位二位を争う実力を持っておるというに……」


「まぁ、レオさんは傭兵でしたからね。騎士の中にはいませんから」


「それなのじゃ春の君よ。なぜ傭兵から騎士をとろうと?」


「騎士になろうとする人がいなかったからですよ。騎士学校の生徒は子供すぎて無理ですし」


「春の君も、彼らとそう変わらぬだろう」


 夏姫は呆れたようにため息を吐いている。何度も言うけど私の中身は三十代半ばですよ。しつこく言いますよ。

 

 そんな話をしている間にも打ち合いは続いている。

 息を切らしつつ何度も斬りかかってくる赤毛美少年の剣を、とうとうレオさんは受けずに流した。背中を見せたレオさんにチャンスとばかりに攻撃を仕掛けた彼は、そのまま吹っ飛ばされる。


「剣ばかり見てるからだ」


 隙があると見せかけ、逆に回し蹴りで仕留めたレオさん。おおう、これを毎回キラ君もされてるのか。ボロボロになるわけだね。


「ぐっ……なぜ……」


「俺に剣で勝とうなんざ十年は早いな。その体型も不利だ。もっとデカくなってから来い」


「それでは……遅いのです……」


「どういうことだ?」


「この決闘がなくとも、筆頭を降りることになるのですから」


「ええ!?」


「なんじゃと!?」


 あれ? 夏姫も驚いてるけど、どういうこと?

 夏の象徴である赤い騎士服の乱れを整え、赤毛美少年は申し訳なさそうな表情でポツポツと話し出す。


「この尖った耳から察してらっしゃるとは思いますが、私はとある種族の血が混ざっているのです」


「それがどうした? 騎士になるのに種族は関係ないだろう?」


「確かにそうなのですが……私の場合、巨人族の血が濃く出てしまいまして……」


 ションボリと項垂れる彼を、レオさんと私は首を傾げて見ている。ただ夏姫だけ何かを感じ取ったようだ。


「まさか、巨人族特有の成長期を?」


「その通りです夏姫様。古の巨人族のような大きさではないでしょうが、これから一年後にはレオ殿くらいの成長はすると思われます」


「あの、それのどこがダメなんですか?」


 大きくなれば今より強くなれるのに、何がダメなのか分からない。思わず口を挟んでしまう私。


「夏姫様の騎士達全員が夏姫様の伴侶候補です。美しい少年を揃え、夏姫様と並んでもおかしくないよう選ばれました」


「つまり、夏姫様の理想である美少年の外見ではなくなるから、手っ取り早く決闘で負けて筆頭の座を降りようとしたんですか?」


「すみません! 夏姫様に嫌われるくらいなら、離れてしまいたかったのです!」


 四季姫の騎士同士の決闘では命のやり取りをしない。それでも神聖なものであるから、軽々しく行うものではないとのことだ。


「愚か者! このようなことをせず妾に相談すれば良いものを!」


「まぁ、彼も追い詰められていたんでしょう。許しては?」


「麗しき夜の騎士殿、すまぬ」


「……その呼び方は勘弁してください」


 ガックリとうなだれるレオさんはともかく、私は気になることを聞いてしまう。


「それで夏姫様、筆頭の彼はそのままで良いということですか?」


「もちろんじゃ!」


「好みの美少年じゃなくても?」


「もちろんじゃ!」


「むしろそっちの方が好みとか?」


「もちろんじゃ! ……あっ」


 ほーら、やっぱりね。同じ匂い?がしたと思ったんだよね。

 アワアワしている夏姫がめちゃくちゃ可愛いとニヤニヤしてたら、レオさんが微妙な表情で私を見る。

 可愛いは正義なんだからしょうがないと思うよ。うん。



お読みいただき、ありがとうございます。

ちょっとバタバタしてますので、ゆっくり更新になります。

変わらずご愛顧をよろしくお願いします。

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