46、姫同士のお茶会
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大所帯で来るのかと思った夏姫たちは、思ったよりも少ない人数で塔に来ていた。しかも馬車はシンプルなもので紋章も何も入っていない。
「どうやら公式ではなく、お忍びで来られたようですね」
「騎士は馬車にいるのか?」
塔の前に立つのはセバスさんとレオさん、その少し後ろに私が立っている。ジャスターさんとキラ君は塔の中に控えている状態だ。
何かを警戒しているわけではなくて、夏姫の連れている騎士の数と合わせようとしているだけだ。
馬車から降りて来たのは、鮮やかな赤の着物を身に纏った黒髪の美少女だ。陽の光で青みがかっているのが分かる。
目立つ。ものすごく目立つ美少女。事前にサラさんが磨きまくった私は突貫工事(化粧)でなんとか見られるようになっているけど、彼女は本物だ。
それにしても若い……というか、小学生くらい? 事前に話を聞いていたけど驚きだよ。これで成人してるんだって言うんだもん。
続けて降りてきたのは、夏姫の筆頭騎士である赤毛の美少年だ。少し耳が尖って見えるけど、もしかしてこの世界特有の種族だったりするのかしら?
「お初にお目にかかる。妾が今代の夏姫じゃ」
「今代の春姫です。ようこそ春の塔へ」
心の中で叫びたいのを必死に抑える私。
だって、だってさ、のじゃロリだよ? 夏姫じゃって、じゃって言ったよ?
そうそう、四季姫は名前じゃなくて『◯◯姫』と名乗るそうだ。ちょっと寂しい。
セバスさんの誘導で塔の中にある応接室へと向かう私たち。
夏姫が筆頭騎士しか連れてきてないからジャスターさんとキラ君の出番はない。見送る彼らの視線を背中に受けつつ、私は精一杯背筋を伸ばして歩く。
春の季節に咲き乱れる色とりどりの花で飾られた応接室。今日の舞台となるこの場所で私とレオさん、夏姫と筆頭騎士はお互い顔を見合わせていた。
「あの……」
「なんじゃ?」
「なぜ、そんなに見るのです?」
「見たいからじゃ」
見合わせているというよりも、夏姫が一方的に見ている状態だ。
主にレオさんを。
「夏姫様、あの、お茶はどうですか?」
「今はいらぬ」
「そう、ですか……」
夏姫は目を爛々と輝かせ、レオさんに穴が空いてしまうのではないかというくらい、ひたすらじっくりと見ていた。そして大きく息を吐くと、満足げに一言呟いた。
「この男が『千剣使いの夜色の騎士』であるか。さすがなのじゃ」
その瞬間、部屋の外から「ブッフォ!」と何か吹き出す音が聞こえたけど、同時にレオさんも思いきり咽せている。
明らかにダメージをくらっているであろう筆頭騎士は放っておくとして、私はその派手な二つ名に食いつく。
「夏姫様、その千剣って何ですか?」
「おや、春の君は知らぬのか? 母様が言うておったぞ。この近くの町の傭兵団長は歴代最強の騎士『千剣使い』であると。夜色の髪をなびかせ、千の剣はその美しき顔を映し煌めかせる麗しの騎士であったのじゃぞ」
「だぁー!! やめてくれー!! なんでそんなこと知ってるんだよ!!」
「妾の国は小さい。侵略されぬよう常に世界中で情報収集をしておるのじゃ。その中核を担っておるのが妾の生家でのう……安心せい、収集するだけで広めることはしておらぬ」
夏姫の前だというのに、レオさんは取り繕うこともせずにガックリと項垂れている。そんなに落ち込まなくても……格好いいよ? 美しき夜色の騎士……とか……ブッフォ。
「姫さん、肩が揺れてるぞ」
「ご、ごめんなさい、つい……ぷくくっ」
さらに花が咲き乱れる恩寵とか知れ渡ったら、もっとすごいことになりそうだね!
笑いが止まらない私を恨めしげに見ているレオさんだけど、しょうがないなと苦笑してる。うう、なんかその顔するの格好良くてずるい。
「睦まじいのう。春の君は年上の男が好きなのかえ?」
「あー、いや、そういうわけでは……私の所にはそもそも、騎士になろうとする人が来なかったもので……」
「来なかった、とな?」
夏姫は驚いたのか、大きな目をパチクリさせている。長い睫毛が揺れて可愛らしいなと見惚れていた私は、夏姫の横に控えている筆頭騎士の美少年も眩しげに目を細めているのに気づく。
こ、これは!! これこそが『姫と騎士』の王道なやつでは!?
本来、姫に仕える騎士たちは、将来の結婚相手にもなるって説明されていた。ということは、この二人もいずれは……。
「夏姫様は、やはり同年代の方がよろしいのでしょう?」
「う、うむ。そうじゃの。もちろんじゃ」
横に立つ美少年がピクリと反応したのが分かった。
なぜか少し慌てた様子の夏姫に重ねて問おうとした時、ドアをノックする音と一緒にセバスさんが部屋に入ってくる。
「失礼いたします。お茶のご用意をいたしましたが」
「お願いします。……夏姫様、うちのセバスのお茶は絶品なんですよ。ぜひどうぞ」
「うむ。いただこう」
微笑む夏姫の愛らしさにクラクラしながらも、モーリスさん渾身のフルーツタルトと一緒に美味しいお茶を楽しむ。本来は同席しないらしいんだけど、私が少し強引に騎士二人を席に座らせた。
「ふむ。こういうのも良いものじゃの」
「一緒にご飯とか食べないんですか?」
「姫であれば、同列のものが居らぬ限り一人で食事をとるものじゃ」
「そうなんですね。私は異界から来た人間なので、作法とかまだ慣れてなくて……」
「……あの!!」
突然会話に割って入ったのは、夏姫の筆頭騎士である美少年だ。レオさんが少し動いたのを私が手で制する。
「どうかしましたか? 夏姫様の筆頭騎士殿」
「そちらの、筆頭騎士殿にお願いが!!」
勢いよく立ち上がった彼は、その赤毛の頭をテーブルにぶつけそうなくらいに深々と下げる。
私がレオさんに目線を送ると、心得たというようにゆっくりと立ち上がって低い声を響かせるように問いかける。
「願う内容にもよるが、春姫様が許せば応えよう」
レオさんの言葉に顔を上げた赤毛の騎士は、キリリとした目でこちらを見る。
「決闘をお願いしたい!!」
「何を対価とする?」
「もし負ければ、己の筆頭騎士の座を捧げます!!」
「なっ!?」
「ええっ!?」
「なんじゃとっ!?」
驚く私とレオさんと、さらに夏姫も驚いていた。
一体どういうことなの???
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