41、真実が一つとは限らない
お嬢さんたちの狂乱は、ジャスターさんがうまくおさめてくれた。メガネをとり本気を出した彼は無敵かもしれない。騒ぎを聞きつけた教師が慌ててお嬢さんたちを回収していったけど、あの肉食系乙女パワーはすごかった。
姫学校の教本を無事ゲットした私たちは馬車で塔に帰ることにした。できれば学校見学とかしたかったけど、レオさんとジャスターさんがいると目立つんだよね。青の騎士服のせいだけじゃないんだよね。やれやれ。
「あの年代は苦手なんだ……」
「まったく筆頭は、多くの女性との付き合いがありましたのに情けない」
「いやいや、付き合いといってもそういうんじゃないからな?」
「レオさん……」
「姫さん? い、いや、だから違う! 姫さん違うんだ!」
慌てるレオさんを見ながら、いけないいけないと心の中で自分に言い聞かせる私。だって、色々サラさんから話を聞いた上で、レオさんには筆頭騎士になってもらったんだから……。
「ごめんなさいレオさん。どんなレオさんでも……女の人たちといっぱい遊んでても、騎士になってほしいってお願いしたのは私からなのに、ね」
「姫さん!?」
寂しそうに言いながらも精一杯の笑顔をみせる(ちょっとだけ演技する)私を見て、ひどく傷ついた表情をするレオさん。ごめんごめん、ちょっと言ってみただけなんだよー?
「筆頭、日頃の行いのせいというか、自業自得というか、残念な感じになってますね」
「俺は姫さんに、遊び人だと思われていたのか……」
え、逆に私にどう思われたいのかを知りたいんですけど。ほら、サラさんがチベットスナギツネみたいな目でレオさんを見ているよ。
「レオ様は凄腕の傭兵として有名でしたが、常に女性との噂が流れていました……と、姫様にはお話ししています」
「サラ殿、清らかな姫君にお話しする内容では……」
「変に取り繕う訳にはいきませんでしたから」
ツンとした感じのサラさん。レオさんに対する心象はなかなか改善されないようだ。ジャスターさんは苦笑しながらも、落ち込むレオさんに変わって説明してくれる。
「筆頭は傭兵団長をしていましたが、国の騎士にも顔が広いんですよ。最初は傭兵団員の恋愛相談にのっていただけなのですが、そこから多くの団員や適齢期の女性からの相談を受けているうちに、なぜかレオ団長と付き合うと幸せになれる……という噂が広まりまして」
「じゃあ、さっきのお嬢さんたちはレオさんに男性を紹介してもらおうと?」
「いえ、先程『鑑定』も使っていましたが、あの中の数人は筆頭に恋慕の情を抱いてましたね」
「レオさん、いくらなんでもあの子達に手を出すのは……」
「出すわけないだろう!!」
私は馬車に揺られながら、涙目でツッコミを入れてくるレオさんを凪いだ目で見る。その目のままジャスターさんに尋ねる。
「結局、レオさんが本当に相談にのった女性ってどれくらいです?」
「うーん、十人中二人くらいですかね」
「んなわけあるか! もっといる!」
「全員と言わないところが、本当に残念ですね」
「だぁー!? しまった!!」
そろそろチベットスナギツネの目がそのまま元に戻らなくなりそうなサラさんのツッコミに、レオさんはガックリと肩を落とすのだった。
本当に残念なレオさんだよ。
「春姫様。騎士キアラン、ただいま戻りました!」
「…………」
「あの、春姫様?」
「…………」
「ただいま戻りましたが……」
「…………」
「……娘、戻ったぞ」
「おかえりなさい! キラ君!」
跪き、笑顔で口上していたキラ君を無視していたら、前と同じような仏頂面で私に挨拶してくれた。
うへへ、キラ君から「娘」って呼ばれるの、結構好きなんだよね。げへへ。
「なぜ、そのように嬉しそうなのだ」
「だってキラ君がここに来てくれたんだもの!」
「他の騎士もいるだろう?」
「キラ君はキラ君にしかできないことがある。私の所に来てくれたのは奇跡だよ。うんうん」
ニコニコしていたら、パッと目をそらされてしまった。しまりのないニヤニヤ顔を見せちゃって申し訳ない。
そこで私の横に立つレオさんが口を開く。さっきまでの落ち込みはどこにいったのかというくらい、キリッとした雰囲気が出ていた。
「それで? 元国仕えの騎士様は、どう報告したんだ?」
「どう、とは?」
「姫さんと俺たちの恩寵とか、あるだろう?」
「……儀式は成功したのか、春がくることによって周囲がどうなったのか、その報告を求められたからその通りに報告しただけだ」
「へぇ、なかなかやるな」
「命令されたことにだけ従う。これが国の騎士だ」
「そういうことにしとこうか」
「……ふん」
ぷいっと横を向くキラ君の金髪がサラリと揺れる。なんでこう、ジャスターさんといいキラ君といい、妙にツヤツヤキラキラの髪質な男性がこの世界には多いんだろう。
そんな綺麗な金髪キラキラ騎士は、張りのある紺色の髪の筆頭騎士にワシャワシャと頭を撫で回されている。
『きゅー』
「ん? なぁに? アサギも撫でてほしいの?」
『きゅー!』
不満げに私の膝をタシタシするアサギさん、ほんと可愛い。
お腹の白いモフモフ毛を撫でてやっていると、目を細めて気持ちよさそうにしているアサギ。膝の上に仰向けになって寝ているのが面白い。
「可愛いね。アサギ」
『きゅー』
「いっぱい撫でてあげるね」
『きゅきゅー』
「えへへ、可愛い」
思わず時間を忘れてモフモフしちゃう私だけど、気づくとレオさんがキラ君を慰めていた。その横でジャスターさんも何やらコクコクと頷いている。
「来て早々、こんな……試練が……」
「耐えろ新人。いざとなれば俺が殴ってでも正気に戻してやる」
「若いというのも不自由なものですね。ほら、お茶でも飲んで落ち着きなさい」
「いただこう……」
よく分からないけど、三人が仲良くなったみたいで良かったです。はい。
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