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38、帰還した姫と身内の紹介

ポイントが少しずつ伸びてます。感謝。



 恥ずかしい。

 前にもポロリ(涙)はあったけど、今回はがっつり泣いてしまった。しかもレオさんとジャスターさんの体温が心地良すぎて、そのまま寝落ちするとか……有り得ないし恥ずかしい。

 そんな私は今、お布団にくるまっている状態で馬車に揺られている。


「ご、ごめんなさいサラさん、私ったら盛大に寝過ごしたみたいで……」


「大丈夫ですよ姫様、昼には塔に着きますし、ベールをかぶっていればお化粧も必要ないでしょう」


「助かります……」


「傭兵団は塔の前で解散になりますが、近くの食堂で食事が振舞われることになります。姫様は慣れない行軍でそのまま塔に戻るという流れです」


「すみません……」


「実際、姫様は大変なことをしていたんですよ。朝も傭兵たちから下働きの女の子は無事なのかと聞かれましたし……もう、あんな危険な真似はしないでくださいまし。サラの心臓が止まってしまいます」


「反省いたしておりますれば……」


 ひたすらペコペコ謝る私。サラさんの心配は最もだけど、今回の私の行動は必要だったと思っている。これからも危険なことを私はしなきゃダメかもしれない。


『きゅっ!』


 物思いにふけっていると、アサギが小さな前足でタシタシと叩いてくる。

 うん、大丈夫だよね。私は一人じゃないもの。


「不思議ですよね。姫様と心を通じ合うことができるとは……さすが神王様から賜った神獣です」


「ごめんサラさん。私バタバタしてて、サラさんにアサギの世話を任せっきりだった」


「特にお世話していませんよ。飲食されませんし、寝床を作ったくらいです」


「え? アサギって何も食べてなかったの?」


 いつもご飯の時に差し出しても首を振っていたから、てっきりサラさんがお世話してくれているものだと思っていたけど……大丈夫なの? お腹すいてない?


「詳しいことはレオ様にお聞きになっては? 私は姫学校の出ではないので、あまり詳しくないのです」


「そっか。姫とか騎士を目指していると、そういうのを学校で習うんだね」


「姫学校は、ほとんど花嫁修行みたいなものですけれど……成績で『姫』が選ばれるわけではないので」


「サラさんは行かなかったの?」


「姫学校に庶民が行くことはないですよ。平民から選ばれることもありますが、四季姫様は貴族様から選ばれることが多いので」


「そっかぁ……」


 姫教育を受けていない私としては、他の姫のようにサクサクお仕事するべく教科書みたいなものが必要かもしれない。

 塔に戻ったらこの世界の音楽の教本と、姫教育の教本を取り寄せてもらおう。


 そうこうしている内に、馬車は塔に着いた。お布団虫になっていた私だったけど、さすがに着替えてヴェールをつけた状態で馬車から出る。

 傭兵団の人たちからの視線から守るようにレオさんとジャスターさんが私の前に立ったけど、そっと制した私は彼らに向けてゆっくりとお辞儀をした。

 なんて言えばいいか分からないから言葉はない。それでも私は彼らに感謝を伝えたい。

 この世界での礼儀作法を学ぶ時間は無かった。そこは異世界から来たばかりということで許してほしい。


「春姫様! お疲れ様です!」


「異界の姫に祝福を!」


「春をもたらす姫に感謝を!」


 傭兵さんたちにかけられる言葉と歓声に、思わず涙ぐむ。両側にいる騎士二人にも「しっかり守ってやれよ騎士様!」と声がかけられてて、レオさんが苦笑している。

 対魔獣であればレオさん、人間相手ならばジャスターさんと、私の周りがTUEEEEになっている気がする。


 これから打ち上げだと食堂へ向かう傭兵団の人たちに(私は相変わらず無言だけど)別れを告げ、塔の敷地にある門を超えると笑顔のセバスさんと背の高い……というか筋肉に包まれたガチムチマッチョな男性がいる。


「モーリス!!」


「サラ!! お疲れだったなぁ!!」


 背の高いサラさんが小さく見えるほど、モーリスと呼ばれた男性は大きかった。そのままサラさんを抱き上げてクルクル回っている。おお、力持ちだ。


「モ、モーリス!! 姫様の前ですよ!!」


「はははっ、悪ぃ。久しぶりに会えたもんだから、つい嬉しくてなぁ」


 唖然とする私たちに、セバスさんが紹介をしてくれる。


「春姫様、この男はサラの夫でモーリスです。この大陸中央の国で王家専属の料理人をやっておりました」


「失礼いたしました姫様。私の料理は夫から教わったものなのですよ」


 恥ずかしかったのか、少し顔が赤くなっているサラさんが可愛く見える。その横でムキムキのモーリスさんは干し草色の短髪に手を当てて、申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。


「すいやせん、城勤めがやっと終わって、妻と会えた嬉しさについ……」


「良いんですよモーリスさん、セバスさんとサラさんの推薦で塔に来られたんですよね」


 私はふと気づいてヴェールを取る。塔の敷地に入れたということは彼は私たちの敵ではない。それに信頼できるサラさんの身内が来てくれることは本当にありがたいことだ。


「歓迎しますモーリスさん、これからご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうかよろしくお願いします」


 笑顔で挨拶する私を見たモーリスさんは驚いた表情をしたけれど、次の瞬間目から滝のように涙を流す。なんで? どうして? 一体何があった?


「こ、こんな愛らしく小さな嬢ちゃんが、突然この世界に呼び出されたなんてよぉ……。サラからの手紙で分かっちゃいたが、まったくどうなっちまってるんだぁ……」


 そう言って泣きながら私の頭をワシワシ撫で回す。うぉう、首が、首がもげるぅ。


「こらモーリス! 姫様の御髪が乱れます!」


「痛っててて!」


 サラさんが目にも留まらぬ速さでモーリスさんの手をねじり上げ、その隙にレオさんが素早く私の手を引いて自分の背に隠してくれる。ジャスターさんがそっと私の髪を整えてくれるという連携プレーは見事だ。


「春姫様、悪い男ではないのですが、いかんせん礼儀作法がなっておりませんで……」


「あの、気にしないでください。私はその方が気が楽なので……」


 レオさんの後ろからひょこっと顔を出して、モーリスさんに大丈夫アピールをしたんだけど、なぜかサラさんとモーリスさんは悶えている。なんぞ?


「春姫様……娘の夫婦は揃って躾が必要かもしれませんな」


「す、すみません執事長!」


「オヤジさん! それだけは勘弁してくれ!」


 顔色を青くする二人。よく分からないけど、お手柔らかにお願いしますセバスさん。




お読みいただき、ありがとうございます。


感想返信、なかなか出来ずにすみません。


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