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120、最強であり唯一の

なんとかひと区切りついたので、更新です。

年末バタバタしますね。


「え、いやだよ」


「なんで!?」


 晴彦の「一緒に帰ろう」という言葉に対し、思わず秒で返してしまった。

 せっかく会いに来てくれたのに、薄情な姉でごめん。

 だって……。


「元の世界に戻っても、私の居場所は無いし」


「そんなの、俺が作る!」


「お金も無いし、無職だし」


「俺が養う! だから、一緒に帰ろう姉さん!」


「えー、そんなの嫌だよ。弟に養われるなんて」


 ぶーぶー言う私を抱きしめている晴彦は、その腕に力を入れる。


「嫌だ! 絶対に一緒に帰る! そのために金も貯めて迎えに行ったのに……誰も姉さんの存在をおぼえてなくて……」


「晴彦……」


「姉さんの住んでいたアパートに行ったら空き部屋になってた。でも、なぜか部屋の真ん中に青いインクと模様の描かれていた紙、それにガラスペンが置いてあったんだ」


 もしやそれは、私がこの世界に来た時と同じ、『異世界移動グッズ』では?

 おのれ神王! 晴彦にまでそんなことを……!


「ちょーっといいかな? えっと、弟くん?」


 ニコニコと笑顔のジークリンドさんが、私を抱きしめる晴彦の腕をするっと外してくれる。ふう、呼吸が楽になったぞ。

 おじいちゃんとはいえ、騎士としてしっかりと鍛えられている広い背中を私は見ている。おや? 庇われている?


「くそっ、腕を離せ!」


「うちの春姫たんは元の世界に帰りたくないって言ってるんだから、尊重してあげないとダメだよねぇ」


「そうですよ。我が姫君は、この世界に『まんが』を広めつつあります。弟君である貴方ならば、それがどれほどの努力かお分かりになるでしょう?」


 いつの間に来たのか、ジャスターさんが私の状況を説明してくれている。ちょっと恥ずかしいけれど、それこそ私がこの世界に残りたい理由だ。異論はない。

 ジークリンドさんの背中からひょこりと顔を出すと、晴彦は悔しそうに俯いている。ごめんよ。姉さん、漫画家になるのが夢だったからさ。

 そして、さらにジャスターさんが追い討ちをかけていく。


「いとけなき姫君は、この世界で見つけたのですよ。ご自分の成すべきことと、唯一であり最強の騎士を」


「最強の騎士?」


「唯一?」


 首をかしげる晴彦と私。

 するともう一人、部屋に入ってくる気配を感じた私たちは「もしや」と振り返ると……。


「今の光は!? 何が起こったんだ!? 皆は無事へぶしっ!」


 慌てて入ってきたと思いきや何かに足を引っかけたらしく、ヒヨコのようなポワポワな金髪が床に叩きつけられるのが見えた。

 え、ちょ、キラ君!? 今、すごく鈍い音がしたけど!?


「姫君、ご安心を。こんなヒヨコでも騎士ですからね」


「ヒヨコのくせに、なんて間で入ってくるのかなぁ……まだまだ稽古不足みたいだねぇ」


「ひっ!?」


 先輩騎士たち(ジークリンドさんは人生の先輩?)から何かを感じたキラ君は、慌てて部屋を出ようとするけど笑顔のサラさんがドアの前から動かない。こう、ラスボスからは逃げられないって雰囲気だ。

 いや、今はそんな悠長に考えている場合ではない。


「あの、キラ君のヒヨコっぷりは置いておくとして、唯一の騎士って……」


「うちの最強っていうか、この世界の最強と言っても過言ではないでしょ」


「お忘れですか? 騎士の中でもその筆頭たる者は『唯一』とも呼ばれ、四季姫様の伴侶に一番近い存在なのですよ?」


 最強はともかく、唯一であり伴侶……?

 いやいやいや! それはちょっと待ってくださいって!

 筆頭とはいえレオさんとは「そういう話」をしたことがないのですよ!

 いや、確かに「そういう話」ちょっとだけしたけれど、その時は「俺に勝てる奴じゃないと姫さんを嫁に出せない」みたいなことを言われただけですし!


「どうせレオ君のことだから、春姫たんを嫁にするなら俺を倒せとか言ったんでしょ?」


「そ、それです! それだけです!」


「でもそれは裏を返せば、最強の騎士である筆頭が姫君の伴侶にふさわしいということになりますよね?」


「な、なりませんから! 勝手に裏を返さないでください!」


 ジークリンドさんとジャスターさんが、私とレオさんの仲をどんどん進めていってしまう。

 本人が知ったら絶対に怒られると涙目になる私を、晴彦は唖然とした顔で見つめていた。







「弟様は客室でお休みです」


「ありがとうサラさん、晴彦……弟は、この部屋に現れたの?」


「ええ。ベッドではなかったのですが、この部屋の真ん中あたりで立ってらっしゃいました」


「そっか……」


 なぜ、こんなことになったのかは分からない。

 大図書館で知ったのは、異世界から『春姫』を呼ぶのは、神王の考えではなくこの世界の『理』が起こしたということだ。


「姫様、もしや弟様は……印があるのでは?」


「印?」


「その御身にある青き印です」


 印……って、そうか。おでこにある『春姫』の印のことね。

 でも、それは『四季姫』じゃないと出てこないもので……あれ?


「そういえば、晴彦は私だけじゃなくて、ジャスターさんたちの言葉も通じてた?」


「ええ、なので姫様と同じく、言語の『恩寵』を得られているかと」


「私と一緒……もしかして、他にも何かあるとか?」


 ずっと引き出しにしまっていた『姫読本』を久しぶりに取り出そうとして、愕然とする。


「姫様、何かをお探しですか?」


「本が……ない……」


「え? その引き出しは誰もさわっていないのですが……他の部屋を探しますか?」


「大丈夫、今は必要ないから」


「そう、ですか?」


 不安げな表情をするサラさんに、私は笑顔を見せる。

 あれはこの世界に来た時、私が最初に読んだものだ。もしかしたら……。


「……早く帰ってきて」


 思わず漏れてしまった言葉。

 私の気持ちを分かってくれるサラさんは、静かに一礼して「おやすみなさいませ」と言ってくれる。


 うん。今日はもう寝よう。

 明日の事は、明日考えよう。



お読みいただき、ありがとうございます。


『オッサン(36)がアイドルになる話』紙媒体の4巻と、コミカライズの3巻

2020年1月31日に同時発売されます。


同時発売!すごくすごく嬉しいです!

よろしくお願いいたします!

そしてよろしくお願いいたします!(それぞれ2回言ったw)

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様ですm(*_ _)m 弟くん……ヤバい感じですね レオさん何してんの! はやく~
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