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114、彼女が望む未来


「お問い合わせありがとうございます! さっそくご希望の場所に、春姫様のみをご案内!」


「おい、ちょっと待て。姫さん一人だけってどういうことだ」


「春姫様の情報を、春姫様にだけ開示するということ!」


「それは、春姫の騎士である自分たちも、案内できないということですか?」


「そのとおり! 自分の『ことわり』を知ることができるのは、本人だけ!」


 おっと、今、すごいことを言われましたよ。

 自分の『理』を知ることができるということは、私の謎な『恩寵』についても分かるかもしれないってことですよね!


「レオさん……」


 必殺、上目遣いで涙目という最強コンボのおねだり攻撃を発動する私。

 それでもレオさんは微動だにせず、渋い顔のままだ。


「しょうがねぇな。ドアの近くにはいるからな」


「筆頭!?」

「なっ、即落ち!?」

「あははははレオ君は本当に面白いねぇあははははは」


 ジャスターさんとキラ君のブーイングを物ともせず、レオさんは「行ってこい」と背中を押してくれる。ありがたい。

 ただ少し不安なのは、ジークリンドさんだ。


「大丈夫、ですか?」


「優しいねぇ、春姫たん……大丈夫だよ。老いているとはいえ、騎士なのだから」


「……はい」


 奥さんそっくりな『管理人』について、色々と思うところがあるんだろう。

 それでも、騎士としての役割をこなそうとしてくれるジークリンドさんに、申し訳ない気持ちになってしまう。


 いや、弱気になっている場合じゃない。

 まずはひとつひとつ、こなしていこう。


「では、浮島を呼ぶので、騎士様たちはこのままでお待ちを!」


「おい、うちの姫さんを害することがあったら……」


「人を害するように『管理人』は創られてないので! ご安心を!」


 ハキハキと話す黒髪の少女に、複雑な表情になるレオさん。

 そりゃそうだよね。ハッキリと「創られた」とか言われちゃうとね。


「ちゃんと、ここの場所から動かないので! どこかの誰かのように、別の場所に飛ばしたりしない! 絶対!」


 ずっと無表情で機械的に話すだけだった少女が、レオさんの目を見て一瞬笑みを浮かべる。

 それは、私とレオさんにしか見えない位置だったけど、確かに生身の人間っぽい「熱」のようなものが感じられた。


 レオさんたちに見守られながら応接室のドアを開けると、見慣れた部屋が現れる。

 え? なんで?


「どうした? 姫さん」


「あの、この部屋、私の部屋にそっくりで……」


「ん? 他の部屋と同じように見えるが?」


 首をかしげるレオさんに、管理人の少女は元気よく答えた。


「ここは、今代の春姫様のみが入れる部屋です! 他の人が入っても、普通の部屋に見えるのです!」


 六畳間にベッドと小さな本棚があって、ひとり用の小さなテーブルにはノートパソコンが置いてある。

 一緒に置いてあるマグカップには、あの日の朝飲みきれなかったカフェオレが残ったままだ。


「では、騎士様たちは応接室に残っているように! 希望者には、それぞれの『理』の本をご案内!」


「お願いします。姫君の護衛を交代しながら、順に読んでいきましょう」


「俺らは別に必要ないだろ?」


「もしかしたら、自分たちの持つ『恩寵』について、新しい発見があるかもしれませんよ」


 なるほど、確かに『恩寵』の言葉って、なんかふわっとした意味合いのものが多い気がする。

 ジャスターさんの言葉に、レオさんとキラ君が真剣な表情になった。どうやら自分たちの『恩寵』について、詳しく知ることにしたらしい。

 ジークリンドさんを見ると軽く頷いてくれたから、あとのことはお任せしておこう。







「おお、なんだか懐かしい」


 部屋の中に入ってドアを閉めた私は、ブーツを脱いでベッドに座る。

 六畳の部屋に、お風呂とトイレは別、一畳分のキッチンスペースがあるけどコンロはひとつしかない。

 ツードアの冷蔵庫も小さな電子レンジもそのままだ。

 家に帰っても寝るだけだったから部屋の中は散らかっていない。生活感のない部屋だけど、管理人の少女に「汚部屋」を見せるという事態にならずホッとする。


 カーテンが開いたままの窓の外は真っ白で、ここが元の世界じゃないことがなんとなく分かった。

 それでも確かめずにはいられなくて窓に近付くと、真っ白な世界にちらほら図書館の浮島が見えている。


「だよね、うん、わかっていたことだし」


「ご期待に添えず、申し訳ございません……」


「いいの。この世界でたくさん優しさをもらえたからって、あれ?」


 落ち着きのある、しっとりとした女性の声に違和感をおぼえる。慌てて声の聞こえる方向を見ると、さっきまでいた少女は居らず……。


「やっと夫の目の届かない場所で、春姫様と二人きりになれました」


「え、ちょっと待って。あなたは誰ですか!?」


 振り向けば、腰まである豊かな黒髪と、明るい茶色の瞳を持つ美女が静かに立っていた。

 着ている服はさっきまでそこにいた『管理人』と同じ、白いワンピース姿だ。


「この姿では、はじめまして。私はジークリンドの妻であった魂を持ち、神王様に器を創られた『管理人』でございます」


「え、ええー……」


 ちょっと待って、混乱してきたから。

 ここの『管理人』は、美少女モードと美女モードがいるってこと?

 ということは、もしかするとだけど……。


「元気少女の演技、お疲れ様でした?」


「はい。正直、つらかったです」


 ですよねー。




 一応、部屋にある冷蔵庫の中とかはそのままで、冷たい麦茶を取り出した私はマグカップに入れてテーブルに置く。


「ひとりだったから、食器とかあまりなくてすみません」


「お気づかいなく。……これ、珍しい形ですね」


 なぜか持ち手がムキムキ筋肉の腕になっていて、カップの部分にはしっかりとした大胸筋と腹筋がついている謎のマグカップ。密かに気に入っているそれは、前に働いていた会社の仲良し後輩からプレゼントされたものだ。


「それで、その姿になったのは、私に何か話したいことがあるとか?」


「はい。その通りです」


 ジークリンドさんの奥様、ヒルデさんは死に至る病気になって生涯を終えた。

 しかし、亡くなる間際に彼女の『恩寵』で、ジークリンドさんの未来が視えたのだという。


「ヒルデさんの『恩寵』が『未来視』?」


「はい。当たることもあれば、当たらないこともあります。でも私の『未来視』は、変えることが可能な未来しか視えないのです」


「それで、ジークリンドさんは……」


「彼は自ら死のうとしていました。私が死んだことによって、心が壊れてしまったのです」


お読みいただき、ありがとうございます。

感想の返信できずにすみません。

本当に、本当に力になっています。

いつもありがとうございます。

皆様のおかげで書き続けておりまっする。


ちなみに、作中にある筋肉なマグカップは、検索すると出てきます。

なんとなく欲しいなぁーとは思いますが、使いどころに困りますよね。


……来客用?_(:3 」∠)_

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