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11、レオさんのお願い



 塔の中にある応接室には落ち着いた色のソファとローテーブル、ペルシャ絨毯のような綺麗な模様のものが敷かれている。余計な調度品は置いていないけど、シンプルな白の花瓶には花が生けてあった。

 先日とは違い、多少身綺麗にしてきたらしいレオさんは、その長い足をゆったり組んでソファに座っている。紺色の髪はしっかり撫でつけられていて、無精髭も剃られていて少し若く見えた。

 白いシャツに革のベスト、ぴったりとした黒のズボンと編み上げのブーツがよく似合っている。


「二日ぶりですか? 予定より早かったですね、レオさん」


「アンタ……姫様か?」


「え? そりゃあ、こんな青いドレス着れるのは、春姫くらいだって聞いてますけど……変ですか?」


「い、いや、似合って……」


「レオ様。お茶をお持ちしました」


 口に手を当ててモゴモゴ言ってるレオさんに、サラさんがキビキビとお茶を持ってきてくれた。なんだ? どうした? 子供にしか見えないからドレス似合わないとか?

 そんな私の心の声が届いたのか、サラさんは笑顔で褒めてくれる。


「大丈夫ですよ姫様。よくお似合いです」


「でも、子供みたいな外見だから、このドレスは似合わないのかなって」


「愛らしゅうございます」


 微動だにしない笑顔のサラさん。いや、だからさ、愛らしいって子供っぽいってことなんじゃないの? まぁ、いいけどさ。


「それはともかく、レオさんのご用件は? 学園の講師の契約はまだ終わってないんですよね?」


「あ、ああ、そうだ。実は今日来たのは、先代の春姫について聞いてほしいことがあってな」


「先代の春姫?」


「そうだ。アンタと同じ、異界の姫ってやつだ」







 レオさんの手配した馬車に乗った私とサラさんは、塔から徒歩一時間ほど離れている町の郊外に向かっていた。進むにつれ人はまばらになり、道も少しずつ悪くなっていく。


「大丈夫か。もう少しの我慢だ」


「だ、大丈夫です。たぶん」


 恩寵である『身体能力強化』は、車酔いしやすかった私の体を作り変えたのかと思うくらいに、揺れなどものともしない。これはすごいことだと感動する。

 もしかして、お酒とか飲んでも悪酔いしないとか? 二日酔い知らずになったとか?

 脳が活性化していたのは、本を読んだ時に判明している。ということは内臓だって強化されている可能性もあるよね。今度試してみようとニヤニヤしてたら、思いっきり揺れて前に座っているレオさんの太腿に倒れこんでしまう。


「す、すみません!」


「くくっ、なんなら俺の膝に乗っとくか?」


「遠慮いたします!!」


 真っ赤になって思わず何も言えなくなった私の代わりに、サラさんがすっぱり断ってくれた。うわーん、サラさーん。

 えぐえぐする私を、レオさんは無言で元の位置に戻してくれたけど、その後ずっとそっぽ向いたまま無言だった。怒ってないよね?

 すると、サラさんはやれやれとため息吐きながら口を開く。


けだものにも人の心はあったようですね」


「え? 何のこと?」


「愛らしい少女を手にかけるほど、落ちぶれてはいなかったということです」


「少女?」


 よく分からないけど、レオさんが不機嫌そうにしているのはサラさんに怒られたから? なのかな?

 そんな空気の中、馬車はポツンと建っている民家に到着する。


「おーい、ジャスター、出てこーい」


「団長……なぜ貴方は毎回呼び鈴を鳴らさないので、す?」


 出てきたのは、銀縁メガネをかけているスラリと背の高い男性だった。出かけるところだったのか、外套を着込んでいる。サラリと揺れる銀髪に、切れ長の目はアメジストのような紫色をしている。


「だ、団長、この青いドレスの方は、まさか……」


「おう。今代の春姫様だ」


「はぁ!? 貴方という人は!!」


 言い争いになりそうな二人に、私は一歩前に出る。


「傭兵団を束ねるレオ団長の部下、ジャスター副団長ですね。私は今代の春姫ハナ・トーノ。この度はレオ団長の願いにより参りました」


「この町の傭兵団、レオ団長の部隊に所属しているジャスターです。このような所に来られるとは……それに、お言葉を……」


「ええ、この世界の神からの恩寵で、私はこの世界の言葉を話せるようです」


「それは……!!」


 ジャスターさんは切れ長の目を見開いて驚いているようだ。それはそうだろう。この世界で歴代の春姫は、皆言葉が通じず狂っていったとのことだったから。


 レオさんの話はこうだ。

 副団長であるジャスターさんのお姉さんが、先代の春姫の世話係だった。部屋に閉じこもったきり、ほとんど会うことがなかったそうだが、最後にジャスターさんのお姉さんに渡した日記のようなものがあるという。日記のようなものと表現したのは、何が書いているか分からないからだ。

 国の騎士団に所属していたジャスターさんだったけど、以前から異界に興味があったそうだ。そこで、お姉さんがお世話係というのもあるし、なんとか会う機会があればと思って除隊までしてここに来たそうだ。


「結局、自分が先代様とお会いすることはできませんでした。こちらに来た時には、この本を残して姿を消したそうですから」


 ジャスターさんは眉間にシワを寄せて、苦しげな表情になる。彼の言葉の後を、レオさんが続けた。


「ジャスターの姉さんは趣味で絵を描いている。姿絵もあるが見てみるか?」


「お願いします。それにしても、ジャスターさんはここに来るために騎士を辞めたって、すごいですね」


「それだけで、というわけでもないのです。騎士として限界を感じていましたし、王都勤めでしたが遠征も多く、自分の時間というものがほとんど持てませんでした。しかし今は、傭兵になりレオ団長の隊で書類仕事をしているので、好きな研究もたくさんできるので嬉しいです」


 さっきまでレオさんに向けていた無表情が、途端に緩んでいく。おお、美形のデレ顔。これは眼福ですな。


「そうでしたか。私は同じ故郷であれば先代の日記が読めるのではと、レオさんに呼ばれて来たのです」


「それはわざわざ……ありがとうございます」


 なぜか表情を曇らせるジャスターさんが気になるけど、とりあえず今はレオさんの依頼をこなさなきゃならない。彼の案内で私たちは奥の部屋へと向かうのだった。




お読みいただき、ありがとうございます。

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