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113、求めれば与えられるってもんじゃない


 騎士様たちの得物は、それはもう素晴らしいものでした。

 なんて言えるほど、記憶は鮮明ではない。むしろぼんやりしてるよ。


「おーい、姫さーん、この『セイザ』っての、足が痛いんだけどー」


「当たり前です。痛くしているんですからね」


「うっ、なかなかキツいですね」


「年寄りには意外と楽な姿勢だねぇ。ちょっと足が痺れちゃうけど」


 意外とジークリンドさんには好評な『正座』は、私の前で真っ裸になっていた騎士たちへの罰だ。

 レオさんは怒られた獅子?のようにションボリしていて、ジャスターさんは弱音を吐きつつもなぜか笑顔だ。どゆこと?


「おい! なぜキアランだけ罰がないんだ!」


「キラ君は紳士だから、ちゃんと前を隠していたので」


「いや、そりゃ違うって。むしろ見せたら……」


「レオさん、三十分追加」


「なんでだよ!!」


 キラ君を見たら、少し頬を赤らめて困った顔をしている。先輩騎士を差し置いて、自分だけ罰を受けないのはどうかと思っているみたい。


「私も罰を受けるぞ?」


「いいの! レオさんたちは反省しなきゃなんだから!」


 プリプリしている私に、キラ君は苦笑しながら説明してくれた。


「あの時、真っ先に筆頭が姫の不在を感知した。以前のような無理やり引き離された『痛み』は無かったが、相手が姫に何をするか分からなかったからな。全力で引き戻すことにしたのだ」


「引き戻す?」


「騎士である我らが集まり、姫との『繋がり』を強く願えば可能だと、ジークリンド殿が……」


「……そっか」


 にやけそうになるのを必死で我慢していたら、レオさんが訳知り顔でこっちを見てくる。


「レオさん、三十分追加」


「なんでだよ!!」







 レオさんへの追加の罰は冗談と(したくなかったけど時間がないから今回は免除することに)して、落ち着いた私は本の島と島の間にある休憩所で、私に何が起こっていたのかを皆に報告することにした。

 とりあえず、これまで神王に何度か呼び出されたというところで、レオさんとジャスターさんの眉間にシワがよる。

 うん。私も同じような顔になっているかも。


「はぁ? 今まで姫さんにあったおかしな現象のいくつかは、神王が起こしたことだって言うのか?」


「今回の件と魔法陣で飛ばされた時とは、違う感じでしたが……」


「神王様は何を目的に……」


「そりゃ、春姫たんとお話したかったんでしょ? 可愛いし」


 首をかしげるキラ君にジークリンドさんは答えると「ねーっ」て私に話を振ってくるから困ってしまう。

 目的については、微妙に言いづらいんだよね。まぁ、言うけれども。


「可愛いかどうかはともかく。今まで呼び出していたのは、私が元の世界に帰りたいかって聞きたかったみたいです」


「なっ!?」


 目の前に座っていたレオさんが、瞬間移動をしたのかというスピードで隣に座って詰め寄ってくる。近い近い。


「ちょ、レオさ……」


「姫さんは帰りたいのか!? いや、帰りたいに、決まっているよな……」


 詰め寄りながらも萎びていくレオさんが面白くて、つい笑いそうになってしまう。

 そんな私をうらめしげに見てくるものだから、とうとう耐えきれずに噴き出した。


「元の世界に戻れても仕事はないし、ひとりぼっちなんですよ? 家族みたいなレオさんたちがいてくれる、この世界にいさせてください」


 お願いしますと頭を下げれば、レオさんだけじゃなく他の三人も驚いたような表情で私を見ている。

 え? 何? 何かした?


「そうか、ひとりで……姫さんは……」


「姫君、自分のことは家族と、なんなら兄のように、いや兄と呼んでも!」


「まだ、年端もいかない娘が、ひとりで……くっ!!」


 あらら、まったくレオさんたちは本当に人がいいというか、なんというか……。

 さりげなくジャスターさんが「兄呼び」を希望しているし。


「んー、そうだねぇ。ジャーたんと結婚したら本物の春姫たんのじぃじになれるんふぐぅっ!?」


 突然ジークリンドさんが餅のようなお菓子で喉を詰まらせている。

 だ、だいじょうぶ? 年寄りがモチモチしたものを丸飲みしたらダメだよ。気をつけてね。


「ふぅ、危なかったなぁ。ちょっとレオ君! 春姫たんの恩寵がなかったら召されていたよ!?」


「うるさい。次は本当に黙らせるぞ」


「おじいさま、余計なことを言うから……」


 そうだよ。私はこの世界で結婚するつもりはないからね。

 咳き込みながらお茶を飲んでいるジークリンドさんを、キラ君まで残念な人を見るような目で見ている。


 うむ。話が思いっきりそれているぞ。


『ハナー、春の姫たちのことをおしえてあげないとー』


 そうだった。

 本当に、うちのアサギは賢くて可愛くてモフモフだ。


 アサギの頭を撫でながら、私は早口で歴代の春姫の「おかしくなっていく」現象について話した。

 うまく伝わるか不安だったけど、ジャスターさんが納得したようにうなずいた。


「魂が徐々に抜けていく感じでしょうか。興味深いですね」


「おかしな行動や言動があったりするのは、そのせいだと」


「不敬と言われるかもしれんが、神っていうのは理不尽なもんだな」


 本当に、そのとおりだよ。

 勝手に連れてこられて、言葉も通じない、右も左も分からない世界でしばらく暮らしてから「帰りたいか?」なんて。


 それにしても。

 

「なんで『春姫』だけ、異世界から連れてくるんですかね?」


 皆が「え?」みたいな顔しているけど、いやいや、だっておかしいでしょ。

 あの残念美少年ちっくな神王なら「なんか楽しそうだし」みたいなこと言いそうだけど。でも彼は「この世界のために」みたいなことを言ってた気がする。たぶん。


「やっと問い合わせがありましたね! では、関連書籍の場所までご案内しましょう!」


 ふぁっ!?




お読みいただき、ありがとうございます!


10/26、27、神保町ブックフェスティバル、早川書房様ブースにて。

「ゲームでNPCの中の人やってます!」を始め、名だたる先生方のサイン本をわんさかおいてあります。

もっちりシラユキおみくじ付きなので、ぜひともー_(:3 」∠)_

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