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111、黄金色の語らい


「困ったなぁ。ここ、どこの庭だろう。大図書館の中だったらいいんだけど」


 引き返そうと後ろを見ても、芝生と剪定された垣根があり、その向こうは霧がかかっていて何も見えない。

 私の足元で地面の匂いを嗅いでいるアサギを抱き上げると、庭園内に誰か人がいないか見回す。


「すみませーん、誰かいませんかー?」


『ハナ、あっちからいい匂いがするよ』


 アサギが前足で方向を教えようとしていて可愛い。


「人を探さないとだから……」


『えー』


 残念そうなアサギだけど、今はとにかく早く「ここ」がどこなのかが知りたい。

 きっと皆が心配している。


「早く、皆のところに戻らないと……」


『いい匂いのところに行くー』


「あ、こら、アサギ」


 腕の中から抜け出したアサギは均等に置かれた飛び石にそって、ぴょいぴょいと飛んでいってしまう。


 庭はかなり広いようだ。

 でも、靄のせいで周りが白く霞みがかったように見えるため、全容が分からない。

 

 アサギを追いかけていると、赤、青、白、黒という四色の玉砂利が敷かれた場所に入っていた。

 真ん中に置いてある岩の上に、金色の長い髪を風に揺らす少年がアサギを膝の上にのせて撫でている。

 彼の身につけている黄色の布を使った服は、着物のように何枚か重なっていて、腰には金色の帯が締められていた。


『はぅ、いい匂いー』


 撫でられて、気持ちよさそうにしているアサギ。

 危機察知能力の高いアサギが懐いているのだから、この少年に危険はないのは分かっている。

 でも、なんか怪しい。めちゃくちゃ怪しい。


「怪しいとは心外だね。やっと君に会うことができて、嬉しく思っているのに」


「ひぇっ」


 な、なんで考えていることが分かるの!?


「いや、なんで考えていることが分かるの? みたいな顔をされても……。ふふ、ハナは可愛いね」


「え? 私の名前を知ってる?」


「知っているよ。ほら、少しだけ手助けをした時に」


「手助け?」


「君の騎士に恩寵を返した時だよ。可愛いハナ」


 男性でも女性でもないような不思議な声を持つ少年は、そう言って顔をあげる。

 怖いくらいの美貌を持つ少年はフワリと微笑むと、彼の金色に輝く瞳は宝石のように煌めいた。






 突然、ザバッと激しく湯水を乱して立ち上がったレオは、目を細めて周囲を探る。

 以前のような「痛み」を感じた訳ではないが、なぜか自分の魂と繋がる『姫』の気配が薄くなった気がしたのだ。


「筆頭……姫君の身に何か?」


「前とは違うが、同じだ」


「なっ!?」


 慌てて立ち上がるキアランの腕を素早くおさえたジークリンドは、ゆっくりと立ち上がる。


「前というのは、ジャーたんが言ってた魔法陣の不具合で、春姫たんが違う場所に飛ばされ時ってことかな?」


「爺さん、分かるか?」


「ここは『神界』と繋がる『大図書館』だから、妙なことにはならないだろうけど……」


「ならないけど、なんだ?」


 急かすような殺気がわずかに出ているものの、静かに問いかけるレオを見てジークリンドは苦笑する。なるほど彼ほど『筆頭』に相応しい男はいないだろう、と。

 平然としているようで、わずかに青ざめているジャスター。

 焦りと怒りのまま、今にも飛びだしそうなキアラン。


 もちろんジークリンドも『姫』との繋がりが薄くなったことに、内心動揺している。しかし平然としているように見えるのは、長く生きている経験を元に感情を抑えることができているだけだ。


 ふぅーっと大きく息を吐いたジークリンドは、できるだけ平坦な声で、自分の考えを騎士たちに伝える。


「もしかしたら春姫たんは『神界』にいる存在に呼び出されているのかもって」







 レオさんは昔、先代冬姫の騎士を辞めた時、自分の持つ『恩寵』を返上した。

 でも魔獣の大群に襲われた時、金色の何かを渡されて……。


「金色の……?」


黄金色おうごんいろ、が正しいかな」


「黄金……おうの色……」


「そう、私は神界の王と呼ばれているからね」


「神界の、王……」


 ジークリンドさんが教えてくれたんだけど。


 今、私が着ている服の「青色」は、春の姫と騎士、そして塔の関係者しか身に付けることが許されていない。

 夏は赤、秋は白、冬は黒と決まっている。


 そして、この世界で黄色おうしょくを身にまとえる唯一の存在。


「神王様?」


「正解だよ。ハナは可愛いだけじゃなくて、頭もいいのだね」


『王様いい匂いー』


「こ、こら、アサギ!」


 この世界で一番偉いと言われている『神王』の膝の上で、だらりと寛ぐアサギを見て慌てる。

 ひざ抱っことか撫でられているだけならまだしも、やたらくんかくんか匂いをかいでいるのが気になる。ふぉぉ、飼い主の責任ががが。


「大丈夫だよ。他の子が見たら怒るかもしれないけれど、今この場に誰もいない」


 誰もという言葉が気になって、彼の金色の瞳をジッと見ると、ふいっと逸らされてしまう。おい。ちょっとどういうことか説明したまえ。


「可愛いハナ、怒らないで」


「怒ってなんていませんよ。でも、ここに呼んだのは神王様なんですよね? 早くレオさんたちの所に戻してください」


「もう少しだけ、いいでしょう? ずっと話をしたいと思って呼んでいたのに、ハナはやたら堅固に守られているのだもの。ちょっと力を込めて呼んでみたら、ハナが変な所に飛んで行ってしまうし」


「え、ちょっと!! 森に飛ばされて迷子になったのは、魔法陣のせいじゃなくて神王様のせいだったの!?」


「やはり怒っているのだね」


 ションボリとうなだれる黄色の美少年を前に、私は鼻息荒く仁王立ちになっている。


 そりゃ怒るでしょ! 当たり前でしょ! あの時すごく大変だったんだから!



お読みいただき、ありがとうございます。

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