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110、神界大図書館


「どーも、管理人です!」


「はい、ええと……」


「管理人です!」


「管理人さん、あの、私は……」


「今代の『春』の『四季姫』ですね! 神界大図書館へようこそ!」


「ど、どうも……」


 何も模様の入っていない、シンプルな白のワンピースを身につけた少女は、元気よく扉の向こうへ入っていく。

 ジャスターさんが先に入って、レオさんとキラ君が私を挟むように続く。ジークリンドさんは殿を任されているけれど、扉が現れてからずっと無言なのが気になる。


 扉の中に足を踏み入れたその瞬間、部屋の明るさに思わず目を細める。

 違う。明るいんじゃない。

 辺り一帯が、真っ白な靄に包まれているんだ。


「あ、これじゃ見えないね!」


 そう言うと管理人を名乗る少女は、口元に指を当てて何事が呟く。

 するとあら不思議、白一色だった周りの風景からジワジワと本棚らしきものが浮かび上がってくるではありませんか。


「わぁ、これはすごい……ですっ!?」


 思わず隣にいるレオさんにしがみつく私。

 だって今立っている場所、8畳くらいのスペースしかなくて、その遥か下には森が広がっているんですものーっ!

 手すりも何もない高い所とか、無理ですからーっ!


「大丈夫だ、姫さん。俺が『鉄壁』で囲っているから」


「れ、れ、れおざああああん」


「よしよし、抱っこしてやるか?」


「やだああああ、だっこじだら、めぜんがだがぐなるうううう」


 ガクガク震えながらも、これ以上目線が高くなることを断固阻止する。レオさんの『鉄壁』があっても怖い。怖いものは怖いのだ。


 よく見てないけど、本棚のある部屋がたくさん空に浮いてて、そこに行くのに階段があるんだけど、壁とか柱とかが無くてスッカスカだ。

 心許ない。すごく心許ない。


「春姫が怖がっているね! よし、柵をつけるよう神王様に伝えておくよ!」


「あ、ありがとう、ございます」


 柵をつけても怖いものは怖いけど、気持ちはありがたい。

 おっかなびっくり、レオさんにしがみつきながら階段を上がって下りて、『閲覧室』という場所に案内された。

 塔の書庫にあるものと同じテーブルとソファーで、見る人が見れば『神王』が創ったものだと分かる。


「奥の扉からは、宿泊施設になっているよ! 好きなだけいてくれていいからね!」


「あの……」


「では、何かあったらベルを鳴らして呼んでね!」


 不自然なくらい明るく話す少女は、ぽふんと白い靄になって消えてしまう。


「質問とか、させてくれないんですね」


「前に来た時と同じです。おじいさまの問いかけには、何も……」


 悲しげに微笑むジャスターさん。

 すると、ずっと無言のままのジークリンドさんが口を開く。


「あれは、人ではなく『管理人』と呼ばれるものだよ。気にしなくていいから……」


「そんなの無理です!」


「春姫たん……」


「ジークリンドさんの大切な人にそっくりの管理人とか、私は気になります。だって、家族なんですから」


 腕を組んでプリプリしている私の頭に、ぽふっと手を置いたのはレオさんだ。


「おう。俺たちは姫さんの家族だ」

「ですね」

「……そう、だな」


 レオさんの言葉に笑顔で賛同してくれるジャスターさんと、恥ずかしげにうなずくキラ君。

 ほら、ジークリンドさんも。


「うん、家族だね。ありがとう春姫たん」


「どういたしまして!」







 それから、一週間後。


「うう、ガードが固すぎるよう」


「困りましたねぇ」


 食事はいつの間にか用意されている。

 うっかりお茶をこぼしても、気がつけば元どおり。

 露天風呂に入りたいなどという無茶ぶりをしても一瞬で解決してしまう。


「そっちのほうは、恩寵のこと分かりましたー?」


「まだよく分からないけど、春姫たんのことは少し分かってきたよ」


「その報告は皆で聞こう。そろそろ上がるか姫さん」


「はーい」


「……お前ら、よく恥ずかしくないな」


 大図書館の中に、なぜか突然現れた露天風呂。皆と一緒に入ってはいるけど、もちろん男女別々になっている。

 植物の垣根で隔たれているだけなので、声だけはしっかりと通る。

 声だけは、ね。


「おい、そこの淫猥エルフ。何をしようとしている?」


「のぞきは男の浪漫だよぉ」


「大丈夫ですよキアラン。筆頭が『鉄壁』を出していますから」


「ジャーたん! 老い先短いおじいさまに、少しくらい楽しい思い出をくれても」


「ひと足先に俺が天国ってやつを見せてやろうか?」


 いいなぁ。男風呂は楽しそうだなぁ。

 少し寂しくなっていたら、木桶をお風呂代わりにしていたアサギが、鼻をヒクヒクと動かしている。


『なんか、おいしそうな匂いがするー?』


「ん? もうご飯の時間だったかな?」


 お風呂から上がりバスローブで身を包んで、火照った体を冷やそうと脱衣所から出ると、日本庭園のような場所に出る。


「あれ?」


『つよいの、いないねー?』


 腕の中にいるアサギは、鼻をヒクヒクさせてレオさんの匂いを探している。

 おかしい。露天風呂ができたと聞いて、皆と一緒にここまで来た時に、この庭園を見てはいない。


「レオさん? ジャスターさん?」


『いないの。キラキラも、じぃじも』


 え、嘘でしょ。

 もしかして私、また迷子になっちゃった?

お読みいただき、ありがとうございます。





本日0時に、漫画サイト『コミックPASH!』にて

オッサン(36)がアイドルになる話のコミカライズ、最新話が更新されます。

ぜひともー。

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