109、裏ワザを駆使して現れる扉
移動魔法の巻物が使えないのは分かっていたけれど、騎士と姫だけで『神界大図書館』へ向かうのは、なかなかハードだなと痛感していた。
理由の一つとして、サラさんの不在が挙げられる。
「うう、お茶がおいしくない」
「だーかーらー、俺が入れるって言っただろうが」
「ムキムキなレオさんがお茶をいれるとか、ムキムキになる未来しかないです」
「意味がわからん!」
「ふふ、姫の手ずからいれてくれたお茶は、本当においしいですね」
「ジャスターさん、味覚おかしくないですか? 大丈夫ですか?」
今回の旅は、かなり少人数となっていた。
道案内にジークリンドさん、資格を持っているキラ君とジャスターさん、魔獣除けのレオさんとアサギに、お荷物の私だ。
『えへへ、やっとハナを守れるようになったの! いっぱい寝たから育ったのよ!』
「すごいねアサギ。私なんか、お茶もろくに入れられないとか、もう、本当に使えないポンコツだよね」
旅は基本的に馬車のみで移動している。
御者席に騎士を二人と、私と一緒に二人座っている状態だった。
座っているだけの私とは違い、騎士であるレオさんたちは交代で三日ほど馬車を走らせ、やっと今日、大図書館へ通じるという森に到着した。
休憩をするたびに私はお茶をいれるのだけど、ぜんぜん上手くできない。いつもすごく美味しいお茶をいれてくれるサラさんは、もしかしたら魔法でも使っているのかも。
モフモフな尻尾をフリフリしているアサギを撫でながら、休憩地点である森の入り口を見回す。
「塔からまっすぐに来ただけですけど、ここで今日は一泊するんですか?」
「はい。今、おじいさまとキアランが見回りをしておりますが、危険がなければここで一泊する予定です」
「見回り、ですか?」
「事前に魔獣などの危険を排除しておくのも必要ですからね。もちろん筆頭が『鉄壁』で守りを固めますが、キアランの訓練も兼ねてますから」
「なるほどー」
前に訓練場で見たけれど、ああ見えてジークリンドさんすごくスパルタなんだよね。
がんばれ! キラ君!
焚き火を目の前にして、そういえば元の世界では、キャンプとか学校行事でしかしなかったなぁと思い出す。
儀式の行軍とかでもあったけれど、自分が『姫』だというのを隠していたから、こうやってマッタリとすることが出来なかった。
こうやって「やってみたいこと」が出来るのは、嬉しいことだ。
「あたたかいココアとか飲みたいなぁ」
「夜は少し冷えますからね」
「まぁ、姫さんが『春』にしてるから、たいして寒くはならないけどな」
むぅ。常春になってしまうのは、ちょっと情緒がない気がする。
寒い時のキャンプも良いものだって、アニメでみたことがあるんだよ。そういうのを体感してみたいけど……。
「冬姫様を連れてくるとか……」
「やめとけよ」
「やめておきましょう」
おお、春の騎士ツートップから、息ぴったりのツッコミが。
そんなやり取りをしていると、見回りをしていたジークリンドさんとキラ君が帰ってくる。
「ただいま春姫たん。お茶ちょうだい」
「魔獣はほとんどいないようだ」
「二人とも、ご苦労様」
二回目ともなれば、さすがに失敗はせずにいれられる。でも、まだまだの味だ。焚き火で沸かしたお湯は、温度管理とか難しいからね。たぶん。
嬉しそうにお茶を飲むジークリンドさんは、くつろいだ様子を見せながらとんでもないことを言い出す。
「この状態の森なら、今すぐにでも大図書館まで行けそうだよ」
「え? ここで泊まるんじゃないんですか?」
「泊まってもいいけれど、次に行ける状態になるには丸三日くらいかかりそうだよ」
「えーっ!?」
驚いたのは私だけじゃなく、レオさんたちもだった。
てゆか、行けるってどういうこと???
「先に歩くから、同じように足跡を辿るんだよ」
「ジークリンドさんの足跡を、同じように踏むんですか?」
脚の長い美老エルフの足跡を、えいえいっと踏んでいく。
これ、身体強化の恩寵持っていなかったら、ついて行くの無理だったわー。
「前に九歩、右右、後ろに二つ、左に九歩で、ハイ! ついた!」
「ふぉっ!?」
一体なんの裏技なんだ!?
同じように足跡を辿ってきた私とレオさんたちは、無事に扉の前に到着する。
ん? 扉の前?
森の中に突如現れたのは、重厚な石造りの扉だった。
「いつの間にこんな扉が……」
「森の開き具合と、それに合った進みかたをすれば出てくるんだよ」
「あの、森の開き具合って……」
「エルフなら分かるんだけど、普通の人だと難しいかもねぇ」
えー、それってもしかして……。
「おじいさまは生粋のエルフですから、ここまで簡単に辿り着けるのです。自分が案内するとなれば、かなり難しいと思っていました」
「やっぱり……」
だからジャスターさん、塔で顔色が悪くなるくらいに調べ物していたんだね。
原因であるジークリンドさんは、決まり悪そうに眉を八の字にしている。
「ジャーたんには悪いことしたと思っているよ」
「良いのです。おじいさまは……おばあさまを愛していましたから」
「ジャーたん、優しい……」
「でもここまで来たからには、しっかりと向かい合ってくださいね」
「ジャーたん、容赦ない……」
たわいないスキンシップ(?)をする二人。
仲がいいなぁと思っていた私は、ふと重そうな扉が少しずつ開いていくのに気がついた。
「ふっ、んっ、よっ、こらせっ」
鈴をころがすような可愛らしい声に、豊かに波打つ黒髪。柔らかそうな白い手で一生懸命に扉を開けている姿は、私たちの庇護欲をかきたてた。
扉を「内側」から開けているところを見ると、彼女の正体は一つなのだろうけれど……。
ジークリンドさんが見せてくれた姿絵を思い出す。
そして、目の前にいる「彼女」を見る。
似ている。確かに似ているけれども。
「もしや、ジークリンドさんの隠し子……」
「気持ちは分かるが、落ち着け姫さん」
はーい! 落ち着きまーす!(落ち着いていない)
お読みいただき、ありがとうございます。
この裏ワザを知っている人は、同世代……!!




