108、守るべきものたち
いつも誤字脱字報告、ありがとうございます。
目が疲れてしょぼしょぼなので見直してもダメみたいです。本当に助かります。
塔の中では、なるべく全員一緒に食事をとるようにしている。
最初の方で「ひとりじゃさみしい」みたいなことを言ったら、過保護を発動させたサラさんがコースではなく、一度並べれば後は給仕する必要のない食事方法に切り替えたのだ。
だから料理長のモーリスさんも、デザートだけは別テーブルに置いておくけれど、一緒に食事をとってくれる。
「儀式が終わったばかりだから、しばらく皆と一緒に食事ができるね」
「チコリとルークも、食事はおとなしく食べてくれますから。本当に賢い子たちです」
サラさんは彼らがテーブルマナーよりも、遊んだり暴れたりすることを危惧していたみたいだけど、元々賢い子たちだから大丈夫だった。
それよりも、子どもらしくないところが少し心配かな。
それよりも……。
「ジャスターさん、どうしました?」
「え? 何がでしょう?」
「顔色が悪いように見えるんですけど」
「ありがとうございます。元気ですよ」
そりゃ、私の恩寵があるんだから元気だろうとは思う。でもそれはあくまでも、日常生活を送っている範囲内での話だ。
「お前、夜中になんかずっと調べものしてるよな。部屋の明かりが遅くまでついてるし」
「大図書館について調べていたのですよ」
「は? そんなの爺さんが分かっているんじゃないのか?」
「ごめんねレオ君、残念だけど一緒に行けないんだよぉ」
申し訳なさそうに謝るジークリンドさんを、レオさんは容赦なく睨みつける。
「アンタ、何言ってるのか分かっているのか? 姫さんが可能な限り安全に旅をするために、どれだけの準備をしても足りないくらいだ。知識の要であるアンタが同行しないでどうする?」
「レオさん、私はいいから……」
「ダメだ。姫さん自身が良しとしても、筆頭騎士である俺が許さん」
ピリリとした空気に、チコちゃんとルーくんが心配になったけれど、二人は真面目な顔で話を聞いている。オロオロしているのは私だけのようだ。うう。
「筆頭、おじいさまには理由があるのです」
「当たり前だ。爺さんが理由なく、騎士としての務めを投げ出すようなことはしないだろう。だからこそだ」
そう言ったレオさんは、しゅんとしているジークリンドさんを見て、ゆるゆると息を吐いた。
「……そうだね。すまない」
「謝るくらいなら話しておけ。姫さんに関わる全てを、俺たちは守る必要がある。それにはアンタも含まれるんだからな」
「はは、男前だねぇ」
「知ってる」
ふぉぉ、レオさんカッコいい!!
ジャスターさんも顔色が少し戻ってきたかも。よかったよかった。
チコちゃんとルーくんから書庫で探してくれた大図書館関連の書物を、セバスさんに部屋へ持っていってもらった。
ついでに仕事が終わった双子ちゃんを、家へ送り届けてくるとのことだ。
サラさんは雑務で、庭師のアークさんは部屋を出る時ジークリンドさんに「元気出せよ!」といって背中をバシバシ叩いていた。頑強なおじいちゃんエルフだからいいけれど、普通のおじいちゃんなら吹っ飛ばされちゃうよ。
お茶を入れてくれたサラさんは、気をつかって席を外してくれる。
騎士四人と私のみの。ランチ「後」ミーティングだ。
「それにしても、ジャーたんを使うなんて卑怯な……」
「いや、こうなると分かっていただろうが」
「ジャーたんなら知識もあるし、現地を一度訪問しているからねぇ。大図書館の情報なら軽いと思って……」
やれやれとジャスターさんが肩をすくめる。
「おじいさまは自分を過大評価しすぎです。それに……」
ふと口をつぐんたジャスターさんに、ジークリンドさんは苦笑して彼の言おうとしたことを引き継ぐ。
「春姫たんには話をしたけど、大図書館には管理人という存在がいてね。それが亡くなった妻なんだよ」
「管理人という存在……人間ではないのか?」
黙って聞いていたキラ君が、痛ましげに言う。うん。私もアサギから聞いて、そこがちょっと分からなかったんだよね。
「妻が亡くなって、どれくらい経ったか分からないけれどジャーたんが生まれて、とても頭のいい子だからって大図書館に連れて行くことにして……着いたら以前とは違う管理人がいたんだよ」
「あの時、おじいさまはとても驚いてましたね。おばあさまに縋って、泣きながら名前を呼んでいました。でも……」
「前の管理人と同じような会話しかできなかった。それで分かったんだ。彼女は管理人であり、亡くなった妻ではないということがね」
あの姿絵とそっくりな管理人がいたのに、中身は奥さんじゃなかったってこと?
それは……辛すぎる。
「神王様が、なぜ管理人を妻と似せたのかは分からないけれど、さすがにアレは堪えたねぇ」
思い出すのも辛いだろうに、話してくれたジークリンドさん。
やっぱりついてこなくていいと言おうとしたところ、レオさんが口を開く。
「話を聞いたら、なおさら爺さんは行く必要がある。大図書館は世界の知識があるんだろう? それなら、その管理人ってやつが、どうしてアンタの大事な人とそっくりなのかも調べたら分かるんじゃないか?」
「それは……」
「姫さんの恩寵や俺らの妙な力とか、普通じゃないことを調べに行くんだ。手がかりくらいはあるんじゃないのか? ここでうだうだ悩んでいるよりも、少しはスッキリするだろう」
「なるほど」
「さすが筆頭です」
キラ君とジャスターさんが「目から鱗」という表情をしていて、私も彼らとまったく同じ気持ちだ。
ジークリンドさんはしばらく俯いていたけれど、ゆっくりと顔を上げたその目は、今までに見たことがないくらいキラキラとしていた。
「そうか、そうだね。分からないから怖い。知ることを恐れて進まないなんて、知識を得ることを生業とするエルフの名折れだ」
こうして大図書館へ行くメンバーにジークリンドさんも加わったんだけど、じぃじと一緒にお留守番する気満々だったチコちゃんとルーくんが盛大に駄々をこねたのには参った。
でも、二人の子どもらしい面が見れたから、ちょっとホッとしたかも。
お読みいただき、ありがとうございました。
そしてこの作品を某ファンタジー大賞に応募しておりまして、たぶん50位以内でゴールできたかと思います。
皆様の応援、感謝です。ありがとうございました。
結果は10月末になるらしいです。ぶるぶる。




