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10、コミカライズしてみました



 私が今回選んだ本は、いわゆるロマンス小説だった。数代前の四季姫と騎士が、親御さんに結婚を反対されて駆け落ちするというものだった。

 この世界では貴族制度がある。そして、身分の差で結婚を反対されることは多くあるらしい。この物語の中の姫は貴族の生まれ、騎士は平民の生まれだったという身分差があった。


「まぁ、身分差みたいなのは、日本でもあるっちゃあるからなー」


 カリカリとペンを走らせながら、過去の男を思い出す。やけに上から目線の金持ちボンボンとなんとなく付き合うことになって、私が体を許さなかったばかりに振られちゃった。

 振られた翌日、そいつが「婚約者」とやらの金持ちお嬢様と一緒にいるのを見て「結局金持ち同士で付き合っていたんじゃないか。私とは遊びのつもりだったのか」と思ったものだ。

 まぁ、なんとなく付き合うことにした私も悪いんだけどさ。


「異世界でも変わらないんだね。人の営みっていうのは」


 ひとり言を呟きながらも、ペンを持つ手は止まらない。久しぶりの感覚に私はトランス常態となる。ニヤつく顔をそのままに、ひたすら漫画を描いていく。


「失礼いたします。姫様、お食事の用意ができておりますが」


「ふぁっ!? あ、サラさん、ありがとう」


「精が出ますね」


 覗きにくるサラさん。大丈夫。しっかりと全年齢対象のを描いているから大丈夫。

 薄い本(主に成人のみ閲覧可能の至高なる本のこと)だと危険だった。故郷にある聖地でやたら取引されていた本は、この世界ではまだ早いだろう。たぶん。

 まだ数ページだけど、私の描いた漫画に目が釘付けのサラさん。何度も読み返しては、頬を染めて目を潤ませている。おおう、突然どうしたんだ?


「だ、大丈夫? サラさん?」


「これは数代前の姫ですが、実際にあった話なんですよ! この騎士様がとても美しく儚げで、そこに姫様も惹かれて……そんな二人がまるで生きているように描かれています! 素晴らしいです!」


「あ、ありがとう?」


「これは本を読んで描かれたんですよね。文章だけでよく絵が」


「そうだね。この世界だと絵とか入れないの?」


「子供用の絵本はありますが、このような小説になりますと絵が入らないのが普通です」


「実際の人物が本になることもあるんだね。数代前っていっても、本人達はまだ生きてるでしょ?」


「ええ、普通は数年ほどで交代されることが多いですから」


 う、まさか私はこのまま老後まで頑張るつもり……なんて言えない。これはある程度務めたら誰かになんとかしてもらうしかないか。

 なんとかっていっても今はノープランだけど、なんとかなる! ……と、思う。


「そうだ。こういう絵って売れるかな?」


「それはもちろんでございます! ですが、同じものをたくさん描くのは大変そうですね」


「え……もしかしてこの世界、印刷技術ないとか?」


「いえ、文字は印刷でなんとかなってますよ。この本も印刷したものですし。少し前までは人の手で書く写本が主だったんですけど」


「そこからか……漫画を広める以前の問題か……」


「この印刷技術を広めた人物が傭兵団にいると聞いています。レオ様ならば何かご存知かもしれませんね」


「聞きたい! その話! ぜひとも!」


 私の剣幕に驚いたのか、サラさんは顔をひきつらせながらも「そのようにしましょう」と言ってくれた。

 うん。我ながら良い判断をしたもんだ。

 レオさんから色々と話を聞いて、姫を引退しても収入を得られるように根回ししておかないと。







 そろそろ米が食べたくなってきた……という、現代から異世界へ行ってしまう主人公が陥る「ラノベあるある」症状にはまだなっていない。

 確かに米は食べたいけど、麦でなんとかなってるんだよね。米の時と同じように炊くと、もちもちして美味しいんだよ。

 塔の一階にある厨房で、サラさんと私は色々な料理を試していた。


「さすが異界の姫様ですね。不思議な調理法を知ってらっしゃいます」


「そうは言っても、私の説明で作っちゃうサラさんのほうがすごいよ」


「これに味付けして、卵やベーコン、野菜などと一緒に炒めるというのも初めて聞きました」


 本当はチャーハンが好きなんだけど、ピラフみたいになってた。でも美味しいから文句は言わないよ。

 そんな感じでご飯を食べていたら、どこからか綺麗な鈴の音みたいなのが聴こえてきた。

 これは初めてだぞと思ってたらサラさんが反応する。


「姫様、お着替えをしませんと」


「え? なんで?」


「来客です。私がお客様を応接室へ通しておくので、姫様は魔法陣でお部屋に戻っていてください」


「わ、わかった」


 そういえば私は評判の悪い春の姫で、ここに来る人もいなかったから気づかなかった。こういうシステムになっているのか。なかなか便利だな。

 部屋に戻ったけど、どんな服に着替えればいいのか分からない。それ以前にこの世界のドレスが複雑すぎて、私には着方が分からない。塔の中の私はサラさんの娘さんのお下がりワンピース姿だ。

 その時、ドアをノックする音が聞こえる。天の助けとばかりに泣きつく私。


「サラさーん!」


「大丈夫ですよ。お客様はレオ様でしたので、待っていてくださるそうです」


「あれ? レオさん早くない?」


 確か彼は一週間で講師の契約が切れると言っていた。傭兵というのは、そういう約束事を大事にするイメージだと思ってたんだけど……と、サラさんにドレスを着付けられながら私はボンヤリと考える。

 それにしても、すごく鮮やかな青だなぁ。服に色を入れる染色とかの技術は進んでいるのかもしれない。

 そう聞くとサラさんは首を横に振る。


「いえ、こちらのドレスは塔と同じく、神王様が創られたものです」


「創られた?」


「はい。そう聞いております」


 私には大きく感じるこのドレスは、不思議なことに腰の紐を結んだ瞬間、体にフィットした。なんだこれ。すごい。

 目を丸くして驚く私に、サラさんは微笑む。


「ですから、神王様の『創られたもの』なのですよ」


 なるほどね。まぁ、姫や騎士にチートなスキルを授けるくらいだもん。これくらい軽いよね……あまり納得はできないけど。

 ここは異世界で魔法もある、ファンタジーなのだと言い聞かせてないと、頭おかしくなりそう。


「そっか」


 人より柔軟な思考回路を持っていると思っていた私でも、この世界の常識はぶっ飛びすぎて疲れるときがある。そこに言葉が通じなくて、訳のわからない状況に陥った歴代の春姫はきっとこの何十倍も混乱したんだろうな。

 あれ? でも、あの本があれば少しは状況把握できたんじゃ……。


「用意できました。とても愛らしゅうございますよ、姫様」


「あ、はい。ありがとうサラさん」


 この事は考えててもしょうがない。今は自分がどう動くかをしっかり考えなきゃだよね。

 過去の春姫たちのことをそうやって切り捨てたけど、まさかその「過去の春姫」が関わるとは、この時の私は思ってもみなかった。





お読みいただき、ありがとうございます。

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