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101、新しい仲間と遠回りして帰ろう


「あら、元気そうじゃない」


「アンジェリカさん、昨日はご迷惑おかけしました」


 秋姫の筆頭騎士、アンジェリカ(ゴッドフリー)は、朝から艶やかな褐色の肌をムキムキと見せてくれる。

 なんだか彼の笑顔が、ひどく、眩しい。


「迷惑なんかじゃないわ。春姫様は体が弱いって聞いていたのにって、うちの姫が心配してたから、よかったら顔を見せてあげてちょーだい」


「あはは、ほんと、すみません」


 いきなり目の前で寝落ちしたら、そりゃびっくりするよね。でも「病弱設定」があったからセーフだったのかな。

 そういえばあの時、妙な夢を見た気がするけど、よく覚えていない。むむむ。


 気づけば傭兵さん達は宿泊施設の食堂に移動済みだった。キラ君がさらっと移動させていたらしい。

 あれ、もしかして暴走してたのも見られていた? と思ったら、レオさんがうまく『鉄壁』で隠してくれてたみたい。

 それで自分の防御が間に合わず、アバラをやられたそう。ごめんなさい。速攻で治しました。


 私たちも行こうかと話していたところ、お見舞いに来た筋肉天使アンジェリカさんと鉢合わせしたというわけだ。彼女?の流し目を受けているレオさんとキラ君は、ちょっと顔色が悪くなってる。がんばれ。


「ところで、うちの姫の恩寵のことをご存知?」


「あ、はい。公式には『魅了の舞』とありましたよね」


 各国共通で発刊されている月刊誌があって、それに姫達の情報や人気の騎士達の情報が載っている。絵がないから文字だけだし、一般の人たち向けだから「アンジェリカと書いてゴッドフリーと読む」などという情報は載っていない。

 それよりも、月刊誌の名前が『四季姫報』なのが気になる。会社情報みたいでげふんげふん。


「そう、うちの姫は言葉と動作で、魅了の力を使えるのよ。そして、私の持っている恩寵のひとつに『状態看破』っていうのがあってね。定例会っていうのは、実は姫の恩寵に耐えることができているのか調べる会なの」


「じゃあ、あの盛り上がりは……」


「あの子たちは、魅了にまったく耐えることができていないわね! 不甲斐ない見習い騎士達だわ!」


 会場を埋めつくすほどいた騎士たちが、実は全員見習いだったとは……。


「ということは、昨日アンジェリカさんが、私の心を読んでいたのは」


「あんな分かりやすい表情をしてる子に、いちいち恩寵を使うわけないじゃない」


「ぐぬぬ」


「もしや、うちで保護している少年のことを言っているのか?」


 レオさんの言葉に、私とキラ君が固まる。

 そうだ。人の状態が分かるということは、ジャスターさんの『鑑定』と似たようなことが出来るってことで。


「彼は『塔の関係者』ではないけれど、うちの塔には入ることができたわ。悪意がないことは分かっているの。それに……うちの姫と似たような髪色をしていた」


「あの、彼はただ、秋姫様が元気にしているのか見たかっただけで……」


「彼のことは、秋姫様には内密にしてもらいたい」


 慌てる私とは対照的に、低く落ち着いた声のレオさんは続けて言う。


「秋姫様の過去に関係する人間だ。慎重に頼む」


「……そうね。うちの姫からは全て報告する必要はないって命令されているから、しばらくは黙っておきましょうか」


「恩は、いずれ彼が返す」


「楽しみにしているわ」


 アンジェリカ(筋肉)はバチコーンとウィンクすると、塔へ向かって行こうとして振り返る。


「そうそう、そこの金髪キラキラ王子きゅんったら、ちょっと魅了されかけていたわよ。気をつけてねん♡」


 しっかりと盛り上がった大臀筋をプリプリ振りながら去っていくアンジェリカ。


「おい下っ端。明日の訓練、覚悟しておけよ」


「……はい」


 やっぱり秋姫みたいなボンッキュッボンッが必要なのかなぁ。

 彼女に比べると寂しい自分の胸元に目を向けて、小さくため息をついた私でした。まる。







 どこか、暗い影を背負ったような美少年は、ピンクがかった金色の髪をフワフワゆらして微笑む。

 揺れる馬車の中にも関わらず、彼は丁寧にお辞儀をした。


「僕のことは、ナジュムと呼んでください。ビアン国では成人したら名前を自分でつけるのですが、この外見のせいで子どもとして生活するしかなかったので……」


「もちろん。よろしくナジュム君」


 ナジュムとは「星」という意味を持つそうだ。幼い頃の秋姫が、彼に「星みたいに綺麗な瞳ね!」と言われたからだという、ほのぼのエピソードを頬を染めた美少年が教えてくれた。

 うむ。尊いね。


「とりあえずナジュムは私と同じく、馬車で移動することになります。姫様のお世話は私がしますので、今は体調回復を第一に考えてください」


「わかりました。サラさん」


 ナジュム君の恩寵は、まだ発動したままだ。でも私が彼を『塔の関係者』と認識したことによって、多少は力を緩めることが出来ているみたい。

 キラ君の時みたいに、騎士にすることも考えた。けれど、成長を止めるほどの強い力を一気に取り戻すのは危険をともなうというのが、ジークリンドさんの見立てだった。

 ジャスターさんも都度、ナジュム君を『鑑定』してくれるそうで、異常があれば都度対応するということになった。


「ごめんね。本当はすぐに春の塔に帰ればいいんだけど……」


「いえ、大丈夫です。おかげさまですごく楽になりましたから」


「そう? 何かあったら言ってね」


「はい」


 ついさっきまで他人行儀にしていたけど、今は身内だから口調もくだけている。

 いや、ほら、他人だって強く思わないと情を持っちゃうでしょ? そしたら別れが悲しくなっちゃうじゃない? え? 私だけ?


「ところで姫様、帰りは山側を通るのですよね」


「サラさん、疲れたら言ってね。キラ君になんとかしてもらうから」


「父に鍛えられておりますから、私は大丈夫ですよ」


「ナジュム君だけでも塔に送りたいんだけど、私が一緒にいないと向こうも混乱するからなぁ」


「本当に、お気になさらないでください。春の姫様」


 砂漠越えを出来ない理由は、申し訳ないけどナジュム君を使わせてもらった。砂漠では恩寵が使いづらいというやつだ。

 来る時は『春姫』の力でナジュム君も耐えられたそうだけど、大事をとってということにした。傭兵のおじさんたちも、レオさんのいる安全な旅の延長を喜んでくれた。報酬は割り増しにしておきますよ。

 これなら自然に「遠回り」して帰ることができる。


 ふふふ、見てなさい。


「春の姫様、顔……顔が……」

「あらあら、悪い顔をしている姫様も、お可愛らしいこと」


 ちょっぴり美少年に引かれながらも、私はとあるプロジェクトを遂行すべく気合いを入れるのだった。


お読みいただき、ありがとうございます!


まわり道、遠まわり、より道、迂回……

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