99、黄金色の対話
ところで、気になるのは私の描いた漫画の内容だ。
がっつりではないものの、若干の百合(女の子たちが仲良くする)要素があるものを、秋姫は好むという。
「そうなのよ。それが、アタシみたいなのを筆頭騎士にした理由でもあるの」
今度は声に出していなかったと思うけど、なに? このオネエ騎士は読心術でも持ってるの?
「姫さん、ただ顔に出てるだけだと思うぞ」
「我らの姫君は素直でらっしゃいますからね」
「そこが可愛いんだけど」
「……まぁ、気にするな」
たたみかけるように、うちの騎士たちがフォローにならないフォローしてくれる。
最後のキラ君なんか一番ひどいと思うんですけど。
まぁ、私のことは置いといて。
「秋姫様は、男性が苦手なんですか?」
「ええ、実は塔に入る前、他家の者から命を狙われたことがありまして……。運良く別の部屋にいたため助かりましたが、あの時の恐ろしさは今でも思い出すと怖くなります」
「そうだったんですね……ん? あの、うちの騎士たちを同席させちゃったんですけど、大丈夫でした?」
「春の騎士様方は、ゴッドフリーが見て大丈夫だと判断したので」
「やだー! もう、秋姫ちゃんったら! ちゃんとアンジェリカって呼んで!」
「男らしくて良いではないですか。ゴッドフリー」
どことなく覇王みのあるその名前に驚きながら、彼の源氏名?にふと疑問を感じる。
「なぜアンジェリカなんですか?」
「道ばたで倒れていたときに、ふと思いついたのよ!」
おっと、それ以上はいけないぞ。
倒れていた理由とかが気になるけど、この人と関わるとなんだか危ない気がする。
「それが正解よん♡」
だから、心を読まないでってば。
秋姫から、塔の近くに宿泊施設があるから、そこで泊まったらどうかという申し出が。ありがたい。
たまに塔の外で野外ライブらしきことをするから、それを観に来たお客さんのために建てたんですって。
ゴッドフリー改めアンジェリカ曰く、「騎士だけじゃなく、周辺住民や砂漠越えした人たちにも楽しんでもらわないと!」とのことだった。
秋姫には同情を禁じ得ない。
「春姫様の行軍に参加されている方々も、そちらで休んでいただければと思います」
「今日はぜひ、泊まっていってちょーだい!」
「ありがとうございます。助かります」
すっかり野営をするつもりだったけど、秋姫の好意に甘えてしまった。それに加えて「できたら、その、女子同士のお泊まり会というものをやってみたくて」などと言われてしまったら、お言葉に甘えるしかないよね。
大人っぽく見えるけど、まだ十代だという秋姫。
お姉さんであるはずの私は、自分の貧相な体を見てちょっと落ち込む。
「姫さん、外にいるオッサンたちを案内してくる」
「ありがとうございます。レオさん」
元傭兵団長のレオさんは、こういう時の動きが早い。
いつも助かるなぁとほんわかしていたら、Uターンして戻ってきたレオさんが頭を撫でてくれた。
「いい子で、待ってろよ?」
「!?」
口元を緩めて、なぜか色気を出したレオさんは颯爽と部屋を出ていった。
今のは一体なんだったんだ。顔が熱いんですけど。
「あら、やっぱり筆頭騎士は春姫ちゃんの特別なのねぇ」
「わたくしにとって、ゴッドフリーも特別ですよ?」
「だからアンジェリカだって、言ってるでしょー!」
そうだ。
筆頭騎士は、姫の「結婚相手の候補」なんだ。
男性が苦手な秋姫はともかく、外から見れば私はレオさんを……。
なんか急に恥ずかしくなってくる。顔だけじゃなくて体まで熱い。頭の中がグルグルしてきて……。
「春姫たーん、こっち向いてー?」
ふと見れば、柔らかな笑みを浮かべる老エルフがいる。
「大丈夫だよ。春姫たんは特別なのだから」
特別?
「この世界の理にとらわれることのない、唯一の姫ってことだよぉ」
唯一?
「安心して。絶対に春姫たんの意に沿わないことにはならないからねぇ」
意に沿わないこと?
それは、違う。
だって私はずっと「意に沿わぬこと」を強要され続けてきたんだから。
『それは、本当?』
聞いたことのある声が、私に囁く。
『この世界は君に、優しくなかった?』
そんなことはない。
レオさんたちは優しいよ。
私が、申し訳なく思うくらいに……。
ん?
この会話、前にもしたような?
『もう少し、かな? またね。ハナ』
気がついたら次の日の朝。
すっかり夕飯を食べそこねていたからお腹がグーグー鳴っている。自分のお腹の音で目が覚めるとか、すごく恥ずかしいね。まさか、これ、誰も聞いてないよね?
「あらあら姫様ったら、本当にお疲れだったのですね。今すぐ朝食を持ってきますよふふふ」
……サラさんにはしっかりと聞かれてました。
朝食はピタパンに鶏肉と野菜がたっぷり入ったもので、ここらでしか採れないというフルーツのジュースとヨーグルトという健康に良さそうなものだった。
うむ。ジュースをおかわりしたらお腹いっぱいになってしまった。無念。
「失礼する」
入ってきたのはキラ君だった。
昨日、秋姫と話している途中で急に寝てしまった私を、レオさんはすごく心配したらしい。
ジークリンドさんが心配ないと言っても、医者を呼べとかバタバタ暴れていて抑えるのが大変だったそうです。ほんと、うちの筆頭がすみません。
「下手な医者よりも、ジークリンド殿は優秀なのだが……」
「それで、レオさんは?」
「ジャスター殿とサラ殿に叱られ、今は傭兵たちの訓練に付き合っているようだ」
「そっかぁ……」
いっぱい寝たせいか、ちょっと頭が重い感じがする。
でも、恩寵の『身体能力強化』があるから、こういうのはすぐに治っちゃうんだよね。
「少し、時間をもらえるだろうか」
「いいよ。何かあった?」
「保護をしている少年が、話をしたいそうだ」
お読みいただき、ありがとうございます。
そして感想の返信できず、すみません!!
しっかり呼んで、ありがたく摂取しております!!
がんばりまっするー!!!!




