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98、異世界でもプロデュース


 私たちが通されたのは、日当たりのいいガラス張りの部屋だった。


「温室とは、我らの塔には無いものですね」


「うちには無い?」


「ええ、必要ないと言ったほうが正しいでしょうか。もっと暑い気候の植物を育てるのであれば造らせますが……」


「必要だったらで、いいです!」


 ジャスターさんが「うちの姫がおねだりするなら〜」みたいな顔したから、あわてて止めた。あぶなかった。

 

 用意されていた紅茶は今までにない香りの強さで、サラさんが微笑みながらついでくれている。

 ジークリンドさんとキラ君が少し驚いた顔をしていたから、かなり高級なものなのかもしれない。

 食事や飲み物はジャスターさんが『鑑定』してくれているから、後で銘柄を教えてもらおうかな。ここら辺で売ってるものなら、お土産に買って帰りたい。

 

 秋姫が着替えなどの準備をしている間、こうやってくつろがせてくれているのはありがたかった。


「レオさん、少年と話せます?」


「今か?」


「少しだけ確認です」


 彼は恩寵の力で、今は私たちの仲間のように見えている。

 ところが私たちから見ると、仲間のようには見えない。


「ごめんね。君を同席させたいけど、たぶん姫と騎士しかこの場にいられないと思うの」


「さっき遠目からですが、彼女が元気だってわかりました。僕はそれでじゅうぶんです」


 サラさんと一緒に別室で待機していると言う彼に、微妙な気持ちになってしまう。私の想像どおりだとすれば、彼女は……。


「秋姫様が参られます!」


 警備の騎士から声をかけられる。

 こう見ると、やっぱりうちの騎士は少ないと思ってしまう。

 でもなぁ……、騎士になりたいって子がいないんだよなぁ……。(ピンク髪少年は除く)


「姫様、サラはこの子と別室で待機しております」


「うん。よろしくね」


 サラさんとピンク少年が部屋から出ていくと、前方にあった大きなドアが開く。

 入ってきたのは先程とはうって変わって、露出度の少ないドレスを身にまとった秋姫だ。明るめの褐色の肌に、白を基調としたドレスはとても似合っている。

 その後ろをピタリとついているのは、レオさん以上のがっちりとした筋肉を持つ騎士だった。秋姫と同郷なのか、濃い褐色の肌に紫という不思議な色合いの髪を持っている。


 ピンクがかった金色の髪を揺らし、秋姫は優雅にお辞儀をした。


「ようこそ、春を司る四季の姫様。異界より来たれし稀人であり、神王様に愛されし神子姫様には、健やかであらせられることとお慶び申し上げます」


「秋を司る美しき姫様にお会いできたこと、とても嬉しく……ごめんなさい。これ、続けたほうがいいですか?」


「ふふっ、大丈夫です。私もビアン風の挨拶は苦手ですから」


 やっぱりそうだ。秋姫からもらった手紙は、姫自身の手によるものではなかった。

 お互いクスクスと笑っていると、秋姫の後ろに控えていたガチムチ騎士が筋肉をピクピクさせながら出てくる。


「ちょっと! 秋姫ちゃんったら、ダメじゃなーい! もっと姫らしくしなきゃー!」


 いやちょっと待て? そこの筋肉こそ、もっと騎士らしくすべきじゃないか?


「やだー! アタシったら、春姫ちゃんに一本とられちゃったわぁ! 一本って、アタシにもまだ一本ついてるって感じー!やだー!」


 どうやら思ったことが口から出ていたみたい。

 そして、一本あるかないか問題は、まったくいらない情報なので厳重に封印していただけたら幸いだ。


「春姫様とは、仲良くなれそうで安心しました。王家の血を持つとはいえ質素に暮らしていたので、ビアン国のしきたりをこの筆頭騎士が代理で行なってくれているのです」


 そのガチムチ筆頭騎士は、その腕に大量の花を持っていた。私たちがお土産に持ってきた「春の花」だ。

 温室サンルームに持ってきてくれたのは、この花を長持ちさせるためらしい。

 筋肉と花の関係性については、うちの筆頭騎士の恩寵『千変万花』のこともあるので、コメントを伏せておきたいところでございまっする。


「ビアン国のしきたりですか……大変そうですね」


「ええ、この塔のお膝元である町には、ビアン国出身者が多いのです。それで、しきたりどおりに事を運ぶと、交渉が楽になることが多くて……つい、筆頭に頼ってしまいます」


「先程の定例会も?」


「それは、筆頭の趣味です」


「はぁ?」


 なに言ってんだこいつみたいな目でガチムチ騎士を見れば、かの騎士はまったく悪びれもせずに胸筋をピクピクさせながら口を開く。


「そうは言っても、四季姫様が騎士を多く得るには人気がないとでしょ? 人気を集めるために考えたのが、この『定例会』なの。そこから秋姫様の人気は爆上がりになったし、もう続けるしかないでしょ!」


 なんというプロデュース能力。

 どっかのアイドルを売り出すかのような手法に、思わず拍手を送ってしまう。


 そして、これで秋姫がさっきのやつを「喜んでやったわけではない」ということが判明したわけで。


「あ、そうそう、もうひとつのお土産があったんです」


 恥ずかしながら、私の一筆描き漫画だ。今回描きたかったのは、ずばり『お姉さまと妹のような関係から始まる青春ストーリー』である。

 事前に夏姫が「秋姫は絶対にこっち系! こっち系なのじゃ!」と鼻息荒く教えてくれたから描いたけど、正直面白いか分からない。

 でも、秋姫の筆頭がアレなんだから、きっと喜んでくれるはず。


「これは……!!」


 言葉を発することなく、ただひたすら夢中に私の描いた絵を読んでくれる秋姫。

 すごく嬉しい。


「なんということでしょう……私は姫学校に通っておりませんが、このような尊き関係があの場所にあったのですね!」


「いえ、これは、創作ですから!」


「あっ……そういえば、これはどことなく冬姫様と夏姫様の特徴があるような?」


「創作!! ですから!!」


 フィクションですから!!!!






お読みいただき、ありがとうございます!


出さずには!いられなかったのです!(ちょっと後悔してるw)

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