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リビングデッド〜命の雫〜  作者: 悟飯 粒
学校の怪異その1〜屋上の首吊り場〜
9/25

燃えるゴミと安全な高台

「あの、人間のなり損ない。人を裂いて食う奴ら……端的に言えば化け物はな、元は人間なのさ。」


にん……げん?あれが?人を食べてるのに?え?いや………そんなのありえちゃだめだ。


「あり得るんだなこれが。奴らは元々人間なのさ。………魂が感化されて、あんな化け物になる。」

「感化?」

「ああ、外側からとある刺激を受けるとな、奴らの魂が肥大化するんだ。そして……肉体が、その魂の重圧に耐えきれなくなって、願望に叶った肉体に変化していくんだ。」


あの鉤爪は……人を裂きたいという願望が生み出したというの?あの異様に長い手足は、逃げる人間を捕まえやすくする為?………全ては、人を壊したいという願望から………

ブルッ

寒気がした。夜とはいえまだ夏なのに……毛が逆立つ。元々人間だった彼らが、その真っ黒な願望を膨らませたせいで殺人鬼と変わった。貪欲で底のない、ヘドロのような思惑があれを形成したんだ。………私も、あれになり得るってこと?


「魂が全てを支配するんだ。肉体という檻は武器となり、願望というものはエネルギーとなる。濃くて強い願望はさらなる力を生み出す………あの夜倒したジャンクは小物だった。欲が少なくて不味かったなぁ。……まぁ、肥大化されてる分、普通の奴よりは腹持ちは良いんだが………」

「…………………」


私は、彼の話を無言で聞いていた。

油みたいに噴き出す汗が、なんとも気持ち悪くて私は言葉を出さずにいた。

どこまでも落ちていく陽の光。隠れてしまってもう見えないが、私の心も多分あれと同じように落ち込んでいるに違いない。


「………人間なのに、よくジャンクなんて言えるね。」


ずっと無表情で喋り続ける雫を見て、私は苛立った。まるで人の命をゴミみたいに………許せなかった。


「まぁなぁ……ああなっちまったらゴミだからな。燃えるゴミとなんら変わりはねぇ。」


パァン!!!


私は思いっきり雫の頬っぺたを殴っていた。もうとっさに、勝手に手が出ていたんだ。


「……なんだ、怒ったのか?」

「怒らない方がおかしいでしょ!!元は人間なのにっ!!」


ジャッ……

ヒリヒリ痛む拳を振り上げ、私は再度雫の顔めがけて振り下ろす!!


パシッ!!

しかし、雫はそれを容易く掴み、私の動きを抑えた。


「離してよ!!このっ……」

「………ふん。そうかい。」


パッ……

雫は少し笑うと、私の腕を掴んでいる手を離した。


「ここまで救いようがないなんてね!!見損なったわ!!」

「………別に見損なってくれて構わねーよ。」


なーにチビのくせにすましてんのよ!!このゲス!!外道が!!


「ただよ、お前だってあれが人間だって知らなかったら、どこまでも毛嫌いしてたよな。まるで人ではない、化け物みたいに………」

「うっ……そ、そうだけど!!」

「ジャンク……お前はその言葉に納得していた。それは紛れもなく、お前はあれをゴミと認めていた証拠じゃねーの?」

「つっ………」


………否定ができない。確かに私は、その言葉に寂しさを覚えるも、納得をしていた。人間のなり損ないで、死んでしまった方が嬉しいとまで思っていた。………でもっ!!でもでも!!


「…………はっはっ!!なーに、落ち込むことはねーよ。人間そんなもんだ。殺そうとしてきた正体不明なんてのは快く歓迎できないもので、お前は正常さ。」


雫は笑いながら、私を励ましてくれる。

正常………多分そうなのだろう。知らなかったとはいえ、あの反応をするのは当たり前なのだと思う。………でも、知ってしまったら…………


「………知っちゃったら、認めてあげないと……………」

「…………………」


元は人間なら………否定ばかりしていられない。元は同じなのだから………


「………はぁ、25人だ。」


不意に、彼が口を開いた。ビルの上の赤色の光を眺めながら………


「お前みたいに甘ったるい言葉を吐き捨てて、結局、奴らを憎むようになった人間の数だ。」

「そ、そんなのやってみなくちゃ!!」

「分かるよバカでも。……実害が出てからが本番だ。良いか?これ以上深く関わって、奴らを人のように扱い続けたら、お前は確実に死にかける。もしかしたら、お前の友達も酷い目に合うかもな。」


………智美が?……まさか、智美は私よりも賢くて危険には首を突っ込まない人間だ。私ならともかく彼女が被害に遭うなんてそんな………


「………お人好しは安全なところから手を差し伸べる。なぜなら危険に踏み込んだら、そいつは善人ではいられないと知っているからだ。………もし善人でいたいなら、俺から離れることだな。もう一度言うぞ。実害が出てからが本番だ。」

「………誰があんたの思い通りになるかバーカ!!」


私は舌を出して雫をバカにした後、急いで屋上の出口に向かった。


「………その言葉も、25人目だな。」

「つっ!!」


ガシャーン!!

私は急いで扉を閉めた!!


「なーにが25人目だよバーカ!!私はやると言ったらやる人間だ!!そこらへんの偽善者達と同じにするなよアホンダラ!!チビ!!偏屈!!なんかこう……言葉にできないけど生意気な髪型!!」


私はプリプリ怒りながら、暗くなった廊下をズンズンと歩く。


ふん!!腹が立つ!!

大体あれだ!まだ本当に自殺しているかどうかなんて分からないじゃないか!ええ!?本当にそんなことが起こってたら、情報通の私や智美の耳に入っていないわけがない!!女子の情報網なめんじゃないわよ!!スパイダーよスパイダー!!素通りしようとした情報を絡め取っちゃうんだからね!!


タタタッ…………


「………ん?」


なんだ………足音が聞こえたような…………


ヒュゥーー………

チカッ……チカッ……


思い出した。今、夜の学校に一人でいるんだ私。

新しいとはいえない校舎の隙間から風が漏れ出し、口笛のような音を奏でている。蛍光灯も古いのだろうか……両端が黒ずんでて、点滅とはいえないまでも、明かりにむらがあった。モワモワっモワモワって感じ。


「……………」


急に怖くなった。とてつもなく怖くなった。

いや、だって、こんな時間帯に足音って……部活動?………いやいや、下校時間もうとっくに過ぎてるし…………それに、化け物のことも………


「…………ふっ。」


私は両手を腰に添え、地面を見つめながら鼻で笑った。


「あははははははは!!!」


そして高らかに笑った。もう、肺がはち切れんばかりに。


「……………」


おーし、大丈夫だ。問題ないよぉ。何も問題ないよぉ。夜の学校に一人いるだけだ。何も焦る必要はないよぉ。

こう、深呼吸して前を見ながら歩けば………そう、家にご馳走が待っていると思うんだ。例えば…………


「おい、何もたもたして」

「北京ダック!!!」


パシーーン!!!!


「ウォォォおおおお!!!私はジャンボジェット!!!誰よりも速く!!!」


私は後ろを振り返ることなく全力で走って逃げた。

ふんっ、お化けめ。不意打ちで1発かましてやったわ。人間様に恐れひれ伏すがいい!!あっはっはっはっ!!!………もうやだぁぁあああああ!!!


「………やっぱバカだな。」


雫は一人、アヤが走り去っていくのを眺めていた。

………しかし、あそこには嫌な臭いが残っていた。

雫は屋上の事を思い出しながら、天井を見上げている。

体液、血液、尿……吐瀉物。拭い去ろうとしても、俺の嗅覚はごまかせない。あそこで確実に首吊りがあった証拠だ。

首は切れてないから………かなり太め。荒縄?………学生が簡単に手に入れられる物なら………バスタオルを何枚も重ねたものだろうか。

どっちみち、こりゃあ化け物の仕業だ。しかもよりにもよって[思念型]か……犯人探しが難航しそうだな。


雫は考え込みながら、その場を後にした。



「………………」

「………………」

「………………」

「…………どうしたのアヤ。」


翌朝。私は登校するとボンヤリと黒板を眺めていた。それを見かねた智子が尋ねてきた。


「………怖くてねれなかった。」

「……………」

「夜の学校怖い………」

「子供かお前は。」


あの後怖過ぎてねれなかったんだよぉお!!だって夜の学校に響く足音だよ!?肩叩かれたんだよ!?……死ぬわそんなの!!


「………………」


なのに!!雫は淡々と授業の準備をして筆箱からボールペン取り出して真面目を装っている!!私と同じように怖がって寝不足になっちまえ!!


「もう本当夜の学校怖いぃぃい!!!もう絶対一生あんなところ行きたくないよぉおお!!!」

「ああはいはい。怖かったねー。慣れてないことはするもんじゃないよー。」

「………子供かよ。」

「子供ですけどぉ!?」

「じゃあ夜更かしなんかせずに寝てろ。」

「怖かったんだよもぉぉおお!!!チビ!!勘違いチビ!!頑固一徹!!」


私は智子に抱きつきながら、雫に思いつく限りの罵声を浴びせる。


「………ねぇアヤ。もうあんな危険なことしない方が………」


危険なこと………

昨日の言葉が蘇る。化け物のこと……元は人だったこと………ここで逃げ出したら、雫に笑われてしまうじゃないか。「結局偽善者じゃないか」と、笑われてしまう!


「絶対やだ。雫をボッコボコにして私を認めさせない限り諦めない。」

「!!!」

「ん?なに驚いてるの智子。私の性格知ってるでしょ?私はやるって決めたらとことんまでやるんだよ。」

「そ、そうだけど…………」

「危険だろうとなんだろうと、私は自分の信じた道を行く。私は偽善者じゃないとこいつに認めさせるんだ。」

「………………」


無言の智子を尻目に、私は授業の準備を始める。

今に見てな……そのすまし顔をギャフンといわせてやる!!



「うぅっ……気分悪い。」

「どうした。もうノックダウンか?」


全ての授業が終わり、帰宅時間になって私はグッタリとしていた。

それもそのはず。そもそも私は勉強が苦手でついていくのですらやっとなのに、この連日の徹夜だ。もうね、授業で起きているのがやっと。ノートなんてもう………うわーー。「アリの歩行の方がまだ綺麗な軌跡を描くよこれ。」って言いたくなるぐらいグチャグチャだ。

………これも全てあの男のせいだ。泣かせたる。


「家帰ってちゃんと寝るんだな。」

「なっ………どこ行くのよ!」


教室から出て行く雫の後を急いで追って並んで歩く。


「情報収集。」


それだけ言うと、雫はのんびりと歩いて行く。

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