エロ本じゃない方
「キッヒッヒヒヒ………笑いが止まらないね。」
私は美術室の先生用のでかい机の下にうずくまりながら、ニヤニヤと笑っていた。学校の探検をするというのなら、やはり美術室は格別だ。だって、生徒達の出来の悪い作品を見て「うわヘッタぁ!!」と言うのが一番楽しいのだから。絶対に来る!そして来たところに、バッ!!!と飛び出し、どぅわっは!!!と脅かし、ギャハハハハ!!!とバカ笑いしてやるのだ!!今に見てろよその澄ました[俺、クールっすよ?]顔を恐怖のどん底に叩き落としたるわ!!
「キヒヒヒヒヒッッ…………」
「……………」
美術部員が絵を描いている中、私はニヤニヤと笑い続けていた。
「………最近、変な人が多すぎるよねぇ。」
部員の1人が呟いた。
全くだよね……雫とか変なやつ筆頭でしょ。
「本当ねぇ。テスト終わったからってみんな弾けすぎなのよ。」
「でも今頃弾けてるやつなんてバカばっかよね。可哀想だと思うわ。」
ウンウン。
私は隠れながら頷いた。
私はテストがあろうがなかろうが常に弾けているから関係ないもんね。テストなんて良い学校に入りたいやつだけが受ければいいんだ。
「そんなこと言いながら、絵を黙々と描いている私たちって一体………馬鹿騒ぎしている奴らと比べたら、私達は青春しているのかしら。」
「し、してるわよ。趣味にのめりこんでいるんだからさ。」
「だったら、もうちょっと、のめりこんでも良いんじゃない?直角になるべきじゃない?私達30度ぐらいでしか突っ込んでないわよ。」
「き、き、……き、気のせいよ?私、絵が得意だから美術部に入部したんだから。なんとなくではないのよ。」
「得意ったって、エロ本の模写だけじゃないの。確かに突っ込んではいるのだろうけれど、ちょっとそれは頂けないと思わない?」
「………い、頂けなくないし。大いに頂いてるし。ビンビン精力頂いてるしっ。」
「…………だから青春してないと言われるんじゃないの?」
うわっ………それは確かに青春しているとは言えないかも…………
2人でブツブツと会話している美術部員。ほんの少しずつ傾いてきた太陽の光が青色に染まっていく。
………しかしあいつ来ないなぁ。もうそろそろ日が暮れてしまうんだから、さっさと来てくれないと………
「………まだ私達は青春している方だと思うけどね。死にたいと思ったことがないもん。」
エロ本の模写が得意な美術部員が呟いた。
雲が光を遮ったのか、私に影が落ちた。
「…………なのかもね。最近、この学校で何人か自殺しているらしいし……」
えっ……
息をこらえて音を出すのを我慢していたのに、その言葉を聞いて不意に息が漏れた。
だって……そんな話聞いたことがないもん。
「なんなんだろうね………そんなに追い詰められていたのかな?」
「さぁ………虐めるられたことも、死にたくなるほど悩んだこともないから、想像もつかないよ。………でも、そうだろうね。追い詰められていたんだと思う。死んだ方が楽だって思えるぐらいには…………」
何人も自殺している……そんな重大なこと、なんで私の耳に届いていないんだ?生徒なのになんで………
「自殺って言ったら………学校七不思議よね………[屋上の首釣り場]。」
屋上の首釣り場………
「[年齢もクラスもバラバラの10人が、家庭への不満を遺書に記して、屋上で首を吊って自殺する]ってやつだっけ……」
「そうだね。イジメじゃないから、テレビは一切取り上げず、世間に認知されない。……所詮、民放は民意になびく事しかできないって感じよねぇ。」
「………………」
………自殺のことなんて一切聞いたことがないし、そもそも学校七不思議、言ってしまえば怪談だ。そんなものを信じるなんてバカバカしいのだけれど………
「一回あり得ないものを見たやつが言って良い言葉ではないな。」
雫の言葉と、あの夜の化け物が頭によぎる。否定ができない………いや、そもそもそういうのを探すために雫はこの学校に来たって言ってたし…………まさか、これが目的なの?
「………あ、ごめんね雫君。つまんない話しちゃってたね。」
「良いですよ別に。僕も好んでモデルになったわけですから。」
「なんでお前がいるんだぁぁあああ!!!」
ガタンガタンガタン!!!
頭を何回も天井にぶつけながら、私は隠れた場所から飛び出し、女2人の前でカッコつけて座っている雫に詰め寄った!!!
「なんで!?いつの間に!?入って来た時にはいなかったよね!?」
「いや、いたけど?掃除用具箱の中にいたんだけど気づかなかった?」
「お前も隠れてるなんて知るかぁぁああ!!!私が驚かせたいんだよ!!!私を驚かせんじゃない!!!」
私を驚かして嬉しいのかニヤニヤしやがってぇ!!腹立つなぁ!!
「あれ、あんたが脅かす予定だったのは彼だったの。てっきり同性かと思ってたんだけどなぁ………彼氏か何か?」「怨み敵だ!!」
ギロッ
私はエロ本じゃない方を睨みつけた。
「そ、そう………分かったから睨まないでくれる?眼力強すぎるわよ。」
………分かれば良いのよ分かれば。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。もう部活動の生徒すらも帰る時間だ。
「あ、もうこんな時間か。あんたたち先に帰っても良いわよ。私達は後片付けしなくちゃいけないからさ。」
「あ、そうですか。それじゃあ僕達はこれで………皆さん画力高いですね、羨ましいです。」
「あ、そ、そう?なんか描いてあげようか?」
部室から出る際に、雫がニッコリと呟いた。それを聞いて嬉しかったのか、エロ本の方がドギマギしながら応えた。
「そうですか?それは嬉しいですね。明日また放課後きてもよろしいですか?」
「良いよ!勿論!それじゃあまた明日!」
雫はエロ本の方に手を振りながら、部屋を後にした。
「………気に入らないんだけど。」
廊下を歩きながら、雫を見ながら呟いた。
「なんであんなに態度が違うのよ。腹たつんですけど。私にもあれぐらいの御敬意を抱いてくれても宜しいんじゃなくって?」
「そりゃあ、怒らせても良いバカに対してはテキトウに接するもんだろ?」
「HEY!HEY!HEY!!どこがバカよ!!英語使えてるじゃない!!」
「それもはや日本語だろ。そういう[アルファベットにしたら全て英語]みたいな発想がバカだっていうんだよ。」
「ムキーーッ!!天誅!!」
ドムっ!!!
私のパンチが雫のお腹に炸裂した!!!
「………っ!!いっったぁぁああ!!!」
私は右手首を握りながら叫んだ!!
なん……こいつのお腹どんだけ硬いの!?鉄筋コンクリートを殴ったみたいな衝撃が腕に響いているんだけど!?
「だからバカなんだよなぁ。天誅ぐらい英語で言ってみ。」
そう言うと、悶えている私を置いて雫は廊下を進んでいく。
「〜〜〜っ!!てかどこに行くつもりなの!!玄関は逆方向よ!!」
「そりゃあ………」
雫は指を上に向けた。
「屋上だろ。」