おののけすっとこどっこい
「ちょっと何よあの身体能力ってか技術!説明!説明を求む!!」
バンバンバン!!
体育の授業が終わり、私は、自席に座ってる雫の机をバンバン叩いて追求している。
「……まぁ、才能かな。さ い の う。」
雫は目尻を下げ、目頭をあげ、凄くイヤラシイ顔で私をバカにしてきやがる。
「ぐぬぅっ………生意気……」
「お前もだろ。十分生意気だぞ。」
バンバンバンバン!!と、机を何度も叩いた。
チクショー。運動でだけは負けたことがないこの私がこんなチビ野郎に………許せん!!
「つーか……ほれ、貸してやる。」
ポサ
雫がマットを投げ渡してきた。
「……何これ。」
「汚れるだろ、使えよ。」
……汚れる?………?何を言ってるんだこの男は。靴底をそれで擦れとでも言うのか。
「いや、いらないんだけど……」
「膝汚れてるだろ?これね、優しさよ。」
「…………?いや、汚れてないんだけど……」
「………あっ、ごっめーん!!膝立ちしているのかと思ったわ!!いやー本当すまん!!あまりにも小さ過ぎて……ぷっ!!本当ごめんね!!」
「シャァァアア!!!どこをへし折られたい駄男がぁああ!!!」
それはもう、曇りのない笑顔を振りまくこのクソッタレチビ野郎への怒りをぶちまけようと腕を振り回す!!
「ダメだって!危ないから!!」
しかし、智子が後ろからガッチリと私を拘束しちゃって攻撃が当たらない!!
「このマイクロ人間に人格の差とやらを見せつけてやんなきゃいけないんだよ!!離して!!」
「停学!!になるよ!!」
「ゔっ………それは……」
確かに今こんなところで暴力なんてしたらどんな目にあうか………
「おっ?どうした?どうしたんだい、えーっと……獅子唐芥子?」
「四矢倉だわこんにゃろぉお!!」
ボフッ
私は雫にマットを投げつけると、教室の外に走って行った。あまりにもムカついたから風に当たろうと思ったのだ。つーかもう風になってやるよ。全力ダッシュだわ馬鹿野郎!!
「はっはっはっ!!やっぱりあいつバカだな!!あと3分もしないで授業が始まるってのに出て行っちまった!!」
受け止めたマットをリュックの中に入れながら、雫は大笑いした。
「あれは遅刻するな、間違いない!……くっくっくっ、その情景が目に浮かぶ!」
「………あんまりからかわないであげて。アヤって良くも悪くも純粋だから。」
智子はアヤのカバンから次の授業に使うテキストとノートを取り出し机に並べる。
「知ってるわそんなの。あいつの魂はこの中で一番うまそうだからな。」
雫はニヤつく。それを咀嚼した時に味わうであろう舌触りや風味を思い浮かべてのものだろう。
「………点数にしたら98点くらいか?フフ……最高に美味そうだ。」
「…………………」
雫の歪んだニヤけた笑顔。剥き出しの歯がチラつき、光を反射してギラつき、智子の意識を震わせた。だって、人が美味しそうだ。なんて、なにも悪びれることもなく言う人間が今、目の前にいるのだから。
「……とにかく、アヤに変にちょっかいださないでよ。あの夜といい、あんたは異常だもの。」
「異常ねぇ………ヒヒヒッ、まぁそうだな。正常とは言えないわ。」
何がおかしいのか……いや、もう既に頭がおかしいのか………彼は笑う。息を吸い込みながら、引くように笑う。
「分かってくれたら良いの。それじゃあ……」
「自分より下の人間がいると、やっぱり心ってのは落ち着くもんだよなぁ?」
智子が自分の席に戻ろうとした時、雫がニヤつきながら聞いてきた。
「………どういう意味?」
「人間ってのは結局のところ動物だ。常に人の上に立っていないと、[自分の弱さ]に潰されちまう。か弱いねー。下から支えてもらわないと生きていけないっていうんだから………」
「………だからどういう意味よ。」
「どういう意味かはもう知ってんだろ?それ以上は言ってやんねーよ。なぁ、[お利口さん]?」
「っ……!」
智子は雫の制服を掴もうと……したが、途中でやめた。
手持ち無沙汰になったその右手を右往左往させ、何もできないことを悟り、自分の席に座るために振り返った。
「忠告しといてやるが、ボロを出したらお前は崩れる。精々あのチビバカ女の前では良い顔を作っておくんだな。」
「………うっさいわね。」
それだけ言うと、智子は自分の席に座った。
キーンコーンカーンコーーン
授業の鐘がなった。同時に教師も入ってきた。これから図形の計算の授業でもするのだろう。教師はチョーク入れからチョークを取り出し………
「すすすすすすいませーーん!!!!」
ガラガラガラガラ!!!
そして教師を追うように、アヤが教室の中に走りこんできた。
「走っていたらおピャァアア!?!?」
スパーーン!!!!
チョークがアヤのデコに当たり、アヤは奇妙な叫び声をあげるとひっくり返った。
「クックックッ………やっぱりバカだあいつ。」
それを見て雫はニヤニヤと笑う。剥き出しの歯に跳ね返る光が、鋭く明るく輝いていた。
「…………」
放課後になり、私はかじりつくように雫をガン見していた。体育の時といい、休み時間の時といい、授業の時といい………こいつのせいで今日は散々な目にあいっぱなしだ。どこかで隙をついて仕返しをしてやらないと気が晴れない。
「………本当まぁ、懲りない奴だ。俺とお前とじゃ頭の質が違うんだ。復讐なんてやめとけ。」
そう言いながら、雫は学校の中を散歩している。
「私バカじゃないし。」
「1+1は?」
「流石にナメすぎでしょ!」
ブンブンブン!!!
頭を叩こうとすると、また智子が掴んで攻撃できないように拘束してくる。
チクショーー!!殴らせろ!!このチビクソオタンコナスを殴らせろ!!
「だからアヤ!暴力沙汰はいけないって!」
「大丈夫!!逆らえなくなるまで蹴り飛ばすだけだから!!」
「絶対ダメだよ!!その気持ち抑えて!!」
「………腕短っ」
「キシャァァアアア!!!」
私はそれはもうブンブンブンブン!!!ブンブン!!!と、腕を振り回す!!
いやーー絶対に許さない!!絶対に許さないぞコラァア!!
「あぁもうどうしよう………そうだ、あんたはなんで今頃学校の中なんかを探検してるの?」
アヤが私を押さえ込みながら、雫に尋ねる。
「そりゃあ……まだ全部見てないからな。今のうちに見ておこうと。」
「それだけ?」
………?なんだなんだ、どうしたんだ智子。こんな男に何か真意があるとは思えないんだけど私は。
「そんなの転校初日や2日目に出来たでしょ。それなのにわざわざ今日にずらすって奇妙じゃない?」
………確かに?そうなの?……わからない。
「これから危険なことでもするんじゃないの。例えばあの夜みたいに何かと遭遇するとか………」
「………いやいや智子。あり得ないってそんなの。ここ学校だよ?こんな建物の内部にあんな化け物がうろついているなんてそんな……ねぇ?」
「…………七不思議ってどの学校にもあるだろ?」
わーお、雫君?なんでそう、おばけチックなことを話し始めるのかな?
「大抵そういうのは根も葉もない噂なんだが、ごく稀に[真面目]なやつがあるんだ。真面目ってのは勿論[明確な原因と結果が存在すること]なわけだが………」
……???なんかそう、難しいのやめてくれない?明確な原因って何さ。[運動したらお腹空いた]みたいな?
「実際に怪異が存在して、それによって実害が出たってこと。簡単に言えば[ゴ○ラが実際に街を破壊して、被害者が存在している]って感じかな?」
私が困った顔をしていると、智子が話を分かりやすく説明してくれた。
うはっ、分かりやすい。助かるわ本当。
「ざっくり言えばそんな感じだ。んで、俺の仕事は学校の七不思議を調査して、実在するようならそれを処理することなわけだ。」
真面目な顔をして、淡々と説明する雫。
「………いやいやいや、そんな、ストーリー練ってない妖怪譚みたいな現実味のないことを説明されてもねぇ、ここ現実なわけさ。あり得ないって。」
「一回あり得ないものを見たやつが言っていい言葉ではないな。」
………そう言われるとなんも言えない。
いやでもさぁ、街にあいつらがいるっていうのは受け止めてあげるさそりゃ。広いもん。めっちゃ広いもん。でもここ学校だよ?そんな狭いところに化け物がいるなんてさぁ………認めたくないじゃん?私たち大丈夫?ってなっちゃうじゃん。
「な、なんでそういうのを先に言わないのよ!!私言ったよね!?危険な目にはあいたくないって!!」
「先に言うも何も、お前らが勝手についてきたんだろ。俺と一緒にいたら危険がつきまとうってことぐらいちゃんと分かってるのにな。そういうの、自業自得って言うんだぞ。」
「………本当この男は危険だよ!!身勝手で人を簡単に傷つける!!もう離れようよアヤ!!」
怒りながら、智子は私の腕を引っ張って玄関へと向かっていく。
…………
バッ!!
私は智子の腕を払った。
「えっ……」
「……ごめん智子。ごめんね、本当。」
「な、なんでさアヤ!こいつと一緒にいてもどうせまたバカにされるだけだし、ロクなことにならないよ!離れた方が……」
「………まだ夕方だもん。部活動の生徒もいるし、先生もいる。大丈夫、安全だよ。」
「え!え!えっ……で、でもあんな奴と一緒にいても………」
「やり返してやらないとスッキリしないんだよ。本当にごめん。」
「………もう、なんなのよ!!!なんでこう…………ああもう!!!」
智子は二回地団駄を踏んで、少しだけ地面を見つめた後、玄関に向かって駆け出していってしまった。
「………良いのか?親友だろ?」
雫は心底驚いたように、目を見開いて聞いてきた。
………正直自分自身にすら驚いているけれど、今はこの鬱憤を晴らすのが先だ。
「今回の学校の探索中にしこたま仕返ししてやるからね。私を敵に回したことを恐怖に戦き後悔しな愚か者め!!」
ダッ!!
私はそういうと階段に向かってダッシュした!!こいつを脅かす為には隠れなくちゃいけなく、その為に階層移動するという魂胆だ。
ヒッヒッヒッ!!度肝抜かしたるわ!!
「……………」
アヤが走り去っていくのを黙って見つめる雫。
「………バカ通り越して大バカだな。際限がないのかあの知能の低さには。」
そう言うと、首を傾げながら廊下を歩き始めた。