怖がりーのロンドっ
登場人物
・四矢倉綾:裏表のない性格の天然少女。運動が得意。勉強は壊滅的。特技はブリッジしながら足の指で鉛筆を挟み[爆笑]と書くこと。
・橘雫:小学生みたいな見た目をした男。色々と謎がある。綾には口が悪い。
私の拳が車の屋根を突き破り、更にもう1発!屋根を貫くと2つの穴を広げて屋根をぶち壊した!いたっ!さっき私達を覗いていた不届き者!こらしめてくれるうぉっ!?
急に車が右にカーブしたかと思うと歩道に乗り上げ建物に激突した!その衝撃でもんどりうって私も壁に背中から激突すると、背中を押さえて悶絶した!口から出る!胃がひっくり返って出てきちゃう!
「おいなにやってんだ!逃げちまうぞバカが!」
うるっせぇ!こちとら車の速度で身体ぶつけたんだ!無事なことを喜んで欲しいくらいだわくそ!私は急いで立ち上がると運転席から出ようとしていた男に殴りかかった!しかし男は攻撃をかわすと人差し指をチッチッと振りっ!!
メキィッ!!
男の右脚が左腕にめりこむ!辛うじて防御したけれど、なんで速さだ!完璧に目で追えてない、反射神経だけで反応した感じだ!次に振り下ろすような左脚の蹴りを両手をクロスすることで………
「えっ?」
蹴りの軌道が途中で変化し、腕でカバーしきれなかった肩に足の甲、インフロントがねじ込まれた!その衝撃で外れる肩を庇いながら私は急いで後ろに跳んで………
メリッ!!
爪先が私の鳩尾にめり込んだ!!これは…………やばいっ!!
私は地面に倒れ呼吸困難に陥る!!やばい死ぬ死ぬ死ぬ!!胸骨は折れて………ない!?とはいえ横隔膜が止まってる!!マジでこのままだと…………
「死ぬにはまだはえーぞ。」
頭を叩かれて気がついた!はえっ!?まさか失神してた!?呼吸困難で!?…………良かったー生きてて!
「つっ!さっきの敵は!?倒したの!?」
「チィーッスさっきの敵でーす。」
私の横で男がピースサインをして笑っていやがった!!うっぜーーなんだこいつぅうう!!
「なに親しげに私に挨拶してんだこらぁあ!!ぶちのめすぞ!!」
「まぁまぁそう言うなよ雑魚。」「そうだぞ雑魚。口を慎めよ。」
「なにこいつら失礼にも程があるでしょ!!怪我したレディに対する言い草じゃないでしょそれ!!」
「でも雑魚だしなぁこいつ。」「魚のションベンよりもショボいっすよこいつ。」
「うっせぇぶちのめすぞ!!」
つーかなんでこいつら仲良くやってんだよ!!敵じゃねーのかよ!!
「挨拶がまだだったな、こいつは俺の後輩だ。」
「ういっす!!山本権左です!!組織に入ってまだ3年目のペーペーですが、よろしくお願いします!!」
「…………はぁぁああああ!?後輩!?なっ、その!?……………顔見知り!?」
「そりゃあ当然なぁ。」「よく雑用をやらせてもらってるっす!」
「なに私をけしかけてんだこの馬鹿野郎が!!無駄に死にかけたでしょうが!!」
ドスッ!
「おうっ!息が!」
また鳩尾をぶん殴られて悶絶してしまう私!くそーー腹立たしいなぁこいつらぁ!
「今のお前がどんだけ強くなったのか見てみたんだよ。そしたらまぁ………その、なんだ。一般人に毛が生えたレベルでガッカリだ。」
「まさか普通の体術でここまで差があるとは思いませんでしたねぇ。能力を使うまでもなかった。」
好き放題言いやがってぇ!!こちとら最近まで普通のJKしてたんだぞ!!戦えるわけないだろうが!!
「先輩の能力もらった割にはガッカリっすねぇ。」
「ああまったくだ。才能を感じねぇよ才能を。」
私は息も絶え絶えで立ち上がると雫ににじり寄った!
「うるっさいなぁ!そろそろ才能爆発するからちょっと待ってろ!ていうかいくつか質問あります!」
「おうなんだ言ってみろ。」
「あんたらの組織ってなに!?」
「俺やこいつみたいに後天的や先天的など関係なく変な能力を持った人間が集まり、ジャンクを狩っている組織だ。名前は[victr]。俺はそこのNo.2をしている。結構偉いんだぞ。」
「こんなチビが!?背の高さが前から2番目の間違えでしょ!」
「てめぇ………後100回殺してやろうか。」
「やれるもんならやってみろやおらぁ!!」
「まぁまぁまぁ、ちょっと落ち着こうじゃないっすか2人とも。」
私達の間に入ってくる山本権左!なにが権左だてめぇなんかお邪魔だぁ!
「ひとまず当初の目的は達成されたわけですから、情報交換といきましょうよ。」
「権左の言う通りだ。さっさと話を進めるぞ。」
「なに!?私に好き放題言って暴力も加えたのに逃げるわけ!?ずるくない!?」
「雑に扱われるのは下っ端の宿命だ。殺してないだけありがたく思え。」
うっわこいつ言うことに性格の悪さが滲み出てる!よくないなぁこういうのは本当に!
「まず先輩達が音楽室で見た光景。あれをどう思いますか?」
血が上った頭を冷ますように深呼吸を1分した後、私は音楽室で見たものを思い出す。いつもと違う雰囲気で、遥か昔の死体の頭部が殴打されていた。凹み開いた頭部から溢れ出る血は鮮明で、水のように床を流れていた。
「あれは俺も5回ぐらいしか経験したことがないが………タイムスリップだろうな。」
「えっ!?タイムスリップ経験してんのあんた!?」
「まぁな、伊達に300年も生きたねーよ。………ただあのタイムスリップはお前が思ってるような楽しいものじゃねぇ。」
いつもと変わらない雫の表情が険しくなったような気がした。雰囲気が尖ると言うのかなんと言うのか…………とにかく、ピリピリしている。
「あれは、強力なジャンクが生み出した空間だ。ジャンクが生まれた時の状況、空気、気持ち、全てを完全再現した仮想空間。…………あの音楽室で昔何かがあったんだ。それはそれは残忍で惨たらしい何かが…………。」
雫がそういうのだ、よっぽどのことがあそこで起きたと考えた方がいい。…………ただですらジャンクは残酷に人を殺すのに、それ以上だって言うの?一体どれほどなんだ…………
「…………そんなのが私の学校にずっといたの?」
そんなことよりも、安全だと思っていた学校が危険であったことの方が私からすれば衝撃だった。まるで人間の内外がひっくり返るみたいに、日常がグロテスクに変異する。
「多分な。前調べたように、あの学校には怨念が集まりやすい。遥か昔からいて何かしら悪事をしていたと考えるのが賢明だろう。」
雫に関わってからろくなことがない。本当にもう………知らないままでよかったよこんなこと。
「多分…………[夜のオーケストラ]って怪異はもう消されているな。」
雫が厳しい顔で言い放った。
「多分そうっすね。俺も先輩達が音楽室にいる間にトイレの花子から話を聞いたんすけど、20年ほど前から[夜のオーケストラ]を見てはいないと言ってました。ただ音楽室がずっと騒がしかったから引きこもっているのかも、とも言ってました。」
これが、ジャンクが怪異に成り代わるというやつか。なんていうか思ったより…………その、残酷だね。もっとメルヘンチックなのかと思っていた。ジャンクが作り出した噂が怪異を上回り〜みたいなさ、あるじゃん。
「となると二宮金次郎像をぶち壊した奴も[夜のオーケストラ]ではなく、別の何かだったってわけだ。」
あのマントを羽織った人型の何か。人間なのか?ジャンクなのか?それとも…………
「今日はひとまず帰るか。また音楽室に行ったってこれ以上の収穫があるとは思えん。」
「そうっすね。また明日、本腰を入れて調査しますか。」
「…………なんかあんたら納得してるけどさ、この大事故を忘れてない?」
車2台が凄まじい速度で壁にぶつかり、しかも1台は天井に穴が空いてるんだからね!?大事だよこれ!?
「大丈夫だ、仲間が証拠隠滅してくれるから俺達が捕まることはない。さっさと帰るぞ。」
「あんたらの組織ってなんなのさ………。」
「一応言っとくと俺は国のお偉いさん方とも顔見知りだ。下手なことしたら社会的に消されちまうかもなぁ。」
……………これから雫に暴言吐くのやめよ。私はそう思いながら帰路についた。
コンコン
家に帰ってから寝ていると、何かを叩く音が聞こえた。重たい瞼を持ち上げながら起き上がり、扉を開くもそこには誰もいない。
…………?
首を傾げた後ベッドに戻ろうと振り向いた時、窓に張り付いた人影がこっちを見ているのに気がつい…………
人影が逃げるのと同時に私は急いで窓を開けて周りを見渡すが誰もいない!それもそうだ今3時だもの!いるはずないもんこんな時間に!
「……………もしかして私、結構やばい状況?」
誰かに狙われている?それとも何かに呪われちゃった?
はははっと笑った後、30秒ほど考えてみたが何も思いつかなかった私はさっさと布団に入って寝た。分からないことはほっとくのが一番!
こうして私の能天気な夜は開けた!
「んーーよく寝た!」
赤点補習の地獄の教室にお肌ツヤツヤお目目パチパチで乗り込んだ私はみんなにおはよーと挨拶した後、元気よく教科書を開き、1秒もせずに眠った。
「…………いつ見てもこの単純さが理解できない。」
「四矢倉さんの凄いところですよねー。教科書があればのび太よりも早く寝れるんですから。それを生かす場所が全然ないのが悲しいところですが。」
四矢倉綾の一連の行動を見た後、狩虎と優里香は談笑をしていた。
「…………怖い話とか得意ですか?2人とも。」
2人のやりとりを見ながら、雫は情報収集をする為に彼らに話しかけた。本当はもっと信頼関係を築いてからこういう話に持っていきたかったのだが、音楽室にいるジャンクが想像よりも危険なことが分かったのだ、悠長なことはしてられない。今は早く解決することのほうが大切だ。
「…………こ、怖い話ですか?」
俺の問いかけに狩虎が雰囲気が変わった。まるでその内容に触れてほしくないように視線を俺から外して天井や床ばかりを見るようになった。さては何か知っているのか?
「あーー…………その、彼にそういう話はしない方がいいよ。怖がりだから。」
「ぜ、全然怖くないですけど?俺がそんな、いや、ねぇ?非ぃ科学的なことを信じてるわけがそんな………まさか。」
「…………背後にお化け浮いてますよ。」
「ぬぉぉおおおお!!!昨日の夜にスプレーで殺したハエの幽霊か!?」
「……………………。」
「……………………。」
「…………いや、まさか。俺がそんな………ねぇ?」
「後ろに人がいますよ。」
「もう引っかからな」「飯田さぁあんん。」
「ぬひょぉぉおおおお!?!?」
補習が始まっているかどうか確認しに来た先生の手を振り払いながら狩虎は気絶して床にぶっ倒れた。
「…………今日の補修は自習にしてください。」
「はーーい。」
まさかの丸一日を学校探検に使えるようになった。