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リビングデッド〜命の雫〜  作者: 悟飯 粒
学校の怪異その1〜屋上の首吊り場〜
19/25

なんか〜的なやつ

「お前にとって魂とはなんだ。」


まだ明るい放課後の空。少し赤みがかった地平線を他所に、私と(しずく)は歩いていた。これから智子(ともこ)のお見舞いに行こうというのに、いきなりどうしたんだ雫は。


「よくわからないけど、なんか命的なやつでしょ。」

「[なんか〜的なやつ]ってなんだよ。お前はバカなんだから、もっとど直球に言いやがれ。」

「バカじゃないし、とことんまでバカじゃないし。」

「じゃあ明確にいいな。」

「命!」

「んじゃあ、お前にとって命ってなんだよ。」


うわ、………うわー…………なんて面倒くさいやつ。まるで絵本を読んだ子供が「なんでアンパンが動いてパンチしてるの?」みたいにハスに構えて聞いてくるアレだ。勇気があればアンパンは動くんだよ!知らないのかあんたは!?


「まったく、これだから最近の若者は………人の言葉を素直に聞くってことはできないのかね。ん?」

「ん?じゃねーし。なに腕組んで首傾げて顔をしかめながら見上げてきてんだよ。お前はなに様だ、俺に文句を言う権利があると思ってんのか。」

「ひっどーい!人には人権があるんですぅ!人権って知ってる?かなり尊いんだよ?」

「たとえ人権が尊かろうがお前のからは尊さが見出せねぇ。そんなもの軽く無視してやるよ、バカには必要ないからな。んで、お前にとって命ってのはなんだ?」


なんて傲慢な言い方!こいつには人の心がないんじゃないの!?そう思わずにはいられないほど、雫は淡々と私に悪口を言ってくる。しかし?まぁ?私はとても優しいので、怒りをグッと堪えて短気な雫君の質問にやさーしく答えてあげるのさ。なぜなら?そう、とても優しいからさ。


「心臓よ心臓。人の命は心臓から始まるのさ。血が流れるからね。…………私ってば天才?」


人類が到達できない命の神秘をここまで端的に答えられるとか、どうあがいてもやはり私は天才だったのか…………申し訳ないね、本当、才能が有り余ってて。私の答えの素晴らしさに打ち震えるが良いさ。


「それは短絡的だな。」

「………な、何さ。私の答えに文句でもあるわけ?」


さては私の答えが完璧すぎて、テキトウな言葉で反論しようとしてるってわけ?


「命の本質が心臓のみだったら………魂の本質が命のみだったら、俺という存在は生まれなかった。……別に文句があるわけじゃないさ。ただ、その考え方だけじゃあ、お前は最後に躓くだろうさ。」


空が急に暗くなった。雲が陽を隠したのだろうか?…………違う。空が急速に赤みを帯びていく。その様はまるでこの場所にフィルターがかけられたような…………

雫の顔に赤黒い影が落ち、その夜空に三日月が昇るように真っ白な歯を剥き出しにして笑った。


「勉強の時間だ。」


赤くモヤのかかった暗闇から人影が三体揺らめきながら出てきた。人の形をしているように見えるけれど…………人と言うにはあまりにも朧気だ。


「これからお前には魂と戦ってもらう。」

「魂って………」

「お前は俺の力を手に入れた。それを使ってあんなのさっさと倒してこい。」


全力で私の言葉を無視しやがって………雫の[魂を操る力]って奴か。それを使ってあいつらを倒せば良いのか。


「その力はどうやったら使えるの?」

「自分の体に聞いてみろ。それが一番手っ取り早い。」


こいつ……っ!テキトウすぎるだろ!


「まぁ、魂に素直になるのが一番………ん?」


バギンッ!!

魂との距離を一瞬で詰めた私は、頭部らしき部分に回し蹴りを叩き込んだ。そのまま、ぐらついた相手の胴体めがけて………

ドゴォオオンン!!!

横蹴りで蹴飛ばした!!爆音を響かせながら影は壁に埋まり、動かなくなる。そのまま私は次の影に向かって走り出した。

なんだこの身体の軽さは………踏み込んだ瞬間の力の入り具合とか、頬で切り裂く風の冷たさとか………とても調子が良い時みたいだ。


分かっちゃいたが、やはりあのバカは身体の動かし方に関してはセンスがあるな。

(あや)が戦っている様を、ポケットに手を突っ込みながら雫は眺めていた。

そして自分の心にも素直だ。なんとなくで能力を引き出している…………元々自分の心に正直な奴だったからな、当然っちゃあ当然か。


「ただ、まぁ………」


ベギンッ!!

綾のパンチが2体目の影を紙切れのように吹き飛ばした。


「まだ1割も引き出せてないな。これじゃああくびが出ちまう。」


残り一体!

最後の一体の懐に潜り込む為に、私は思いっきり踏み込ん


ビキビキビキっ!!


「つっ!?」


なんだ!?影が巨大化した!?やばいもう止まらない………


メキメキッッ………ドォオオンン!!!

両手をクロスして攻撃を受け止めたというのに、衝撃を吸収しきれなくて私は壁にめり込んだ!両腕とも開放骨折してるし…………どうなってるんだ一体?なんで急激に強くなったんだ?


「お前、まだ魂が見えてないだろ。」


雫が両手をポケットに突っ込みながらあくびをした。最高に眠たそうな表情をしてやがる。


「魂なんか普通見えないでしょ!」

「見れるよ、魂ぐらいなら簡単に。つーか魂ぐらい見れなきゃ話にならん。」


な、なんだってー!?魂見るのがデフォだなんて!もしかして私、結構変な世界に飛び込んでしまったのでは!?


「………オッケーだ、今のお前じゃまだその段階じゃないらしい。ヒントをくれてやる。」


雫はポケットから右手を出し、開いた手を強く握りしめた。


「強い思念は、肉体が消え失せたとしてもこの世界に留まる。そしてその想いを果たす為に別の依代を求め彷徨い放浪する。…………肉体だけじゃ本質には辿りつかない。」

「…………いや、そんなポエムみたいなこと言われても…………」

「オラ、さっさと倒してこい。」


ドゴォオンン!!!

肥大化した影が振り下ろした拳を転がるようにしてギリギリでかわし、私は影に向き直った!

雫のヒントがヒントになってなかったけど、ひとまずあの影をボコボコにすれば良いんでしょ?なんか骨折した両腕がいつの間にか治っちゃってるし、なんとかなるんじゃないの?


ベコンッ!!!

ガンガンッ!!!


振り抜かれた巨腕を体を捻り紙一重でかわし、隙だらけの頭部にかかと落としを2回、空中で回転しながらかました。そのままコメカミに蹴りを当てようとしたら、私の攻撃を無視して影が割り込んでアッパー気味にぶん殴ってきた!当然それは直撃して、私はまたも吹っ飛ばされて壁にめり込んだ。


「………………」


………これあれだな、ダメだな。さっき言ってたやつの謎解きをしなきゃ今の私じゃ倒せないや。私の攻撃が効かないんだもん。


瞬きする間に治っていく私の不思議な身体を眺めた後に、私は壁から身体を引っこ抜き、影から離れるように走り出した。とはいえ逃げるわけじゃない。一定の距離を保ち、あの影の観察をする為だ。


大体、雫の話からすればあれは魂なわけでしょ?なんで魂が実体を持ってぶん殴ってくるんだよ、身体がないくせに………ん?いや、身体はあるのか?…………いやでも、そうなるとあれを魂と言った意味が分からないし………んん?


「もしかして………あれって肉体じゃないってこと?」


そりゃあまぁ、あんな影みたいなのが肉体だなんて言われたら驚くけど、それじゃああれは一体どうやって動いているんだ?

一定の距離を保ちながら、影をジーっと見つめ続ける。

やはりモヤモヤっとしていて、フワフワッとしている。だけど間違いなく私を殴ってきたわけで、実体がないはずがない。でも肉体じゃなくて…………私達人間とは違うのか?いやいや、人間にだって魂があるんだからその根幹は間違ってないはずで…………


ひたすらにあの影のことを考えていると、私はとあるものを思いついた。あの特徴は………そうだ、お化けだ。存在するのかしないのか分からない、不確定な存在感。それに昨日の屋上のこともあるし…………


「つまり、幽霊ってことなら除霊的なのをすれば良いわけだ。」

「そういうことだ。」


雫があくびをしながら答えた。


「そこまでいけば後は方法だ、それぐらいは教えてやるよ。…………あいつの魂をぶっ壊せ。以上だ。」

「…………いや、だから魂が見えないわけで………」

「以上だ。感覚でなんとかしろ。」


絶対こいつ人にもの教えるの苦手だろ…………


「………まぁ、感覚でなんとかするよ。」


私は立ち止まり、走ってくる影を睨みつけた。


思い出せ………雫は今までどうやってこの不思議な存在を倒してきた?どんな手段で?…………それは確か

……


ブォオンン!!!


影がその腕を全力で振り抜いた!!


フッ…………


私は脱力しきった状態で前傾し身体を預けるように敵のパンチをかわした。そして、


ドスっ


右手を相手の胸部に突き刺した。魂が見えるわけじゃないけど、胸あたりに核心があるように感じたのだ。

身体を貫いたというのに血や肉の感覚はない。ただ、開いた右手に、よく分からない感触がある。私には見えないけれど、確かにこの右手の中に大事なものがあるような…………今、生殺与奪を握りしめている確信があった。


グシャッ!!!

そして私は右手を閉じて、大事な何かを握り潰した。

すると影は霧散し、赤く染まった世界が急激に晴れ渡り、元の青い世界へと戻っていた。


「………今のがジャンクを倒すときの一通りの流れだ。」


雫は眠たそうに目を擦りながら話しかけてくる。


「…………ずっと思ってたんだけど、ジャンクってお化けなの?」


学校の怪談といい、今回の戦いといい、ジャンクはお化けのような存在なのだろうか?


「お化けではないな。………ジャンクは魂が肥大化した存在だ。身体と魂の価値が同等じゃなく、魂の存在感に引っ張られているんだ。だから姿形は魂の欲求によって歪に変わり果て、魂を壊せば存在が消失する。普通の人間ならどちらか片方が壊れた所で生きていくことは出来るんだが………」


私が眉間にシワを寄せて物凄く酸っぱい顔をしているのを見て、雫は喋っていた口を止めた。


「………厳密に言えば違う。しかしカラクリはほとんど同じだ。」

「じゃあよく分からないから、なんかお化け的な奴ってことで。」

「これだからバカに詳しく説明するのは嫌いなんだ。理解する努力を怠りやがる。つーか[なんか〜的なやつ]って表現するのやめろ。あやふや過ぎて嫌いなんだよ。」


そのまま雫は、目的地へと向かう為に歩き出した。そうだ、私達はこれから智子の家に行くのだ。なぜか今、ジャンクと戦うことになってしまったけれど………


「そういえばさっきの奴はなんで途中から強くなったの?」

「ん?ああ、肉体が消滅したから別の肉体に魂が乗り移ったんだ。だからさっきの個体は魂が三つ分になって強化されたってわけ。…………あいつらの本質は魂だ、肉体を壊した所で倒したことにはならんのさ。さっきの説明で察してくれると助かるんだがな。」


なるほど………益々おばけみたいだ。お化けがいろんな人に乗り移って呪い殺していくホラー映画とかあったような気がするし…………


「つーか私バカじゃないし。」

「………今頃そこ反論するのか?」

「私は天才だし?なんていうかこう、天才肌的なやつよ。」

「だからそれをやめろって言ってんだろ。」


そんな下らないやり取りをしながら、私達は智子の家に向かった。

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