敬具、元カノの私
1、挨拶
今日、俺は、5年間付き合っていた彼女と結婚する。
いつもは黒のスーツだからか、白いスーツはなんだか落ち着かなかった。
「失礼します。花嫁様も準備が整いました。」
どれ、俺もあいつのウエディング姿を見に行くか…。
「ありがとうございます。今、行きます。」
あいつが待っているであろう、廊下を歩いた。おかしいな、着替える前はもう少し短く感じた廊下が今は、こんなにも長く感じる。
「俺も珍しく緊張してるのかなー…。」
まぁ、緊張しないやつなんていないか。
そんなことを思っていると目の前には扉があって、この扉の向こうには俺の愛しい人がいるんだ。
「入るぞ。」
俺がそう言うと、中の方でくすっと柔らかい笑いが聞こえた気がした。
「どうぞ。」
相変わらず透き通った声だ。緊張しっぱなしの俺もあいつの声を聞いたら少しだけ心の重みが消えた。
「準備できたか?」
「愛しい、愛しい、花嫁を見た第一声がそれかしら?」
こんなときでもいつもどおりか(笑)
「そうだな…。とても似合ってる。」
「あら、いつもはそんなこと言わないのに。今日は素直ね(笑)」
「今日は特別だしな…。」
「そうだね。貴方も似合ってるよ。」
そう言って笑ったお前の笑顔を俺はきっとこれからも一生忘れることはないだろう。
結婚式が始まって早一時間、次は友人代表の挨拶がある。
「先ほど、紹介に預かりました。新郎の友人の桐生友紀です。友人代表の挨拶の前に、今日は、新郎の元カノから、手紙を預かってきました。」
「はぁ!?お前、なんてもん持ってきてんだよ!」
俺は、桐生の言葉を聞いた瞬間、凄く腹立たしい気持ちになった。
「まぁまぁ、そんな怒んないで。せっかくだからさ、聞いてみない?面白そうじゃない。」
そんな俺と違って、新婦の方はとても冷静で、どこか楽しみにしているように見えた。
俺は桐生の方を見て、深く頷いた。桐生は、それを肯定と捉えて、また、話始めた。
「それでは、新郎の元カノに変わり、僕が読ませて頂きます。拝啓、元カレの君。君もすっかり大人になったね。桐生くんに手紙のことを頼まれたときは少しビックリしたけど、内心はとても嬉しかったです。そして、こんな私をどうかお許しください。私は、この場のどこかでこれを聞いてるんだね。なんか恥ずかしくなってくる。そうそう、こんな話をしたかったんじゃなかったよ。今日はね、昔から君に言えなかったことを伝えようと思ったんだ。昔だから、けっこう長い話になるけど、今日ぐらい大丈夫だよね。じゃあ、どこから話そうか…。私と君が出会ったところから話そうかな…。」