ショートショート アンドロメダ
こちらは元観測者。この通信を聴いている誰かよ。応答せよ。応答せよ。どうか落ち着いて訊いて欲しい。今あなたは地球から遥か遠く二五〇万光年離れた、アンドロメダにいる。
あなたの祈るようなSOSを観測し、この通信を送る。
こんなわたしでも、昔は地球にいた。街のイルミネーションを、超高層ビルの上から見くだすのが好きだった。わたしは、こんなにも宙に、近づいていると、一人悦に入ったりもした。
小さな頃、祖父に連れられよく行ったプラネタリウム。あれはシリウス。こっちはカノープス。敷き詰められた夜空に、浮かべたオリジナルの星座は、チキンライス座。
星に詳しくなり、クラスで天文博士と呼ばれ最初は持て囃されたが、長くは続かなかった。
わたしの関心が、人ではなく宇宙にあったからである。重力に縛られた下々の者たちを見くだし、遥か上空より観測者を気取った。
だけれど観測者を気取って、その実誰かに視られていて、誰かに嗤われていたのだ。
星の名を覚えるのは得意であったが、人と話すことが苦手だった。言葉が上手く出てこない。人との距離を上手く縮められない。距離は溝となり、やがて取り返しのつかない隔たりとなった。
いったい、いつからであろうか。知らぬ間にクラスで宇宙人と呼ばれていた。可笑しいのは、地球の方なのか、自分の方なのか。
わたしが誰かに関心を持たないのと同様に、わたしは誰からも関心を持たれることはなかった。側にいてもきっと何万光年と遠くにいた。ギシリと鳴る胸の歯車が摩擦で磨り減って痛んだ。
観測者らしく、ちょいと覗く望遠鏡。遠くからしか観ることのできない桃源郷。
彼らは時に争い、傷つき、良いことよりも、悲しい出来事の方が多いように見えた。
そこのところ、わたしは一人だ。傷つくことなどない。わたしは一人だ。誰からも左右されず、足も引っ張られず、そして愛されることもない。
気がつけば、遥か上空。誰も手の届かぬところに打ち上げられていた。スペースデブリと成り果てて、虚空を漂っていた。
もう孤独は嫌なんだ。やっとそう思ったつい先程、あなたの泣き声をキャッチした。
きっとわたしが何と声を掛けても、あなたの寂しさは紛らわすことなど、できはしない。ノイズの混じった信号を唄にして贈ったところで、選ばれなかったわたしの声は届かない。実態なき言葉とは無力である。
ならば、形で示そう。わたしがあなたを救うに相応しい人と成りて、あなたの腕を実際に掴んでみせよう。例え何万光年と離れていようとも。