27 フォローアップ
鹿子木との電話が終わると、洋介は愛に申し訳なさそうに受付での留守番をお願いした後、東端の部屋に直行し、夜中まで事件について考えた。
洋介がどう考えても日陰和田が将来を悲観して自殺したという結論は出てこなかった。では、何故日陰和田が秘密裏にわざわざ京都まで出向いて、ニセクロハツを採取したのであろうか? 洋介はあれこれと考えてみたもののその答えは出てこなかった。この時、洋介にしては珍しく長考を止め、更なる情報収集に動くことを決断した。
洋介はインターネットで関西のキノコについて記載のあるブログをいろいろと調べてみた。いくつかの候補をピックアップした中で、クロハツやニセクロハツに関してのコメントが何回も記載されていた『KTキノコ』というブログを書いている人物が一番可能性が高いように思われた。そのブログのプロフィールには、性別は男性、居住地は京都市東山区、自己紹介欄には『清水寺の傍に住み京都の山々を歩いてキノコを探索しています』と書かれていた。その他の候補のブログ名とプロフィールなども念のためメモした。
翌朝、洋介はつくばのキノコ業者である篠崎の家にいた。
「篠崎さん、何度もお訊きして大変申し訳ありませんが、もう一度日陰和田さんから注文のあったキノコの採取についてお話し願えませんでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。何せ、あの事件が解決して私への疑いが晴れたという状況になったわけではありませんから。少しでも早く神尾さんに事件の真相を明らかにしていただきたいので、喜んでご協力致します」
「有難うございます。では、早速ですが、パーティー用に日陰和田さんから注文のあったクロハツと研究用のニセクロハツとは、どのように採取されたのですか?」
「日陰和田さんは食材に関してはいつも凄く厳しかったんですよ。だから、依頼を受けたら、そりゃ必死で良いものを探して届けるようにしていたんです。クロハツはこの近辺でも何とか採取することができたんですが、ニセクロハツは滅多に採取することなんてないし、近縁種がいくつかあると言われていますので、本当に採取するのは大変だったんです。知り合いのキノコ業者があちこちにいるんですが、関西の知り合いに電話して訊いたら、関東で採れるニセクロハツにはあまり毒がないので、本当のニセクロハツは関西に来ないとダメだ、って言われましてね。その人を頼って大阪までニセクロハツを探しにいったんです。結局、高槻市の山でニセクロハツを何とか採取できて、その知り合いにも鑑定してもらったキノコを日陰和田さんに届けたんです」
「なるほどね。それで毒性があると考えられるニセクロハツが採取できたわけですね。篠崎さんが別枠で採取されたニセクロハツを日陰和田さんの所に届けた時、採取地などの情報を伝えたのですか?」
「日陰和田さんは食材の品質には相当うるさかったのですが、私がどこでその食材を入手したかについてはほとんど興味を示したことはありませんでした。ですから、あの時も入手先は訊かれませんでしたし、こちらからもお話しておりません」
「つまり、高槻市で採取したニセクロハツであるということを、日陰和田さんは知らなかったということだったわけですね」
「そいうことになります」
「ところで、京都の清水寺の近くに住んでいる男のキノコ業者で『KTキノコ』というブログを書いている人をご存知ありませんか?」
「さあ、『KTキノコ』というブログを私は見たことがありません。ちょっと待っててください。この間、山に連れて行ってもらった大阪のキノコ業者の梶原輝樹さんに訊いてみますから」
そう言うと、篠崎は携帯電話を取り出し、電話し始めた。洋介は期待を込めて篠崎のやり取りを集中して聞いていた。
「ああ、梶原さん。先日はいろいろとお世話になりました。本当に有難うございました。あの後、大変な事になっちゃいましてね……。それでね、梶原さんにちょっとお訊きしたいことがあるんですよ。京都の清水寺の近くに住んでいる男のキノコ業者で『KTキノコ』というブログを書いている人をご存知じゃないでしょうか?」
篠崎の質問にやや長めの返事があったようで、篠崎は黙って聞いていた。
「いや、重ね重ね本当に有難うございました。それではまたよろしくお願い致します」
そう言って携帯電話を畳むと、洋介の方を向いて話した。
「梶原さんの話だと、そのブログを書いている人は夜久野英輝という人だと思いますとのことでした。それで、夜久野という人のキノコに関する知識は書物やインターネットから得たものが多いようで、実際のキノコに触れた経験はあまりないんじゃないか、と言っていました。難しい鑑別などとてもできる人物ではないと思うとも」
「そうですか……。あのー、私に大阪の梶原輝樹さんを紹介していただけないでしょうか? 私も篠崎さんが採取に行かれた山を見たいのと、その夜久野英輝さんにもお会いして日陰和田さんがキノコを採取した場所に案内されたかどうかを確かめたいと思っているものですから。もっとも日陰和田さんを案内した人が夜久野さんと決まったわけではありませんが」
「はい、もちろんご紹介します」
篠崎は直ぐに梶原に電話して了解を取ってくれた後、電話を切らずにそのまま洋介に渡し、洋介の大阪訪問の詳細が決まった。




