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20 鹿子木への要望

 美由紀には押し掛けられ、愛には控えめではあるものの嫉妬の様子を見せられて、流石の洋介も相当な焦りを感じていた。洋介にとって今回の事件に関する新たな情報はつくば東署の鹿子木から得る以外に思い浮かばなかった。受付から鹿子木に電話すると、幸運にも鹿子木は直ぐに電話に出てくれた。

「いやー、今回の神尾さんは本当に良いタイミングで電話を掛けてきてくれますね。今やっている仕事が一段落したら、こちらから電話するつもりでいたんですよ。助かりました」

「それは良かったです。鹿子木さんのお話しから伺いましょうか?」

「いや、それでは申し訳ありません。神尾さんの方からどうぞ」

「そうですか、それではお言葉に甘えて、私からということで。あのキノコ中毒のその後の警察の捜査状況をお訊きしたかったのです」

「そうですか。実は私の方もそれをお話して神尾さんのご協力をいただこうと思っていたのです」


「それは良かった。では、お願いします」

「H署でも、事故か事件かを決められなくて随分と困っていたのです。表面上は両面からの捜査と言っていますが、実情は何でもいいから手掛りが欲しいということで、訊き込みと現場検証を中心に捜査しているようです。本当は深町や神保など、一応容疑者としてリストアップした人物の家宅捜索をしたいところですが、現状では令状を取るのは難しいということで、主に亡くなった日陰和田聡一郎の病院内のデスクや自宅の中を調べているのです」

「それで、何か発見できたのですね?」

「まあ、そう先回りしないでくださいよ。順を追って説明しますから」

「済みません。ちょっと焦っているものですから」

「病院内のデスクからはこれといったものは発見できませんでした。その後、自宅のパソコンを調べようとしたのですが、パソコンを開くのにもいくつかのパスワードで守られていたのです。まだ事件かどうかも分からない状況ですから、情報分析の専門家に依頼するわけにもいきません。そこで、刑事課の中でもITに少しは詳しい刑事に応援を頼んで、一つ一つパスワードを解読していったのです。そうしたら、何と、あのパーティーの食材に関する発注書というかメモ書きが見つかったのです」


「それはキノコ業者の篠崎さん宛だったのですね?」

「はい、その通りだったのです。そこには、研究用としてニセクロハツも採取してクロハツとは別の包装で届けるようにとの指示が書いてあったのです」

「何ですって! でも篠崎さんはそんなこと一言も喋っていませんでしたよ。鹿子木さんが会われた時もそうだったのでしょう?」

「その通りです。だから、今は篠崎が非常に怪しいということになっているのです。H署の春田刑事がつくばに来て、直接篠崎に話を訊きたいと連絡が入ったのです」

「でもそこまで怪しくなってきたのだったら、H署の方に篠崎さんを呼んで訊問すべきではないのですか?」

「私もそう思うのですがね、春田刑事は篠崎の事務所と実際にキノコを販売していた店を自分の目で見たいと言っているのです。ここからが私の神尾さんへのお願いになるのです。実は、春田刑事には神尾さんのことを前からいろいろと話してきたんです。それで、今回はちょうど良い機会だから、神尾さんと一緒に篠崎の所に行って訊問したい、って言うんです。ということで、神尾さん、春田刑事と一緒に篠崎の所に行っていただけませんか? もちろん私もご一緒しますけど」

 鹿子木は洋介に嘘を言った。この件を解決することの難しさを予感した鹿子木の方から春田に洋介の同行を求め、春田が渋々了解したというのが実情であった。

「事情は分かりました。私の方もいろいろとありまして、この件は是非早期に解決したいと思っていますので、鹿子木さんに全面的にご協力致します。だけどね、鹿子木さん。今後は他の人に私の事を大げさに言わないでください。お願いしますよ」

「はい、分かりました。春田刑事は明日昼過ぎにうちの署に来る予定なのです。着いたら直ぐに筑波ホビークラブにお迎えに行きますから、準備しておいてください」

「了解しました。それでは明日午後、ここでお待ちしております」


 翌日、洋介は早めに昼食を取り、源三郎に受付をお願いし、身支度も整えたというのに鹿子木たちはなかなかやって来なかった。自由趣味室の南の窓からぼんやりと外を見ていた洋介であったが、午後二時半を少し回ったところで鹿子木の車がようやく駐車場に入ってくるのが見えた。バッグを肩に担いで飛び出した洋介は駐車場まで走って行った。

「お待たせしました、神尾さん。こちらが東京H署の春田徹刑事です。春田さん、こちらが以前からお話している神尾洋介さんです」

「おお、あなたがあの有名な神尾名探偵さんですね。H署の春田です。どうぞよろしくお願いします。今日は遅くなってしまって申し訳ありません。東京でちょっと野暮用ができちゃったものですから」

 春田の言葉は洋介には若干嫌みが混じっているようにも受け取れた。

「よくいらっしゃいました。私がここ、筑波ホビークラブをやっている神尾洋介です。よろしくお願い致します。差し出がましいとは思っているのですが、時々鹿子木さんの科学的な疑問を解決するお手伝いをさせていただいております」

「まあまあ、細かいことは後回しにして、早速篠崎のところに行きましょう」

 鹿子木はそう言って自分に都合の悪い話題を変え、この日の本題に話を向けた。


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