道化と少年と、意地悪な天使。中編。
おお、なんという事でしょう!
まさかこんな結末を迎えるとは誰が想像出来たでしょうか。
物語は常にハッピーエンドとは限らないのです。
少年が我に帰り、急いで塔に向かうとそこに居たのは道化でした。
少年はまず、道化に謝りました。
試すような事をしてすまない、と。
そして天使は渡さない、と。
道化は答えます。
お前が遠くから様子を見ていたのは知っていた。
だが俺からすれば対岸の火事。
お前からすれば自ら巻いた種だろう?と。
道化は静かに怒っていました。
自らの不安を消化出来ずに、天使の心まで不安で満たした事を。
遠くを見つめる不安気な天使の後ろ姿は、とても小さく、とても悲しそうで・・・。
道化の心まで哀しみに暮れてしまったのです。
道化は心の中で決めました。
ーならばその不安を取り除いてやるー。
道化は考えました。
目の前で道化が天使に振られる所を見せれば、少年の不安は吹き飛ぶだろう。
天使と少年は固く結ばれ、何人もその間に入る事はなくなるだろう、と。
もう、人をロリコン扱いする口も悪ければ性格も・・ーコホンー意地悪な天使の哀しい後ろ姿を見ることはない、と。
そして道化は高々と宣言したのです!
天使をお前から奪う、と!
それがまさか、あんな悲劇をもたらす事になるとは!
突如、愛の告白を受けた天使はそれはそれは大きく動揺しました。
道化は結論を急がせます。
横柄な態度をとり、考える暇を与えません。
ー何を迷っている。少年でなければ、と言ったではないか?ここに来なければ良かった、等と二度と言わせるものか。
次に聞く言葉は、ここに来て良かった!でなければならないのだ!お前はもっと報われるべきなのだ!ー
しかし天使は答えを出せず、
暫くの時間が欲しい、と願いました。
これに驚いたのは道化です。
その様な答えは想定していなかったからです。
しかし、心の何処かで喜びを感じていました。
ーおれの存在が、必要とされている?ー
道化は迷いました。
自分の思惑を全て話し、辞退するべきか。
それとも、この計画を続けるべきか。
道化は、天使には恩がある、と場を濁し暫くの間考えました。
そして決めたのです。
少年から不安を取り除く為には、この試練に耐えなければならない。
少年も、そして自分も。
時が経つ程に、少年の心は不安に満たされていきます。
星空ほどの愛の言葉も、共に過ごした時間も、霧に消えてしまうのか、と。
時が経つ程に道化は恐れます。
少年のひたむきな姿を、真似できないまっすぐな心を、募る天使への想いを。
時が経つ程に天使は揺れます。
隠していた本心に、選ばなければならない道に、求める事に、求められる事に。
そしてついに。
終わりの時が来ました。
少年は星空の下をトボトボ歩いていました。
胸に大きな穴が開いているかのようです。
少年は力不足を感じていました。
自分は弱い、と。
明日、さよならを告げよう。
天使は道化に任せよう。
不安に支配された心は、明るい未来を考えさせてくれません。
道化は遠くからそれを見ていました。
雲の隙間から洩れる眩いばかりの輝きを持った少年は、
道化が恐れた少年は、もうそこにはいませんでした。
道化は暫く考えた後、
少年が見つける事を祈り手紙をしたためました。
「貴女の事を想っています。
満たされる様に願っています。
でも、何をしたらいいか分かりません。
毎日好きだと言えば良いんでしょうか?
高価な品物を送れば良いのでしょうか?
それでは、伝わらない気がするのです。
今は只、側に居てあげる事しか出来ません。
そしていつか、本当に辛い時に、頼って貰えたら、とても嬉しいです。」
少年が迷った時、この手紙を見て、何をするべきか、何が出来るのか、道標になるように。
それから道化は、塔に向かいました。
今は眠る塔の天使に、別れを告げるために。
ー貴女を傷つける事を、お許しください。
さらなる試練を与える事をお許し下さい。
天使は、光の中でこそ美しい。貴女の心の影も必ず消し去ってくれる筈です。
あの少年を信じて下さい。
この私を、恐れさせた男なのですから!
一刻の間でも、貴女の弱さに触れさせて頂けたのは、道化には過ぎた光栄です。
ですが、いつか、貴女の心の影も、少年の不安も、全てが消え失せたその日には。
私は必ずーーー。
道化は塔を横切り、広場へと向かいます。
最近よく現れるヒヨコの様に可愛らしい少女の事が気にかかりましたが、決心は変わりません。
この広場に集う人達ならば、歓迎してくれましょう。
かつて道化が受けたように。
いつか、天使に伝えた言葉が鮮烈に蘇りました。
思わず口から笑みが溢れます。
道化がババを引くのが世の常です。
そしてこの世界に、
歓喜と、
興奮と、
ーーーー光あれ。




