魔王様と魔女。
半年がかりでユニークが1000人に達しました。
地味に嬉しいです。
今まで読んで下さった方の為にも。
しっかりと結末を書ききりたいと思います。
m(_ _)m
意外と言うべきか。
当然と言うべきか。
私は魔王様を見ても、怒りという感情が湧いてきませんでした。
私自身魔王様と確執があったわけではありません。
私は道化であり、騎士ではなかったのですから戦う理由もありません。
唯一、水の女王を護れなかったのは心残りですが、それならば行動に移さなかった自分に怒りを向けるべきなのです。
そう、決戦が終わった後に蒸し返すのは不粋であり、終わらない戦いの入り口なのです。
魔王様は私に気付きません。
仮面もしてなければ、服はボロボロで泥だらけ。頭はボサボサで生気のない目付き。
流暢に歌い、語り、身なりを整えていたあの頃とはまるで別人なのですから。
それは魔王様もまた同じでした。
くたびれた顔には隈が張り付き、威圧感も、生気も感じられません。
ですが、その身体つき、顔付き、纏う空気は、やはり私の知る魔王様のソレでした。
魔王様・・・一体何が?
貴様・・・何故我が名を・・・?そうか。我が悪名はこんな所にまで届いているのか。
魔王様は疲れを隠さず、うなだれます。
嵐の化身は見る影もありません。
そして、常に傍らにいた筈の美しい姫君・・・。織姫様の姿もみあたりませんでした。
私は好奇心のままに尋ねます。
魔王様の逆鱗に触れ、灰燼とされたとしてもそれも良いでしょう。
奥方様・・・・・織姫様は・・?
魔王様は力無く笑います。
それを・・・訊くか?
ええ、今後の参考の為に。
私は間髪いれずに答えました。
今後の事など、なんのメドもたって居ないのに。
魔王様は珍しく口ごもり、一つ溜息をつくと重々しくか口を開きました。
彼女は我が元を去った・・・。
いや、我が彼女の元を去ったのか。
彼女の本当に求めるものを、我は与えることが出来なかったからだ。
流石に私もその「本当に求める者」を尋ねることは出来ませんでした。
魔王様の身体から漂う、諦め、怖れ、憔悴は、魔王様の言葉以上にそれが如何に過酷な決断だったかを物語ります。
きっとこのお方は、全てを捧げるおつもりだったのだ。
その気持ちも
その覚悟も
その喪失感も
分かるほどに胸がギリギリ痛みます。
そして気付けば、ここに居た。
奇妙な所だ。
皆、辛そうにしている。
人ばかりか影までも・・・。
似たような町は幾度か見たが、ここまで混沌とした町は初めてだ。
ここはこの世で一番、黄泉に近い町だそうです。名をケイオスタウン。
痛みも苦しみも、全てを受け入れる最果ての地だとか。
最果ての地か・・・。
ここなら束の間の安息に浸れるかもしれんな。
私もそう思っていたのですが、という言葉は口に致しません。
知って欲しい反面、知らない体でいた方が良いこともあります。
空気を読む?いえいえ、危うきに近ずくべからず、という事です。
私は魔王様をよく存じていますが、魔王様は私に気づいておりません。
これは私にとって有利な事でございますから。
さて、そんなやりとりをしていると、祭壇から目を擦りながら魔女が降りてまいりました。
日は傾きかける位の時間でしょうか、ケイオスタウンには時計もありませんし、今日は雨模様で陽光も頼りになりません。
ただ、夜には少し早いようです。
あら、こんばんは。それともおはようかしら?
欠伸混じりに魔女は挨拶をします。
その視線は広間を一周すると、魔王様と私の所で留まりました。
そちらの方は覚えておりますわ。私をまな板扱いした方ですわね?
こちらの殿方は?
私は相変わらずの魔女の上から目線に苛立ちます。
彼女がどの様な扱いを受けているかは察せますが、私はその輪に加わるつもりなどないのです。
しかし他に行き場もありません。
私は先程と同じ口上を述べますが、魔王様はへりくだりもせず、ただスッと立ち上がりました。
私はお二人を紹介する事にしました。
魔王様、彼女は魔女様です。魔女様、こちらは魔王様です。
魔女と魔王・・・並べてみると龍虎相立つといった感じでしょうか。
道化の頃の私なら、何かしらのドラマを期待して、ペラペラとお二人の事を解説でもしたのでしょうが、今はそんな気分になれません。
反発しあい、戦いが始まろうが、意気投合しようが、私にはどうでも良い事です。
魔王様には同情心もありますが、私に同情されても嬉しくないでしょうし、私が同情を見せる事で魔王様のプライドを傷つける事もあり得るでしょう。
私の紹介に魔女は高らかに笑いだしました。
魔女様!!あー、可笑しい!!皆様私をその様によんでらしたのですね!
魔女はひとしきり笑い、黒いローブの裾をちょこんと摘むと優雅に頭を下げました。
私はリリィと申します。ここは寝床に使っているだけですので、私にお伺いをたてる必要はありませんのよ?
最初に答えたのは魔王様です。
そうか。ならば遠慮は無用だな。我が名は・・・魔王。
少し間を開けて魔王様は名乗ります。通り名か、本名か、一瞬迷ったのでしょう。
しかし通り名を選んだという事は、魔王様は過去を「無かった事」にするつもりは無いようです。
私は胸の奥がチリチリするのを感じましたが、気付かぬふりをします。
私にはどうでも良い事です。
私にはなにもできないのです。
魔女・・・リリィは、肩より少し長い位の黒い艶やかな髪を揺らしながら先程より高らかに。
貴方も随分なお名前をお持ちですのね!
と愉快そうに笑います。
この方が「嵐の化身」であり「賢者」である事を知ったらどうなるのでしょう。
私は試す事にしました。
笑いが止まらない様子のリリィの前に立ち、片手を腕に当ててお辞儀をします。
長年の所作は、心とは裏腹に隠れてくれません。
が、注目を集める事が出来た私はすぐに言葉を繋げます。
・・・私の名はコドク・・・。何の取り柄もないただの人間です。火山を噴火させる程の力をお持ち魔王様と並ぶのは恐れ多いですが、せめてものご挨拶はさせて頂きます。
魔女の笑いがピタリと止まりました。
火山を・・・・噴火?御冗談を・・・
竜巻を生み出したり、何十人という人間を一瞬で街から街に移動させたり、邪神と相対したなどの伝説などを、リリィ様は御存知ないので?
抑揚なく、淡々と説明を続けます。
織姫様に加え、邪神との相対を話題に出してしまえば、身元が分かってしまうかもと思いましたが、この際構いません。
面白い程にリリィの顔は凍りついていきます。
それでいて笑顔が崩れないのは大したものですが。
しかし魔王様は片手を挙げると私を制します。
騎士達を叩き伏せ、身体中に業火を纏いながら城主の間に押し入った話もしたかったのですが、渋々やめる事にしました。
同時に
この時私は気付きました。
私がこのリリィという魔女が好きになれない理由を。
まるで人形の様に。
まるで役者の様に。
彼女は語り、振る舞います。
そう、かつての道化の様に。
本心を見せず。
それでいてこちらの心を覗こうとする。
ですから、リリィを畏怖させる事が出来たとき、私は優越感に浸りました。
魔女と呼ばれ、敬われ、恐れられていても、所詮は小娘。
私とは役者が違うのだ、と。
きっと同族嫌悪というものでしょう。
凍りついた表情のまま、リリィは魔王様と話を続けます。
平静を務めて。
冷静を務めて。
が、私は2人から距離を取り、壁にもたれかかりながらマントを深く被り座り込みました。
リリィが魔女様の逆鱗に触れる事はまずないでしょう。
被害が出ないのなら、周りに興味を持つのも、深い入りするのも煩わしいだけ。
私は只のコドクなのだからーーー。




