黄泉の国までは。
ここに辿り着いたか旅人よ。おぬしも闇に心を飲まれたのだな・・。
ここは・・・・?
ここは最果ての地。ケイオスタウン。ああ、ワシの名はパンサー。ここの古株じゃ。生きる事に絶望し、ここで朽ちるのを待っている。
私は・・・私は・・・
かつて道化だった男は考えました。
振り返るのが辛い過去に囚われるのはもう沢山だ。
様々な感情がせめぎあい、潰し合い、喰らいあい、最後に残ったのが自分。
感じるのは、飢えと渇きだけ。
かつて道化だったものは歪んだ笑いを浮かべます。
仮面を捨て、今まで忌み嫌っていた醜い傷痕を顕にします。
私は・・・コドク。
そして初めて、自分の名を口にしました。
コドク・・・孤独か・・・はたまた蠱毒か・・・。何にしろ全てを喰らいつくしたようじゃの・・。
老人、パンサーは深くを訊ねませんでしたが、代わりに自らの事を語ってくれました。
片目が失明している事。
徐々に身体が動かなくなる事。
人集りに混じれぬ事。
そのせいで組織に馴染めぬ事。
妻に真実を語れぬ事。
未来に希望を持てぬ事。
ここから半日も歩けば黄泉の国の入り口がある。このまま朽ちるのが一番じゃが、余りにも耐え難い苦痛があるなら儂は・・・・。
かつて道化だった男、コドクは、老人の差し示す方角に顔を向けます。
全ての生命が行きつく所。
黄泉の方角を。
しかし恐ろしさは微塵も感じられませんでした。
山の様に。海の様に。空の様に。
有るべくして有る。
ただそれだけです。
道化は・・コドクは・・いえ、私は、壊れてしまったのでしょうか?
いえ、違います。
私は元々壊れていたのです。
それを治す為に。
癒すために。
私は道化を演じていたのです。
人々に必要とされればきっと癒されると信じて。
人々に愛されればきっと治ると信じて。
それでは語りましょう。
この旅が始まる前の、私の過去を。




