歴史は繰り返す。
極夜の城に戻ってからの道化は大忙し!
この城に住まうものは誰もが自由すぎるのです!
気ままな夜来香は気ままに掃除をし始めたかと思えば、次の瞬間庭弄り。
胡蝶蘭は、道化の館で読んだ本に触発されたのか『邪神の生態と思考』
という本を執筆していました。
道化は興味本位で読ませもらいましたが、本能を文字におこしたような血生臭い雰囲気。
はしばしには滲み出てる狂気。
長時間読んだら発狂する。
と感想を漏らした所、胡蝶蘭は満足気にうなづきました。
世の中いろんな人が居るものです。
いつの間にやら城の出入りも激しくなりました。
機械師に猟師、白い鎧の女騎士も居ましたね。
鳳仙様は相変わらずのつむじ風。
ここかと思えば次にはあちら。
目で追うのも一苦労です。
城での毎日は目まぐるしくて
思い耽る暇なんてありません!
道化の悩みはただ一つだけ。
それは澪姫の立ち振舞いでした。
皆がどれだけ澪姫を気遣おうとも、労うこともなく、それを下がらせる澪姫。
ただ一言「ありがとう」というだけで報われるというのに。
道化は二の足を踏みます。
執事として働くのなら、主を想って進言するべきか。
それとも身分を弁え、やりたい様にさせるべきか。
道化は人を笑わせるのが仕事であり、それが生来の気質なのです。
笑わせる人は、一人でも多く。
その気持ちが、ついに一線を越えました。
その日は澪姫の友人である白い鎧の女騎士様がーー名は、記す必要もないでしょう。直ぐに御別れする運命にあるのですからーー。沢山のお土産を持って、澪姫を訪ねに参っておられました。
しかし澪姫は体調が優れぬのか、不機嫌顏で言葉を交わそうとしません。
それでも騎士様はめげずに面白おかしく話しを紡いだり、花や果物や珍しいプレゼントをお渡ししたり。
そして道化は一線を越えます。
澪姫。澪姫を慕ってやってくるものにその非礼は如何なものかと。
主たるもの、来客に礼を尽くすのも務めにございます。
如何に道化が来訪者達に感謝の意を伝えても意味がないのです。
来訪者達は澪姫に会いにきているのですから。
しかしこの一言は澪姫の心を傷付けました。
うるさいのだ!ここは澪の城!澪を大事に出来ないものに用はないのだ!
これには道化も驚きました。
なるほど。王は慕われて当然、敬われて当然。その考えは一理あります。
しかし如何に忠実な犬も、食事を与えねば従わなくなるのです。
道化がどう説明するべきか悩んでる間も、澪姫は怒りに任せて言葉を吐き出します。
そもそもお前は何なのだ!澪の執事である事を望みながら、天使とのいざこざを持つ込みおって!知っておるぞ!今は亡き水の女王とも親しくしておったそうではないか!お主を訪ね何人もの人間がここを訪ねておる!!
それとこれとは話が違う。
そう反論する事は容易いです。ですが道化は頭を垂れて
不愉快な思いをさせて申し訳ありません。すべては私の不徳が致す事。
うるさいのだ!澪を大事に出来ぬものは要らぬ!来客をもてなさねばなんのなら、こんな城も要らぬ!!
その言葉を聴いて、道化は心を固めました。
居場所を失うのがどれ程の苦痛か、道化は長い旅で嫌というほど思い知ったのです。
あの苦痛を、この城に訪れる者達に味あわせる訳にはいきません。
頭を垂れたまま道化は語ります。
分かりました。ならば私がこの城を去りましょう。私のせいで皆様の居場所が無くなるのは何よりも耐え難き事。
澪様。ご友人は大事になさって下さい。
うるさいのだ!二度とこの敷地を跨ぐ事は許さぬ!!
こうして道化は、また居場所を失いました。
暫くの間は、自らの屋敷に留まっていた様ですが。
ある日、自ら屋敷に火を放ち、何処へと姿を眩ませました。
極夜の城は来訪者が一人減り、二人減り・・・やがて客足は途絶え、遂には夜の闇に呑み込まれてしまいました・・・・。




