盛者必衰の理。
ハイノマチからそう遠くない小さな滝の裏に水の女王は隠れ住んでいました。
その姿には見る影もなく水色の髪は枯れ果てた様に真っ白にーー。
道化は涙が出そうになりながらもぐっと堪えました。
道化は笑わすのが仕事。
泣いている場合ではありません。
そして頭を垂れ口上を述べます。
ご無沙汰しております。女王。
この度の祥事、月の便りにて聞き及んでいます。
さぞ、苦労なさったのでしょう。雪の様な髪になってしまわれて。
道化は心の中で嘆きました。
ーー私が中立の立場をすて、女王の側に立っていたなら、また違う結末が在ったかも知れないのに!
なりふり構わず、女王の為だけにこの身を捧げれば、盾の一枚にはなれただろうに!
浅ましくも私は、見返りを求めた!
私のモノにならないのなら、と!!
この気持ちを伝える事もせずに!!
ーー
しかし道化はそんな葛藤を表に出すこと無く、いつものように仮面の下で笑います。
前々から思っていましたが、女王は不器用ですね?嫌われる事に臆病で、戦う事になれて居られない。
辛辣な言葉に、水の女王は表情を曇らせ、俯きました。
ですが、それでこそです。
花は争いません。水もまた然り。
傷つける事を厭い、友愛に生きるものは、優しい、というのですよ?
その言葉に、女王は少し顔を上げ弱々しく笑顔を向けてくれました。
精気のない、蒼白な顔色にキリリと胸が痛みます。
そしてその時初めて気付きました。
剣士スパイダーの姿がない事に。
口にせずとも、それは伝わりました。
尋ねるより先に女王が口を開きます。
スパイダーは妾の元を去った。
たった一言。その一言で道化は察しました。
一人、また一人と慕っていたものが去っていき。
寂しさの余り髪が白くなってしまったのだと。
おそらくは私が最後の一人。と。
それで、女王は何故、私をお呼びに?
うむ。怒り狂った魔王が妾の首を狙っておる。妾は長くないかも知れん。
道化は考えます。
私が休戦の提案をした所で、魔王様は受け容れてくれるだろうか?
おそらくは否。
部外者はすっこんでろ、と言われるのが関の山。
ーー私が女王様と恋仲ならば?
介入する事は出来る筈。
しかし・・・・。
解決の為に申し込む交際を、女王は了承してくれるだろうか?
道化はそれとなく、尋ねます。
私とお付き合いして頂ければ、堂々とお守りできるのですが・・・。
これでは助けて欲しければ交際しろ、と迫っているようにも見えますがーーー。
女王はきょとんとして首を傾げました。
そうです。こんな話し方をするので忘れがちですが、女王は鈍感な上に頭が御花畑なのです。
今一つ意味が伝わらなかったようです。
道化は深く話しを掘り下げず、次の案を出します。
万が一の時の身の守り方、逃げ方、いざという時の戦略。
ですが、女王は首を横に振るばかり。
おそらく妾は長くない。
お前には楽しませてもらった。じゃのに頼り、負担をかけてしまって済まぬ。
なにをおっしゃいます。頼って頂き光栄です。何故、もっと早くーー。
道化は口を噤みます。
それぞれの選択がこの結果を招いたのなら。
これは女王の選択であると同時に、私の選択。
せめて、便りを下さい。
貴女の安否を気遣う、一人の友人として。
女王はこの日一番の笑顔を見せ、道化に労いの言葉をかけると、奥に引っ込んでしまいました。
屋敷に戻った道化は暫くの間、女王と便りのやりとりをしましたが、程なく回数も減り、便りは絶え、再び滝の裏を訪れた道化が目にしたのはもぬけの殻の空間でした。
道化は己の無力さを嘆きながら、とぼとぼと家路に着きました。
道化もまた、一人また一人と知人を失い、その胸に虚ろな穴が空きつつある事を、道化はまだ気付いていませんでした・・・。
ネタがだいぶ溜まりましたので再会致します。
10万文字を目指していましたが、間も無く最終章に差し掛かります。
文字数は足りませんが、様々な思い出がつまった思い出深い作品になりそうです。




