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電子一夜物語  作者: メフィストフェレス
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深淵を覗くには。


さて、一同がここに集まってしまっては、極夜の城はもぬけの空。

起きてもやることが無ければ澪姫は眠り続け、今度は夜のこない、白夜の城になってしまうでしょう。


姿を消してしまった水の女王。

眠りから醒めた天使。

眠り続ける姫君。


どこから手をつけるべきか、道化は思い悩みます。

石の様に固まった道化の周りを夜来香イエライシャンが忙しなくハタキを持って動き周ります。


テーブルを挟んで向こう側では、胡蝶蘭とルナロッサが楽しげに談笑していました。

耳をすます必要もなく何時になく上機嫌な胡蝶蘭の声が届きます。



私のオススメの拷問器具はやはりーーー。



道化は集中して続く内容を遮断しました。

今は拷問器具より、今後の身の振り方です。

色々疑念が浮かびましたが大事の前の小事です。


それにしても胡蝶蘭もライシャンもとにかく個性が強い、と道化は思いました。

正体不明の筈のルナロッサより、よほど得体が知れません。

分かるのは、好奇心が旺盛で行動力がある事位です。



辻風 鳳仙様ならまた何か道を示してくれるかもしれないのですが・・・。



道化は珍しく愚痴をこぼします。

誰かを充てにする。

誰かを頼る。

そういった行為を彼は嫌うからです。


高い所に行きたければ、自らの足で登らねばならない。という格言に従うように。


しかし今回ばかりはそうは言ってられそうもありません。

人が一人で出来る事など、精々自分の事ぐらいが関の山。

1人で高所に臨む事は出来ても、誰かの手を引き、または背負って登る事は到底適いません。

多くを望むなら、とりわけ他人をどうにかしたいのなら、助けは必要不可欠なのです。

命が、一人では産まれぬ様に。


道化は決めました。

一人、極夜の、はたまた白夜の城で寂しそうにしているであろう澪姫を放っては置けない、と。

人を笑顔にする事が出来ず、何が道化か、と。


計らずとも、道化は澪姫の配下を連れて出る形となりました。

空けてしまった穴は、埋めなければいけません。

ふと、何時だったか言われた言葉が道化の脳裏をよぎりました。


ーー道化って執事みたいだよねぇーー。


外側から測れる事にはやはり限界があります。

ならば内側に飛び込むまでです。


道化の決心にいち早く気付いたのは対面に座っていたルナロッサでした。

読み手、というだけはあって、心情や変化には敏感なのでしょう。



行くんだね?道化君。

君の事だから、自分の事はどうせ後回しなんでしょ?

励みになるかは分からないけど、一応言っとくね?

僕は楽しい話が聞きたいかな。

子供も笑って聴けるようなさ。



道化は静かに、そして力強く頷きました。



美しくも儚い話。美しくも哀しい話は、私も飽き飽きしていた所です。

抱腹絶倒とはいきませんが、笑顔になれるような物語、必ずや描いてみせましょう。



ん。掃除も一段落したし、姫様も寂しがっておろだろう。妾も城に戻るとするか。

この館にはちょこちょこ顔を出してやるぞ。

妾にしてみれば水溜りを飛び越えるような距離だからな。



ライシャンがハタキとエプロンを片付け、ニンマリと笑いながら会話に入ってきました。


気付けば、館はピカピカになっており、どこから持ってきたのか見た事もない装飾品が増えていました。

何層にも彫られている球体の彫刻や、霞の様に描かれた深い山々の絵画。

古めかしい鏡、等々です。

其れ等の品物は、多くを見てきた道化にも馴染みがないものでしたが、おそらく高価なものである事はすぐに分かりました。

礼を述べようとする道化を手で制し、ライシャンは何時ものようにニンマリ笑うのでした。



礼は要らんぞ。妾は好きでやっているのだからな。


・・・しかし、これ程の品々・・。ライシャン様は一体何者なのでございますか?


ほう?妾の話が聞きたいと申すか。

中にはまだお主の様な物好きも居るのだな。

話してやろうではないか。

その内なっ。



照れ臭いのかライシャンは珍しく背を向け・・影も形なく消えました。

一足先に極夜の城に戻ったのでしょうか。



私も一足先に帰ってますよ。



胡蝶蘭が名残惜しそうに、席を離れます。

それは丁寧にルナロッサに頭を下げると、コツコツと影に向かって歩いて行きました。



胡蝶蘭様、そっちは行き止まりーー。



道化は言葉を詰まらせます。

確かにその先は行き止まりの筈なのです。

ですが胡蝶蘭は、文字通り、闇に溶けてしまったのです。



ーー笑顔になれる話、作れそう?


・・・尽力致します。鳳仙様もいらっしゃいますし?まだお会いしてない方々もいらっしゃいますから。


応援してるね、道化君。



ルナロッサの言葉に、先ほどとは打って変わって、力無く頷く道化なのでした。




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