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電子一夜物語  作者: メフィストフェレス
18/29

局地的災害。


随分と埃を被ってしまいましたねぇ。


道化は呟きます。

かつて忙しなく動き回っていたラトリーも、健気なパンドラも、今は思い出の中です。

道化が最も多く時間を費やした書斎のテーブルには、彼には似つかわしくない可愛らしい便箋が置かれていました。

差出人は、パンドラでした。


きっと何度も書き直したのでしょう。

可愛らしい花柄の便箋はところどころ皺くちゃで、涙の跡でしょうか、文字も掠れているところが多々ありました。



健気なパンドラちゃんは、なんて?



ルナロッサが軽い口調で道化に尋ねました。

道化は手紙を大事そうに本に挟み、本棚に並べました。



恋焦がれています。そして、さようなら。だそうです。



それきり、道化は口を閉ざしました。



なんだい、寂しいのかい?

なんなら僕の胸をかしてあげてもいいんだよ?



道化はルナロッサの軽口を受け流し、机に紙を拡げました。

インクと羽ペンを用意して・・・。

一度部屋を離れます。

暫くしてから、銀のトレイに紅茶とクッキーを乗せ帰ってくると、机の端に置き、ルナロッサを近くに座らせました。


そしていよいよ、灰の街で何が起きたかを聞き始めたのですがーー。



えーっとね。水の女王が眠りについたのは知ってるでしょ?

それから目を覚まして、姿を消したんだ。

おしまい。



ーー自分で語るのが苦手と言うだけのことはあります。



水の女王は何処に?


うーん。知らない。スパイダーなら知ってると思うけど、スパイダーも姿を見せなくなったし。

他の人達も街に来なくなって。あの有様さ。


・・・・そうですか。



道化は要点だけを走り書きすると、羽ペンを机に転がしました。



春の夜の夢の如し。

盛者必衰の理・・・ですね。


どういう意味なんだい?


栄える者は必ず衰える、という意味ですよ、ルナロッサ様。


・・・・だから君は物語を紡ぐのかい?永遠に衰えない、夢の様な世界を?


夢は醒めれば終わってしまいます。

私はーーーー。


おとり込み中失礼します。



二人の会話を遮り、部屋の入り口から声が飛んできました。

誰も居ない筈の館から突如出現されれば、誰だって吃驚いたします。

このように人の無意識を突いて声をかける人物と言えば。



ーー胡蝶蘭様。何故ここに・・・。



物陰からスッと、当たり前の様に姿を現したのは、月下美人ウォルハミインの姫君の下に仕える神父、胡蝶蘭です。



道化殿が城を出て行くのを見かけましたので、少々跡をつけさせていただきました。



悪びれもせず、顔色一つ変えず胡蝶蘭は言葉を返します。

道化が何かを言い返す前に、違う部屋からガラガラガッシャーンと盛大に何かをひっくり返す音が響きました。

聞き耳をたてるまでもなく、書斎まで特徴のある言葉が届いてきました。



ーーなんなのじゃ、この館は!埃まみれ、物まみれ!ちゃんと管理するものはおらんのか!!

あー!これは必要ないっ!!これもいらん!これも捨てじゃっーーー



がんらがんらと、何者かが部屋をひっくり返している音が響いてきます。



・・・ライシャン様まで・・・。


ふぅん。道化君、違う場所でまた女の子を口説いてきたのかい?

君の手の早さには呆れるよ。



頭を抱える道化に向かってルナロッサが愉快そうに軽口を叩きます。

しかし道化はその言葉を返すだけの余裕がありませんでした。

道化であるが故の冷静さ、計算高さは、この面々では全く功を成さないのです。

全てにおいて、気付けば後手後手に回り、見て分かる程に道化は動揺していました。

あの邪神の囁きにすら動じなかった道化が、です!


それもその筈、今まで相手してきた人間は正面から、断りを入れてから話を交わしてきました。

しかし、ルナロッサ、胡蝶蘭、ライシャンは断りをいれる所か、正面からも来てくれないのです。

前後左右上下、何処から距離を詰めて来るか皆目見当がつかないのですから。

そして其々が、いっぺんに重大発言を投げつけてきました。



道化!妾は暫くこの館を綺麗にするぞ!ーー礼などいらん、妾が好きでやるのだからな!



スルリと身を現すと、はち切れんばかりに尻尾をパタパタさせ、目を爛々と輝かせながらライシャンは道化に言いました。

狩りに興奮する動物の様です。



ハハッ闇人形ですか。

私、神父と言いましたが、闇の洗礼を受けているので正式には邪神父なんですよ?



最近書いたばかりの章を本棚から引っ張り出し、興味深そう黙読していた胡蝶蘭はサラリととんでもない事を告げ。



ああ、ごめん、道化君。

言い忘れてたけど、天使が眠りから醒めたみたいだよ?



ルナロッサは、道化の心臓を一瞬凍りつかせるような事を淡々と、天気の話の様に語りました。


道化は頭を抱えるどころか、頭痛までして来ましたが。

それを心の内側にぐっと押しこんで、ニッコリと笑いました。



とりあえず、皆でお茶でもしましょうか?



この日、この瞬間、初めて皆の心が一つになりました。

皆が手を上げて、声を一致させたのですから。



賛成ーー!!




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