月夜に咲く華。
灰の国を後にした道化は、執事の街を目指しました。
ところが辿り着いた執事の街は寂れ果て、身内で細々と繋いでいる状態だったのです。
余所者には怪訝な視線を浴びせ、必要最低限の会話しかしようとしません。
折角灰の国を出て、新天地を求めたのです。道化は様々な人に尋ねては、なにか得るものがないか探りました。
そんなある日、不思議な噂を耳にします。
なんでもその国の姫には呪いがかかっており
眠りから覚めると夜になり、眠りにつくと朝になる不思議な国があると。
内気な猫のような可愛らしい夜の姫に、孔雀も見とれるという世にも美しい王子。
側に控えるのは恒星のように明るい女執事と誇り高き妖狐のメイド。
奇書を愛読する神父に、詐欺師までおられるとか。
一癖も二癖もある住人に囲まれた姫は、今まさに住人の拡大に努めているそうです。
浪漫の香りがしますね?
そう呟くと、道化は教えられた方角に歩みを進めました。
時同じくして、灰の国は不穏な空気に包まれておりました。
織姫様に仇なす者は何人たりとも許さぬ。
それがどういう意味か、灰の国の住人達は身を以て知る事となるのです。
ここまでの物語を読み進めた方には知る権利がございましょう。
ことの発端はスパイダー。
そしてルイ・カサノヴァと織姫様の確執でございます。
ふとした事から、スパイダーと織姫様は口論と成りました。
しかし、織姫様の振る舞いに耐えきれなくなったルイ様が面と向かって批難したのでございます。
織姫様は口が過ぎます。願わくば、永久に口を謹んで頂きたいものです。
愛を紡ぐ言葉を制限されるとは、織姫様には耐え難い屈辱。
しかし、魔王様が訪れる灰の国に荒波を立てるのを嫌い、その声を、その存在を封印する事にしたのです。
織姫様が存在を感知できるのは、魔王様と、古き友人であるジェイオン様だけとなりました。
一連の出来事を知った魔王様は、水の女王に詰め寄りました。
なんの権限があって我が愛する者を制限する?
女王に責任がないとは言わせないぞ。
怒り狂った魔王様はジェイオン様と共に呪いをかけて周りました。
それは、心を凍てつかせる呪い。
勇気を萎ませ、気力を奪い、責任感に押し潰される、退廃の呪い。
女王の剣であり盾であるスパイダーは、その勇気を奪われました。
どんな逆境にも挑みかかる勇気がなければ、嵐と火山が一度に襲うかかるような魔王様とジェイオン様には、一矢すらむくいることは出来ません。
水の女王はその責任感に押し潰されました。
臣下の気持ちを制御できなかった事や、場に合わせた発言で混乱を招いた事。
女王の責任である事も、そうでない事も抱え込み、心は凍りつき、ついには眠りについてしまいました。
いつ目覚めるかも分からない、呪いの眠りに・・・。
ルイ・カサノヴァは全ての気力を奪われました。
街を守る気力も、女王の目覚めを待つ気力も、ただそこにいるだけの気力も無くなり。
いつの間にか、灰の街から消えていたのです。
全てが凍てつきました。
街の喧騒も。
興奮も、感動も、狂乱も。
邪神の囁きさえ、影を潜めてしまいました。
人影が無くなった灰の街は
風に吹かれて散るしかないのでしょうか?
人々はただ、女王が眠りから覚めるのを待つのみです・・・。
それは美しく、幻想的な景色でした。
まだ新しい筈の、教会の様な小さなお城は、何処と無く憂気で切なくなります。
満月を背にした夜の城など、普通は不気味な空気を纏うものですが、そのお城は、まるでお伽話のような高揚と愛しさと、懐かしさを感じさせるのです。
きっと雲一つない、綺麗な星空のお陰でしょう。
門を潜り抜け、石畳みの長い通路を道化は真っ直ぐ進みます。
何処かで鎖がなる音がしました。
地下牢でもあるのでしょうか?
その音に気を取られた、次の瞬間、若い乙女の声が響きました。
君は誰なのだ?澪の国に何の用なのだ?
肩まで伸びた、月を思わせる金色の髪に翠の瞳。
口元からは、牙の様な犬歯がチラリと覗きました。
しかし何よりも違和感を感じたのは、華やかな美貌とは対照的な漆黒のドレス。
道化は直ぐに悟りました。
この幼さ残るあどけない乙女こそが噂に聞くーーーー。
月下美人の澪姫。
冒頭と、補填だけでございます。
次の更新には話を一気に進めれれば良いなぁ、と思っておりますので、気長にお待ち下さい。




