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電子一夜物語  作者: メフィストフェレス
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渦巻く混沌。

邪神ナギナークには対になる存在がいます。

例えるなら、力と技。剣と盾。月と太陽。

片方だけでも恐るべき存在ですが、2つの存在が重なり、初めて邪神ナギナークの力は安定するのです。


対になる存在の名は、琉羽導師。

その名の通り邪神の力を導き、時に邪神を守る盾となり、邪神を真っ向から受け止める事が出来る唯一の存在です。

その力とは対照的に、琉羽導師は用心深く隙を突く戦いを好みました。


隙を作るナギナークと隙を突く琉羽導師。

この二対一組をもって、邪神の力は猛威を奮うのです。





ハルノクニの空模様は何時からか曇り続きでした。

暖かな木漏れ日はもう随分と見かけなくなり、代わりに冷気を含む風か吹き込む様になりました。


パンドラ、ラトリー、道化の三人は館からハルノクニに向かい歩いていきます。

怪物はいつの間にか姿を消しましたが、街中の至るところでその傷跡と、ナギナークの残影を見る事になります。

過去を見せる事が出来る、ナギナークの力です。


多くのものがハルノクニを去ると思われました。

しかし予想に反し、大半のものがハルノクニに残り、或いは少し離れた所から訪れる様になりました。

道化やパンドラやラトリーも、その大半の一部です。



・・・民あっての国、ですね。花の女王は民に恵まれていらっしゃる。



道化の呟きに、少女達は首を傾げました。

少女達には少し難しかったようです。



ここに集う方々は、花の女王をとても好いてらっしゃるという事です。


・・・道化も、花の女王が好きだからここに来ますの?



言い出し辛そうにもじもじするパンドラの代わりに、ラトリーが質問をします。

パンドラは大袈裟なまでに首を縦に振りました。



・・・私が好きなのは・・・。



バチバチと紫電が走り、空間が裂けると、暗黒の穴からにゅるりとあの若者が這い出てきました。



・・ナギナーク・・・。



道化の言葉を尻目に、ナギナークはにたりと笑います。

新しく壊せる玩具を見つけた、残酷な少年のように。



お前達の慕う道化は、今も堕天使を想っているぞ。その胸の内を見せてやろう・・・


邪神が指を少し動かすだけで

空に映像が流れます。

映像の中で、道化は何人もの男と共に堕天使を囲んでいました。

空に轟く雷の様に、道化の声が一面に響きました。



『この想いはもう止められません・・。堕天使。貴方は、私のものです。』



ラトリーが首を振りました。



これが道化だって証拠はないですの!



ナギナークは面白そうに、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も、

その映像を繰り返し空に映し出しました。



ーーあれは間違いなく私です。



今にも逃げ出しそうになっていた少女達は、その言葉を皮切りに来た道を走って引き返しました。



・・・君は、思ったより動揺しないね?


自分の正直な心を叫ぶのに、何を恥じる事がありましょう?

言い出し辛いことを私の代わりに伝えてもらい、感謝すらしていますよナギナーク。


・・・なんだ。つまらないなぁ・・・。



そのやりとりで、ナギナークは道化に対する興味を失ったようでした。

叩いても響かない鐘を、どうして叩き続ける事ができるでしょう?

なんの前触れもなく姿を消します。

きっと次の玩具を探しに行ったのでしょう。


道化は少し迷った後に、少女達を追いかける様に館へと引き返して行きました。







不満があるんだろ?ルイ・カサノヴァ。



ナギナークは珍しく真顔で、大臣のルイ・カサノヴァと向き合っていました。

ナギナークは見つけたのです。

叩けば響く鐘を。


ルイ様は、誰が相手でも臆しません。

その中性的な見た目や、不可思議な言動に寄らず、芯は固く弱さを見せる事がありませんでした。

ナギナークは囁きます。


不満を押し込む姿こそ不自然だと。


抜け目なく、先程自分を驚かせた言葉を被せます。



自分の正直な心を叫ぶのに、何を恥じることがあるんだい?



そしてルイ様は決心した様に口を開くのでした。


あの女が好きになれない・・・と。



このやりとりが、ハルノクニの弱体を加速させる事になるのです。

果たしてこれも琉羽導師の計画の一部だったのでしょうか?

それとめ、成るべくしてなった、運命の一部だったのでしょうか?

それは、誰にも分かりません。

時は無情に、そして平等に、針を刻んでいきます。





更に所変わり。


花の女王、剣士スパイダーに相対するのは魔王様です。



束の間の幸せに酔いしれるがよい。



ーー記録に残っているのはここまでです。

どれだけ蔵書をひっくり返し、関係者に訊いても、この時期の事は要領を得ません。

詳しくお話し出来ないのは残念ですが、知りうる限りの中でお伝えしましょう。


魔王様は、剣士スパイダーと、花の女王に、ナギナークと対決する為の力を与えるために試練を与えたそうです。


賢明な方ならお察しでしょうが、ナギナークは揺るがぬ心には関心を持たず、揺れ動く心を好んで刺激致します。


恋多き剣士スパイダーと、訪れた春に浮かれる花の女王は、ナギナークの格好の的なのでした。


魔王様がどのような試練を与えたかは残念ながら記録にありません。


しかしながら、二人はその試練を乗り越えれなかったことは分かっております。

試練は二人の絆を裂き。

花の女王の薄紅色の髪は、哀しみに暮れる鮮やかな水色へと変色致しました。


この頃から。

花の女王は、水の女王と呼ばれるようになりました。



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