03-002 『俺』って、なんだ?
主人公の思惑は続きます。
自分はなぜ、転成したのか?
そもそも、俺はなぜこの世界へ転成したんだ?
どっかの小説みたく、死んだり神様だかに願ったりした記憶もねぇし。
なんかに召喚されたんだか降臨したんだかでも無さそうだ。
…まぁ、魔王を召喚したりはしねぇか?
……いや。どっかのRPGにゃ、召喚された魔王を勇者が倒す話が…
………いゃいゃいゃ、倒されたくなくて、俺は逃げ出したんじゃねぇか…。
いい加減、考えるのに疲れたので、俺は考えるのをやめた。
…判ってたんだよ、最初から。考えても仕方ねぇって。
背筋を伸ばして、下界を眺めてみる。
あぁ、『下界』っつ~ても、俺は天上に居るわけじゃね~よ。
てきと~に見つけた、高い岩山の天辺に居るだけだ。
ここなら、あの邪悪そうな勇者様御一行も簡単にはこね~だろからな。
見渡す『下界』には、広い森林とその先に平原が広がっている。
後方には盆地が広がっていて、その遙か向こうの地平線には山脈が見える。
あの山脈の向こうには…俺が転成した魔王城と、あの勇者様御一行の国がある…筈だ。
その後がど~なったんだかは知らなね~から、確実じゃねぇけどな。
そして…あの山脈の麓には、チビ…いや、コブ達の国、いや棲家がある。
俺は…何をすればいいんかなぁ。
勇者様御一行は、シナリオとやらをクリアするのが目的だったみてぇだ。
『勇者と仲間が力を合わせて魔王を倒す』、か。
判り易いシナリオだな。…王道だ。
コブ達は、魔物と人間が力を合わせ、悪い『自称勇者』とか言う奴を倒す。
これも、それなりに判り易いな。
まぁ…魔物と人間がいつまで平和に暮らせるかはわからねぇけど。
でも、暫くは大丈夫だろうけどな。
俺は…何をすればいいんかなぁ。
いや、俺は、なんで魔王に転成しちまったのかなぁ。
ハラダ達みたく、判り易い勇者様御一行じゃなくて。
再び前方の下界を眺める。
…そうか。
俺は、どこへ行ってもいいのか。
俺は、何をしてもいいのか。
俺は、シナリオに縛られた勇者様御一行じゃねぇ。
厳しい生活に追われる村人や魔物でもねぇ。
俺は…この世界では、自由なのか?
傍らに置いた、『ヤバそうな剣』をふと眺める。
抜き身でかっ攫ってきた筈なのに、いつのまにか鞘に収まってやがった剣。
転成者らしき『自称勇者』を、灰に変えちまった剣だ。
これは…この世界で言うトコの『魔剣』って奴なんだろうなぁ。
ふむ。
傍らに置いた、『魔剣』を掴んで抜いてみる。
…魔王の俺が見ても、不気味な剣だな。
…いや、俺が転成者だから、不気味に見えるのかもな。
これは…たぶん『破邪の剣』とでも言うのだろう。
剣を鞘に戻して、背に負ってみる。
…重いな。重いが、この重さは『重量の重さ』とは違う重さだな。
…行くか…
遙かに見える平原を目指して、俺は滑空していった。
とりあえずは、先へ進んでみることした主人公。
何か待っているのかは…誰にもわかりません。




