02-011 疲れた…。
この章もようやくフィナーレ(?)です。
まぁ、話数だけ多くて内容は短いですが(苦笑)
ふうーぅ、なんとか上手く逃げ出せたようだ。やれやれ、疲れた…。
山脈を越えて一休みしようと泉に立ち寄ってみたら、大火傷をしたゴブリンのチビが泣いてやがった。
あまりにも憐れだったから超回復の魔法を使ってやったんだが…魔王の魔法ってパンパねーんだな。
チビがすぐに全快したのは当然として、余った魔力が泉に反応して、回復の泉になっちまった。
…案外、回復の泉ってこんな手違いで出来るモノなんだ…とか思ったが、ホントのトコは判らない。
チビに懐かれたんで話を聞いてやったが…冒険者に狩られるザコって哀れなモノだったんだなぁ。
…まぁ、ゲームじゃ描かれない話だな。
チビが言う「乱暴なヤツラ」ってのが最初は判らなかったんだが、人間の冒険者だと気付いた時はギョっとした。
…もうあの勇者様御一行が来たのかと思っって焦ったぜ。
まぁ、特徴を聞いてて別のヤツだと判ったのでホッとしたが、やっぱやべーよ、冒険者ってそこら中に居やがるんだな。
さて、コブとか言うチビを連れて暫くあちこち様子を見たんだが…コブの仇の冒険者の野郎、ろくなヤツじゃねー事に気が付いた。
そっこら中で乱暴狼藉。魔物相手だけじゃねぇ、助けた筈の村から僅かな蓄えを根こそぎ巻き上げるわ、村娘にゃ手を出すわ。
特に弱小の魔物達は惨々たるモノだった。
怪我した魔物とかは手違いで作っちまった回復の泉へ連れてってやってたんだが…。
俺が、ゴブリンとは仲の悪い魔物まで助けてやってたもんだから、コブが不思議がるんで適当に『弱いヤツは助け会わないとダメだろ』って言ってやった。
…そこまでは、よかったんだ。
間違いは…懐いたコブが俺の事を聞きたがるから、ごまかすつもりでうろ覚えの『さるかに合戦』の話をしちまったコトなんだ。
コブのヤツ…さるかに合戦のカニの子供と自分を重ねちまって、すっかり仇打ちの為に仲間を集めてる気になっちまいやがった。
…どー考えても勝てる訳ねーぜ。
だがそのうち、人間の中にもヤツを怨んでる連中が多数居る事に気付いた。
何故気付いたかだって?
そこはそれ、俺は魔王だからなっ…てのは冗談で村人から聞いたからだ。
俺には街で人間と接触する必要が有ったんだよ。
…喰う為にだ。
俺は魔力を使って何でも出せるんだが、自分が出したモノを食べても空腹が納まらないんだ。
よーく考えたら当たり前だ。
自分の魔力で出したモノを食べても消費した魔力分は回復しない。
…エネルギー一定の法則ってヤツか?違うかもしんねーけど。
そこで商人に化けて、魔力使って出した食い物とかを街で高く売って、村人から安く食い物を買って食べる事にした。
…俺は現代の食い物を出せる。
この世界じゃ超高級品だ。
だから金持ちには高く売れる。
旨い物を売って、マズイ物を買って喰う。
…理不尽だ…。
だが、背に腹は変えらんねー。
やれやれだ。泣けてくる。
まぁ、そーゆー別けて人間達の間でもヤツの評判がすこぶる悪い事が判った。
そして、ヤツに強い怨みを持つ人間に少しづつ接触して行った。
人間側で最初仲間になったは、村人A(仮称)と名乗る男だった。
どうやら、幼なじみの娘をヤツに手込めにされたらしい。
そいつは魔物にも敵愾心が強かったようだが、ヤツへの怨みと怒りは、それを遥かに凌駕したようだった。
少しづつ人間の仲間も増えて行った。
大半がヤツに恋人や娘を手込めにされた連中だった。
聞いた話では、ヤツは勇者を自称してるらしい。
アホか?自称したって勇者なんぞにゃなれんぞ。
…俺は魔王だから、勇者が天敵だ。
だから、そんくれーは判る。
おまけに盗賊団を手下にして、騎士団を名乗ってるらしい。
バカか?騎士ってーのは王侯かなんかから任命されるモノだ。
常識無さ過ぎだ…。
そこで俺は気付いた。
ヤツも、転成者だ…。
マズイな、下手したら俺がやべー。
俺は集まった連中が俺が出してやった旨い飯を喰ってる隅で、一人マズイ飯を喰いながら考えた。
…罠をかけるしかねーだろなぁ。
考えていて思い付いた話が有った。
ヤマタノオロチだ。
いや、俺が竜に化けるんじゃねーよ?
ヤマタノオロチは酒に酔ったトコを倒されたって方だ。
だが、酔わせただけじゃ不安だ。
念には念、罠には罠だ。
まず、偽の村を作って村の中心に大穴を掘った。
偽の村はまぁ、映画のセットみてーなモノだな。
力の有る魔物と手先の器用な人間が協力すりゃ仕事は早い。
工具類は俺が出してやった。
…まぁ、魔王のアイテムだからな。
性能は抜群だ。
大穴には、石油をたっぷり撒いて置いた。
その上に材木で蓋をして、偽の村長の家を作る。
壁の中にも燃え易いようなモノを仕込んでな。
更に、現代の酒を大量に用意した。
村人A(仮称)に確認して貰ったが、抜群に旨い酒との事だった。
ついでに酒には目薬を仕込んでやった。
…効果が有るかはわからんけどな…。
こうして、偽の村を作り、人間連中が村人に扮装して、魔物が出たとの噂をヤツの手下に流した。
…まぁ、ホントに魔物は居るんだがな(笑)
ヤツは見応におびき出されてきた。
村人に扮した連中の演技は真迫だった。
コブの指揮も、魔物と人間の連携も見応だった。
だが、ヤツが火達磨で飛び出して来た時は焦ったが…流石に目薬入りの酒が利いてたらしい。
ヤツの最後は凄惨だった。
ずいぶんとしぶといようだったが…ヤツの剣を奪ったコブが見事に倒した。
だが、コブがヤツを剣で刺したとき、その剣が異様な魔力を放った事に、俺は気付いた。
アレはやべー剣だな。
魔王の俺でもやべーかも知れねー。
俺は姿を消して剣を回収し、コブへの書き置きを残してトンズラした。
…これ以上ココに居たらヤバイからな。
こんだけの騒動だ。
あの勇者様御一行が、聞き付けて来るかもわかんねー。
早々に退散するに限るぜ…。
しかし…疲れたぜ…。
…裏話というか、本編と言うか…
主人公側の事情は、こんな訳なのでした(苦笑)