崩レユク結晶巨人
ヴィゼイアスの咆哮が再び響き渡り、周囲に散乱しているクリスタルの欠片がアリス達に向かって飛んでく
る。
四方八方からの一斉攻撃だがイクサとゼータは回避行動を、アリスは迎撃の為に能力を発動させて迎撃する。
そしてその光景を見ていたイエスメデスは攻撃を仕掛けたヴィゼイアスが、こちらの手の内を探るように行動しているのだと確信する。
その最もな理由はアリスの持つ能力だとイエスメデスも納得している。
ヴィゼイアスとの戦闘によって捕らえられていたが、イルミデンテの咄嗟の判断により自身の外格をが即座に破壊してその破片を盾のようにして近くにいたイクサ、ゼータ、イエスメデスをヴィゼイアスの攻撃から守った事で他のZの適合者と同じように取り込まれることはなかったのだ。
しかし離れた場所にいたワイズマンと、負傷していたトトは助ける事は出来なかったが・・・
(あの能力は何なのだ・・・我々でも壊す事が出来なかったクリスタルを破壊するなど)
『イクサ様!』
ゼータの叫び声と共にイクサは我に帰り、迫り来るクリスタルの礫を盾で防ぐ。
『すまないゼータ。少し考えごとをしていた』
『しっかりしておくれイクサよ』
イクサが無事な事を確認したゼータはヴィゼイアスに向かって銃撃を開始し、イクサとゼータの行動を見ていたイエスメデスがイクサを叱咤する。
戦場での気の緩みは死に繋がる。その事を一番理解している筈のイクサが考え事をしているのを目の当たりにしてヴィゼイアスは不思議に思う。
何故協力して攻撃してこないのかということだ。
ゼータ、イエスメデス、アリスは共に攻撃を仕掛けているがイクサだけは攻撃してはいなく、様子伺っている感じで攻撃してこない。
最初であれば相手の手の内を探る為と納得できるが・・・イクサとヴィゼイアスが戦闘を開始してから数時間が経過し、激戦につぐ激戦であり最早ヴィゼイアスの出せる手のなかでイクサに見せていないのは残り2つだ。
初めはイクサがこちらの手の内を調べる為なのかと思ったが、どうやらイクサの動きを見る限りヴィゼイアスは自分ではなくイクサが警戒しているのはアリスと名乗る少女であると確信する。
でなければ動きが不自然なのだから。
『面倒デス・・・』
そう言うとヴィゼイアスは能力を解放し周りに散らばる結晶を集め巨大な人程の大きさに凝縮していき・・・その姿が生物のように変化してゆく。
しかしながらイクサ達もパキパキち音をたてながら変化してゆくのをただ見ているだけではない。
最初に行動を起こしたのはアリスであり速度はイクサ、ゼータには及ばないがクリスタル羽を使って周りに散らばるクリスタルの破片を避けながら接近する。
ゼータはその翼を使い高く飛んでヴィゼイアスの死角に入り込み、持っている銃で奇襲をかけ、イエスメデスも鉄扇を使ってヴィゼイアスに攻撃を仕掛ける。
イエスメデスの攻撃は奇襲するゼータに合わせて攻撃を仕掛けるものであり、ヴィゼイアスに対して真正面からの攻撃だ。
『何ヲスルツモリナノカハ知ラナイデスガサセマセンヨ』
アリスがヴィゼイアスの形成する物を破壊しようと近づき、触れようとするが・・・突然アリスの地面に穴が空き、その中から無数の蟻型の機械侵食者が出てくる。
しかしながらどの蟻型の機械侵食者も身体に傷を受けていて、そしてところどころにヴィゼイアスのクリスタルと同じようになっている。
『しまっ!?』
アリスが急に出てきた蟻型の機械侵食者に対して避けるように方向転換するが・・・避けきれずに腹部をかすめる。
直ぐ様に体制を立て直して襲い掛かる蟻型の機械侵食者を迎撃しようと戦闘体制に入るが、どうやらその必要はなかったようだ。
『アリスここは私が抑える!貴女はあれを止めてください』
『了解です』
アリスに襲い掛かろうとした蟻型の機械侵食者を押さえ込んだのは、先ほどまでアリスの様子を伺っていたイクサであり、ヴィゼイアスの作り出そうとしている物が危険だと判断したからだ。
『残念・・・モウ遅イデス
命晶・腮喰ライ』
ほんの数分の時間で世界は急変する。
その事を再確認するが如くヴィゼイアスの作り出した結晶体は形成され動き始める。
その姿はまさにクリスタルの狼を彷彿とさせるが・・・なんとヴィゼイアスが作り出した狼は首が3つあり、そのでれもが鋭利な牙を輝かせている。
その移動速度は流石獣ということもあり速く、攻撃しようとしていたアリスの横をすり抜け、イクサの頭上を日々越えてイエスメデスの元まで一直線に向かって進んでいく。
氷の彫刻とも言える3つ首の狼・・・腮喰ライはそのクリスタルで出来た身体でどのように走っているのかは不明だがヴィゼイアスに攻撃しているイエスメデスに向かって攻撃を仕掛け、イエスメデスの鉄扇と激突する。
大きな音と共に吹き飛ばされるイエスメデスだが、流石は歴戦の戦士というべ動きがで着地の衝撃を和らげ、持っている鉄扇を地面に突き刺して勢いを殺してクリスタルの壁に激突するのを防ぐ。
『コレデ地上ハ安心デスネ・・・ソシテサッキカラ煩イノデスヨ微々タルダメージシカ与エラレナイ存在ガ!』
ヴィゼイアスの明確な苛立ちと共に空中で攻撃を仕掛けていたゼータに殺意の矛先が向けられる。
ゼータ程度の攻撃ではヴィゼイアスには致命傷を与える事は出来ない。しかし微々たるダメージでも蓄積されれば厄介なのだ。
人間が裁縫針を足や腕に刺された程度では死なないのと同じで、死にはしないが裁縫針程度でも数回刺されれば痛いのに変わりはないのだから。
『くそっ!?まずいゼータが!』
『これは好都合ですね・・・』
蟻型の機械侵食者を討伐し終えたイクサが、ゼータの援護に飛び立つのを見送りながらアリスはクリスタルの羽を羽ばたかせてヴィゼイアスに接近し・・・ヴィゼイアス下半身、クリスタルの木の根に攻撃する。
案の定ヴィゼイアスの身体を支えているクリスタルの木の根を破壊するとどうなるのか?
当然アリスの能力によって侵食結晶で構成されたクリスタルの木の根は砕け散る。
しかし巨木の無数に伸びる木の根の一本を斬り倒したからといってその巨木が倒れる事がないのと同じように、ヴィゼイアスもまた自身を支えるクリスタルの木の根が一本砕け散った程度では倒れる事はない。
『流石に一本破壊した程度では崩れないですね』
ヴィゼイアスの木の根を破壊したアリスはすかさず残りのクリスタルの木の根を破壊する為に動き、もう3つのクリスタル木の根を破壊する。
その影響でクリスタル木の根に囚われていたZの適合者が数名解放されるが・・・どのZの適合者も息をしていない。
しかしながらアリスにはZの適合者が生きていようがいまいが関係ないようで、Zの適合者の事を気にも止めずに再び攻撃仕掛ける。
『同族ノ生死モ確認セズニ再ビ攻撃トハ・・・ドウヤラ無駄ナヨウデスネ』
『何を言っているのです?私の目的は貴女の殲滅、それ以外にありえません。
それにどれ程の屍を築き上げようが、血の川を作り上げようが関係ないのですよ』
そういい終えるとアリスはクリスタルの羽を羽ばたかせてヴィゼイアスから生えているクリスタルの木の根の中で、最も太いクリスタルの木の根を破壊しようと近づくが、ヴィゼイアスもただ破壊されるのを見ているだけはない。
木の根が新しい根を張るようにヴィゼイアス自身もクリスタル木の根を新たに精製して、アリスの行く手を遮る。
ヴィゼイアス自身も相当数の侵食細胞を消費している筈なのだが、未だに疲れている気配も感じられない。
何か秘密があるのかも知れないと思い攻撃していたゼータだが、流石にヴィゼイアスもキレたようでゼータに向かって先ほど周りに散らばるクリスタルを動かしたようにアリスに向かって飛んで行く。
速度はそれほど速くないのでゼータのスピードでかわす事は可能だ・・・だがしかしいくら遅いと言っても進行方向から迫ってくるクリスタルをかわすのは少しきついものだ。
挟み撃ちにされるようにアリスに迫るクリスタル。
アリスもクリスタルを撃ち抜くがヴィゼイアスも一筋縄ではない。1つのクリスタル対して数個のクリスタルで盾を作り上げアリスの弾丸を防ぎ進んでくるクリスタルに、複数のクリスタルは狙いを定めさせないようにランダムに移動するクリスタルも存在し、なかなか撃ち落とせない。
そしてついに・・・ゼータは決意する。
自身のZの侵食細胞を使いきる事を・・・
『銃滅する・・・四重爆炎奏』
盾を形成したクリスタルをかわすとゼータは両腕に持っている銃を合わせ、侵食細胞を活性させ4つの銃を作り出した。
1つ1つがガトリングに変化し、それぞれが回転して無数の弾丸を発砲する。
まさにそれは弾丸の雨であり、ゼータを追いかけていたクリスタルを撃ち落とす。
『まだまだ!』
しかしゼータはそれだけではない、クリスタルを撃ち落とした後で更にヴィゼイアスに向かって砲撃を開始してダメージを与える。
しかしながらその攻撃を予知していたヴィゼイアスは自身の中心、機械侵食隕石を守る為にクリスタルの装甲を厚くする。
『イクサ様!』
ゼータが声を張り上げてイクサに告げる。
自分はもう弾丸を撃ち尽くしてしまった。最早自分にはヴィゼイアスを攻撃する手段がないと。
それを聞き入れたイクサは急遽ゼータの援護に回らずにヴィゼイアスに向かって攻撃を仕掛け、ヴィゼイアスの機械侵食隕石の装甲にイクサの槍が激突する。
けたたましい音を響かせてイクサの槍が弾かれる。
『やはり硬い・・・』
『当然デス』
槍を弾かれたイクサが苦い顔したことにヴィゼイアスが笑ったような声で答える。
クリスタルで出来た身体の何処から声が出ているのかは不明だが・・・
『イクサ!こいつは私に任せてヴィゼイアスを倒してください』
『イエスメデス・・・』
ヴィゼイアスの作り上げた三つ首のクリスタルの狼と戦闘をしているイエスメデスが吠える。
イクサ、ゼータ達が戦っているなかで、アリスもヴィゼイアスのクリスタルの木の根を破壊しようとしているが予想以上に細く、細かく張り巡らせられた木の根を破壊するのが不可能だと理解するとアリスもヴィゼイアスの心臓部・・・機械侵食隕石に向かって飛んで行く。
(まずいですね・・・このままでは)
イエスメデスは自身の首もと・・・ペンダントに手をかけそうになるのを抑える。
鉄扇で狼からの攻撃を防いでいるイエスメデスだが所々から出血してしまっている。イエスメデスは基本的に戦闘向きではないので仕方ないが、それでも偽りの名として長い間戦闘をしている。
並大抵の機械侵食者なら倒すのは容易なのだが、今イエスメデスが戦っているクリスタルの狼は三つ首だ。
つまり一度に同時に三回攻撃が可能なのだ。
戦士として訓練された者であっても一度に3人同時の相手をしろと言われれば苦戦を強いられるのは当然だからである。
『イエスメデス!』
自身の弾丸を撃ち尽くしたゼータがイエスメデスの援護の為に駆けつけ、近くに落ちてあるクリスタルを狼に向かって投擲する。
狼にダメージはないが意識がそちらに動かせた事に気がついたイエスメデスが狼に向かって一撃!
そしてすかさずに追撃を喰らわせて三つ首の狼を討ち滅ぼす。
『ありがとうございますゼータ』
『お礼はまた後で、問題は山積みなのですから』
『そうですね・・・しかし私にはあのヴィゼイアスを攻撃できないですよ。貴女も残りの侵食細胞は残りの僅かなのでしょう』
『そうですね・・・ですが戦えないわけではないですよ』
『そうですね・・・もうひと踏ん張りですね』
自身の機械侵食隕石が狙われた事でその注意を、アリスからイクサに移してしまったヴィゼイアス。
その事を待っていたと言わんばかりにアリスが不意討ちを仕掛け、ヴィゼイアスの肋骨当たりにアリスのガントレットがぶつかり合う。
その衝撃がヴィゼイアスを駆け巡り、ヴィゼイアスの肋骨を構成するクリスタルの骨の一部が砕け散る。
本来であればアリスの能力によってヴィゼイアスを構成するクリスタルが全て砕け散る筈なのだが・・・ヴィゼイアスもアリスの事を警戒していたのか既に手を打っていたようだ。
アリスの侵食能力によって人間サイズの機械侵食者であればものの数秒で死滅させる事が可能だが、ヴィゼイアスのようなビルより巨大な生物を死滅させる事は時間がかかる。
それを理解していたのか、それとも直感によって導いたのかは不明だがヴィゼイアスは咄嗟に自身を構成する肋骨の一部を破壊し、アリスの攻撃を防いだのだ。
『このまま全ての破壊してしまいましょうか?』
『フザケタ事ヲ・・・』
ヴィゼイアスは砕け落ちた肋骨を見ながらこのままでは危険だと判断し、奥の手を使う事を決意する・・・
『失堕・結晶災害!』
ヴィゼイアスが自身の両腕を高らかに掲げ降りおろす。
その行動を目撃していたイクサだが、止める事は出来ずに見ているだけでしかなかった。
災害を人間が防ぐ事が出来ないように、ヴィゼイアスのこの一撃もまた人間では防ぐことは出来ない。それが例え人智を越えた力を持っている偽りの名であっても止める事は出来ないのだ。
豪音と共に衝撃が周りに伝わり、地面にそしてクリスタルのドーム全体に伝わる。
『こ・・・これは』
『衝撃で動けな・・・』
ヴィゼイアスの発生させた合成能力・・・『失堕・結晶災害!』はヴィゼイアスの作り出したクリスタルのドームとの連動技だ。
地面に降り下ろした両腕の衝撃と周りを囲むクリスタルのドームの共鳴によって、周囲の生物の身動きを封じる無差別攻撃技でありクリスタルのドームに入っている生物は数時間の間身動きをとれない。
個体差もあるが人間の大人であれば24時間程度ですむが、それ以下の体格の持ち主であればそれ以上の時間、もしくは衝撃によって死んでしまうかもしれない技だ。
人間の人智を越えた存在であるイクサ、アリスも例外でなくヴィゼイアスの『失堕・結晶災害!』によって地面に叩きつけられてしまう。
地面に叩きつけられたアリスが目にしたのはヴィゼイアスの降り下ろされた拳を再びあげる姿であり、アリス、イクサに向かって再び降り下ろそうと狙いを定める。
一撃必殺・・・その言葉通りに降り下ろされる拳はまさに迫り来る死そのもので、身動きを封じられてしまったアリス、イクサとっては避けきる事が出来ない攻撃だ。
『くそ・・・私が・・・この私がこのまま殺されてしまうのか』
『何か手は・・・』
『何モナイ。全テコノ場デ終劇ナノダ』
そしてその言葉通りにヴィゼイアスの拳が降り下ろされ、アリスとイクサに直撃する筈であった・・・ヴィゼイアスが降り下ろそうとした拳は突如として横から飛び出てきた鉄扇によって弾かれ、鉄扇に繋がっていた鎖によって引き寄せられ攻撃を外す。
そして一発の弾丸がヴィゼイアスの機械侵食隕石の装甲に直撃する。
しかしその弾丸は装甲によって阻まれ、ヴィゼイアスの機械侵食隕石までには到達してはいない。
『イクサ様!アリス!』
ヴィゼイアスの機械侵食隕石に向けて発砲したのはゼータであり、そしてアリスに声をかけた理由はただ一つ。その声に動けない身体に鞭を打ちイクサ、アリスは動き出す。
その事に反応したヴィゼイアスだが時既に遅く、アリスがゼータの放った弾丸に向かって拳を打ち込む。
ベキベキと音を立ててめり込んで逝く弾丸にはアリスは自身の侵食細胞を付与させ、更に深く潜り込むが・・・まだヴィゼイアスの機械侵食隕石までは届かない。
アリス自身の力ではこれ以上深く入り込む事はないと確信して安堵したヴィゼイアスだが・・・アリスの攻撃に追撃するようにイクサの槍がピンポイントに弾丸に打ち込まれる。
そしてアリスの侵食細胞が付与された弾丸がヴィゼイアスの機械侵食隕石に到達する。
『キ、貴様ラ・・・』
弾丸を打ち込まれたヴィゼイアスが苦しそうに声をあげ、ヴィゼイアスを構成するクリスタルがボロボロと朽ち果てたように崩れ落ち始める。
まるで氷山のように崩れ落ちる身体を庇いながらヴィゼイアスは攻撃を続けようとするが・・・最早全て遅く降り下ろそうとした拳は地面に落ち、身体を支える木の根も崩壊する。
『これで・・・終わりです』
アリスの降り下ろされた一撃により剥き出しとなった機械侵食隕石が崩れさり、ヴィゼイアスという存在がこの世から消えてなくなってしまい、ただの瓦礫がその場に散らばるだけであった。




