真実(トゥルー)の名(ネーム)と偽(コード)りの名(ネーム)
クリスタルの蝶の羽を生やした妖精のような雰囲気を漂わせている少女が自身の名を告げる。
ゆっくりとオメガ達に進んで行くアリスだが、敵意は感じられない。寧ろ友達の家にでも行くようにゆっくりと、直実に歩いていく。
その行動に一番先には気がついたのはアリスの回りを囲んでいた帝の軍勢である。
アリスはゆっくりと自身のクリスタルの羽を羽ばたかせ周りにクリスタルの粉が飛び散る・・・蝶の羽付着している鱗粉という物なのだろうが、クリスタルの輝きを放つ鱗粉という物は何とも幻想的で、舞い散る粉雪のように美しい。
此処が戦場であってもだ・・・
『美しい・・・』
一人の帝の軍勢が呟く。
その言葉は真命の名A アリスを体現する言葉と言っても過言ではない。
たとえアリスが人外だとしてもだ。
いや・・・人外であるからこそ人間という概念を越えて人々を魅了するのかもしれない。
偽りの名Y イエスメデスが皆から慕われ、人気があるようにアリスもまたそうなのであろう。
誰もが幻想的で夢物語ような光景にみとれていると地面に何かが激突する音が聞こえてくる。
音の発信源はアリスを囲んでいる帝の軍勢からではなくアリスの目線の先・・・偽りの名O オメガが大斧で地面を叩きつけた音だ。
その音で正気に戻った帝の軍勢は一斉にアリスに向かって銃を構える。
『止まれ・・・』
オメガのドスの効いた声でアリスを止める。
しかしアリスは不思議そうに小首を傾げオメガを見つめる。
本当に不思議そうに何故止められたのかわからないといっているように。
『不思議そうな顔だな・・・時間がないから手短に話すぞ。
俺たちはお前を信用出来ない。
第一、真命の名A アリスなど聞いた事がない。
お前は俺たちと同じ偽りの名なのかそれとも神化の名なのか・・・そもそも貴様は姫子なのか?』
『質問が多いですね・・・』
『別に答えたくないのなら答えなくてもいいただ・・・』
少し怠そうに答えたアリスに対してパルパトが弧爪で警戒している。
オメガも大斧を構え、帝の軍勢もライフル銃を構える。
『私の名前は真命の名A アリス。それ以外でもそれ以上でもありません
かつては偽りの名A アリスと名乗っていました。覚えてませんか?』
『偽りの名A アリス・・・そんな名前の偽りの名は聞いた事がないな・・・パルパトお前は?』
『聞いた事ない』
アリスの名乗った旧名は偽りの名A アリス。
オメガ達と同じ偽りの名だと告げているが・・・オメガ達はその何を聞いた事がない。
周りの帝の軍勢も知っている雰囲気ではないらしい。
オメガ達が知らないだけなのかもしれないが、アリスが嘘を言っている可能性もある。
しかしアリスの次の言葉によってオメガは息をのむ・・・
『オメガにとってはこちらの方がいいのかもしれませんね・・・覚えていませんかオメガ様。私は・・・少し前までは夢見姫子と名乗っていたのですよ』
『姫子だと・・・本当にお前は姫子なのか?』
『えぇ・・・もちろんです。オメガ様を慕っており、パルパト様を恋敵にしていた姫子ですよ』
衝撃の事実にオメガが答えられずにいるとパルパトが問いかける。
内容はもしこのアリスと言っている少女が姫子であるというのならば証拠をだしてほしいというものだ。
突然目の前に見ず知らずの人物が現れ、私は貴方の知人ですと言われても納得出来ないのが常識だ。
確かにアリスには姫子の面影があるが・・・姫子の背中にはクリスタルの蝶の羽等は生えていないのだから。
それにアリスの背中生えている羽はオメガと戦っていた姫子の持っている刃と同じ輝きを放っている。
同じ武器を持っているからと言って同じ人物だと仮定するのは安易だとは思うが・・・侵食細胞は人各々であり同じような者は存在しないとされていた。
なかには似ている侵食細胞も存在するが・・・
『・・・貴女が姫子というのならその証拠をみせてくれるかしら』
パルパトの問いかけにアリスは素直に、そして自分が姫子である証拠を話始める。
オメガの知らなかった姫子とパルパトの秘密の会話内容や、オメガと姫子しか知らない内容そしてしまいには姫子のスリーサイズや、姫子が好んで身につけていた下着の柄等を赤裸々に告白する。
終始オメガが興味深そうに熱心に姫子の言葉を聞いていたが、とりあえずパルパトはその事を置いておいて話を進める。
『確かに貴女の言っている事は姫子その物・・・だけど一つ聞かせてほしい』
『何でしょうか?』
パルパトは息を吸い込み呼吸を整える。
何故なら次に話す内容は最も重要であるからだ。
はっきり言って姫子のスリーサイズや姫子の好みの下着の柄等はどうでもよいのだ。
『貴女は私たちの敵なの?それとも味方なの?
・・・返答の次第によっては先にほどの貴女と同じように戦うだけだけど』
パルパトが弧爪を動かす。
その真意は何時でも攻撃できるということの証明であり、不自然な動きをした場合直ぐ様に拘束する為だ。
自身が攻撃、拘束されると分かっているのにも関わらずにアリスはゆっくりと、そしてその鈴が鳴るような可憐な声で答える・・・『私は貴女方の敵ですよ』っと。
その瞬間パルパトが弧爪を使って姫子を拘束するように動かす。
銀色に輝く糸はアリスの周りを包囲し、それは銀色に輝く糸の蜘蛛の巣のようであり立体的でアリスを拘束しようと動くが、アリスがパルパトの弧爪に触れた瞬間・・・砕け散った。
『なっ!?』
砕け散った弧爪が周りに散らばるなかでオメガはいち早く行動を開始し、アリスに向かって大斧での攻撃するが・・・軽やかにそして優雅に姫子は回避する。
その動きはまるでダンスホールで可憐に踊るような動きだ。
(動きを読まれた?)
大斧が地面にぶつかり砂埃を巻き上げる。
オメガとアリスの視線が交差する。オメガは顔に仮面を着けているのでその素顔を確認することは出来ないが、アリスのその瞳は濁った水晶のようにオメガを見つめる。
その瞳は何を語るのか・・・オメガは知るよしもない。
そしてアリスの手が触れた瞬間またしても砕け散る。
『あいつを撃て!』
オメガの怒号と共にライフル銃を構えた帝の軍勢が一斉に射撃を開始する。
アリスを取り囲むように囲んでいた帝の軍勢からの一斉射撃は、アリスの死角からやアリスの背中から四方八方から射撃されるが・・・アリスがクリスタルの羽を羽ばたかせる。
そう・・・ただクリスタルの羽を羽ばたかせただけである。
しかし・・・帝の軍勢の放ったライフル銃はアリスに当たる事はなく、弾丸が地面に音をたてて落下していく。
『な、我々の攻撃が!?』
『何がどうなっているの!?』
『くそ!もう一発だ!』
自分たちの放った弾丸が落下していくのを目の当たりにした帝の軍勢は半分混乱、半分畏怖の感情を宿したのかどの帝の軍勢もライフル銃を乱射するが・・・やはり先ほどと同じようにアリスに命中する事はなく地面に落ちてゆく。
その光景を見ていたオメガは突貫攻撃を開始する。
通常であれば自身の持っている大斧で攻撃するはずなのだが・・・今オメガの大斧は砕け散ったしまったので隣にいた帝の軍勢のライフル銃を奪っての銃剣突撃だ。
銃剣の剣先がアリスに直撃するより早く、アリスが先に行動を開始し攻撃をかわしオメガの持っているライフル銃を破壊する。
(なっ・・・俺の速さについて来れるのか!?
それに・・・動きが読まれているのか?)
距離をとり後方へと移動するオメガだが、アリスはその場から動こうとはせずにゆっくりと周りを見渡す。
『オメガ・・・あいつは強い』
『確かに、だけどあいつの能力はなんだ?俺の大斧やお前の弧爪を一瞬で破壊するなんて出来るのか』
『わからない・・・それよりもオメガそのライフル銃』
『あぁ・・・大斧が壊された状況で大鎌で攻撃がするのは気が引けてな、しかし帝の軍勢のライフル銃でもこの有り様さ』
オメガと合流したパルパトが不思議そうにオメガの持っているライフル銃を見つめる。
そしてオメガの銃剣突撃の合間にアリスを囲んでいた帝の軍勢がパルパトの前に整列して、ライフル銃を構える。
アリスに自分たちのライフル銃が効かないことは理解しているだろうがそこは帝の軍勢も軍人である、少しでも相手にダメージを負わせる為に、少しでも相手の情報を読み取る為に、今ここにいる帝の軍勢全員はオメガとパルパトに命を捧げるつもりだ。
この国に隕石が落下し、機械侵食者が侵食を開始した最中・・・この地に絶対なる個が君臨したのをこの国の人間で知らない者はいない。
偽りの名・・・個として存在するにも関わらずに一国の軍隊に匹敵するだけの力を持ち、そして各々がこの世界ではありえない硬度を持つ鎧や、鋭さを持つ武器等を扱う存在だ。
それだけではなく偽りの名の中には鳥の翼を持った者や蝶の翼を持った者、ありえない程の大きさの鎧を生成しそして自らの体格さえも変える事が出来る者等も存在する。
そして帝の軍勢がいくら束になろうとも倒すことなど不可能・・・その偽りの名が警戒するのだ自らの命を投げ打ってでもしない限り助かる見込みなどあり得ないだろう。
無論帝の軍勢に属する面々が死にたがりではない・・・少しでも生存率を上げる為に、少しでも己の仲間達が助かるように、少しでも一般人に被害が及ばない様にする為だ。
『オメガ様どうしますか・・・』
整列した帝の軍勢のリーダーが口を開き指示を仰ぐ。
明らかにオメガより年上だろうが能力差が圧倒的なので指示を仰いだのであろう。オメガはリーダーにアリスが動き次第に何時でも攻撃できるように促す。
その理由はアリスが何故、パルパトの弧爪やオメガの大斧を破壊しただけでなく、帝の軍勢の弾丸やライフル銃も砕いたのかその理由を知る為だ。
『それでは行きますよ』
そう言うとアリスはゆっくりと動きオメガ達に近づいて行くや否や、ライフル銃を構えた帝の軍勢から発砲を受けるが・・・やはり先ほどと同じでアリスに直撃する手前で地面に落下していく。
『無駄な事を・・・侵食細胞で造られた物では私を傷つけることは出来ないですよ』
絶えずライフル銃を乱射する帝の軍勢だがまるでアリスには通じない。
何か・・・見えない力が働いているのは確実だが、何の音も何の動作もなくアリスの前で落ち続けるライフル銃の弾丸は不気味で仕方なかった。
そしてアリスと帝の軍勢との距離が50mまで近づくか近づかないかあたりで、弾丸が尽きた帝の軍勢がライフル銃を放り投げ近接戦闘をする為に刀を抜きアリスに斬りかかる。
一度に一気に斬りかかるのではなく全員が少しずつタイミングをずらした攻撃だ。
しかし・・・アリスはその攻撃全てを見切ったように動きでかわし、そして帝の軍勢の刀に触れるとやはりというべきなのだろう、刀が砕け散る。
『全部砕かれただと・・・』
アリスに攻撃をした帝の軍勢全員の刀がアリスに触れた瞬間に砕け散り、攻撃手段を失ってしまう。
『全員離れろ!』
オメガの叫びと共にアリスを囲んでいた帝の軍勢が散らばり、オメガの大鎌での攻撃がアリスに迫り来る。
大鎌での攻撃はアリスの死角からの攻撃であり狙うのはアリスの首だ。
反応出来ないと確信したオメガの攻撃だが・・・アリスの視線が動く。
それはオメガの死角からの攻撃に反応し、オメガの大鎌を掴もうと動く。
(予定通り・・・)
オメガの思惑通りにアリスがオメガの大鎌を掴もうと行動する。
先ほどの行動でだいたいアリスの行動はつかめている。アリスは先に敵対してきた人物を攻撃するよりも早く持っている武器を攻撃する傾向にある。
攻撃とはいってもその武器を触る程度だが・・・
『これなら避けれない』
先ほどまでオメガの後ろにいたパルパトが自身の翼を使ってアリスの背後にまわり、後ろから奇襲を仕掛ける算段だ。
パルパトの再生した弧爪で絞め殺す為に銀色の糸を動かすが・・・アリスに当たる直前、急に遅くなるのをパルパトは感じる。
まるで水の中に入ったような感覚を味わったパルパトだが、思考まで鈍った訳ではない。
急に動きが鈍ったことに困惑したが、何故そのようになったのかを周りを確信する。今は戦闘状態なので詳しく調べることは出来ないが、ある程度はできる。
(なに・・・あの輝いているのは?)
パルパトはアリスの周りに揺らめく輝きを目にする。
目を凝らさなければ見ることが出来ないような微々たるものであり、戦闘をしている現状では気がつかないものだ。
『パルパト!!』
オメガの叫び声と共にパルパトは目を見開く。けして目を瞑っていたわけでは無いのだがアリスの周りを煌めく物が何なのか少し考えていた為に反応が遅れたのだ。
そして既に反応したが避けることが不可能な距離まで詰められていた。
しかしパルパトの偽りの名の端くれである。回避出来ないとしても何かしらの手を打つことは可能だ。
『それは無意味というものですよ』
パルパトがアリスの攻撃に対して翼で防ごうと自分の体の前に重ねるが・・・アリスはそのパルパトの翼さえも砕き、その鋭利な鍵爪をしたクリスタルのガントレットがパルパトの腹部に突き刺さる。
まるで薄氷を砕くが如くパルパトの翼を砕き、パルパトに突き刺さった手を引き抜くアリスのガントレットにはパルパトの血がべっとりと付着している。
そして明らかにオメガは致命的だと確信する。
早く助けなければ・・・そう思ったオメガは一瞬注意をアリスからパルパトへと向けてしまった。
『よそ見ですか・・・相変わらず人命を優先するのは変わっていないのですね』
その呟きと共にアリスの魔の手がオメガに忍びよる。
パルパトと同様に回避することは不可能だと直感したオメガは迫り来るアリスの手を弾くが・・・
『やはり!?』
オメガの予想通りにオメガの腕を守っているガントレットが砕け散る。
『腕一本はくれてやる!』
ガントレットが砕け散った腕を使ってアリスを捕まえる。
そしてこの距離はオメガの大鎌の距離であり、アリスの攻撃が届かない距離だ。
『死ね!』
オメガの大鎌が降り下ろされる。
しかし残念ながら現実は非常である。
オメガの大鎌がアリスに触れ、その身に傷ついた瞬間・・・血液が吹き出したと思ったがその血液に意志があるがの如くオメガの大鎌に這いずり廻る。
それはまるで血管の如くオメガの大鎌を這いずり、オメガの全身まで染み渡る。
ほんの一瞬の出来事にオメガは何もする事が出来ない。いや、反応出来なかったのだ。
『少し傷ついてしまいましたね・・・』
アリスはパルパトと同様にオメガの腹部を突き刺す。
その瞳には何の感情もこもっていないような濁った瞳をしたままだ。




