真命(トゥルー)の名(ネーム)A アリス
機械侵食者侵食区域 第三戦闘部隊戦闘区画
『これで終わったの・・・』
『これで終わりだ』
姫子との戦闘を終えて一段落するオメガ。
しかし終わりを告げたその声は悲壮感が溢れていた。
別に特段死闘ではなかった、むしろ通常の機械侵食者との戦闘の方がきついくらいだ。
『オメガ大丈夫?』
パルパトの問いかけに無言で頷くが・・・やはり姫子をこの手で殺めてしまったからのなのか着けている仮面が泣いているように見える。
無論オメガの着けている仮面に変化はないのだが。
(何か・・・姫子を救う手立てはなかったのか)
血に濡れた大斧を目をやる。
そこには確りと姫子の血が付着している。
姫子を殺めたという言い逃れのない事実なのだと確信してしまうが、それでも考えてしまうものなのだとオメガは心の中で思う。
(あの時、ユセを倒せてさえいれば・・・あの時、姫子を早く見つけていれば・・・こんなことには)
オメガが亡き姫子に対して思いを馳せていると突如轟音が響き渡り、地面が揺れ動く。
何事かと思ったオメガだが流石は偽りの名である。
地上にいるよりも空中にいる方が安全だとすぐさま判明したオメガとパルパトは翼を拡げて空中へ飛び立つ。
『何事だよ・・・』
驚いてはいるが空中に逃げたオメガの手には大斧と大鎌を持っており、パルパトは両腕の弧爪を構えていつでも戦闘出来る体制にはいる。
『オメガあれ!?』
『地面が割れてる!?』
『違う・・・あれは』
オメガ達が見た風景・・・それは地面が引き裂かれる光景である。
それも少し引き裂かれる程度ではない・・・大地そのものが動いていると錯覚するほど異常に引き裂かれているのだ。
しかもその大地の移動は未だに継続している。
ほんの少しの間・・・数秒程度の時間の間に地面は引き裂かれ 、其処には異常な光景が広がる。
巨大なクリスタルの化け物・・・ヴィゼイアス・ヴォナルガンドを中心に円形状に地面が引き裂かれたのだ。
そして何事かと呆気にとられている瞬間・・・引き裂かれた地面の奥底から超巨大なクリスタルの結晶が飛び出てきたのだ。
『なっ!?なんだ・・・何がどうなっているんだ!?』
『嫌な予感がする・・・』
引き裂かれた大地から飛び出てきたクリスタルの結晶はまるで壁のようになるだけでなく、その壁の中心に向かって更にクリスタルの結晶が飛び出した。
それはさながらクリスタルの結晶に覆われたドームであり、その中心にいるヴィゼイアスを覆い隠す程巨大なものが出来上がる。
『嘘・・・だろ』
『・・・あの化け物がやったの?』
『わからなねぇ・・・いったい何がどうなっているんだ』
突如としてオメガ達の目の前に現れたクリスタルのドーム。
そのクリスタルの輝きはあのクリスタルの化け物・・・ヴィゼイアス・ヴォナルガンドと同じ輝きを灯していて、美しいがなんとも異常な雰囲気だ。
これほど大きなクリスタルの結晶なのだ、どれ程の力を持っていれはこのような事が想像が出来ない。
人間より強力な身体能力を持っているオメガ達、偽りの名でも超象を起こす事など不可能。
しかし目の前に広がる光景は正に超象であり、自然に出来たとは到底思えない・・・地面が引き裂かれるだけならまだ理解できるかも知れない。
しかし・・・地面が円形のように引き裂かれるなどあり得るのか?
そして引き裂かれた地面の奥底からクリスタルの壁が飛び出すだけでなく、そのクリスタルが中心に集まりドームを形式するのだ。
自然に出来たなどとあるわけがない・・・明らかい誰かが人工的に作り出したと思った方が納得がいく。
『オメガ、帝の軍勢が』
パルパトの指摘した先には何事かと集まりだした帝の軍勢がクリスタルの結晶に向かって近づいていく。
あるものは慎重に、またあるものは警戒しているのか武器を構えながらではあるが。
『パルパトもしかしてあのクリスタルのドームの中には』
『イクサ様達がいる・・・そしてあのクリスタルの化け物も』
『まさか・・・イクサ達を倒すためにこのクリスタルのドームを作り上げたというのか?』
『多分そう・・・だってイクサ様達はあのクリスタルの化け物と戦う為にこの場所に来た、だけどイクサには私達と同じように翼を持っている。深手を負っていない限り翼を使って撤退する事が可能、それにイクサ様は私と違って加速がずば抜けてる』
『なるほど・・・つまりこのクリスタルのドームはあのクリスタルの化け物が作り出したと過程した方がいいな』
パルパトがその通りだと頷く。
どうすればよいものかオメガが考えていると、下から金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。
既にヴィゼイアスによって召喚された機械侵食者は倒されているので戦闘はないと思われていたが、やはり機械侵食者との戦闘ではなく、何事かと集まった帝の軍勢の内の数名がクリスタルのドームに向かって武器を降り下ろしている音であった。
『くそっ!?何て固さだ』
『何なんだよいったい!?』
このクリスタルのドームの固さがかなりのものなのであろう、帝の軍勢が持っている銃や刀が弾かれる音が響き渡る。
どうにも帝の軍勢程度の武器ではこのクリスタルのドームには傷つけるのは不可能なようだ。
『どうするのオメガ・・・帝の軍勢の援護するの?』
『いや、少し様子をみ・・・』
オメガとパルパトが話し合いを始めた直後・・・瓦礫が吹き飛ぶ。
何事かと瓦礫が吹き飛んだ場所を探すオメガとパルパト、そしてクリスタルのドームに攻撃していたのを止めて振り向く帝の軍勢に映るのはクリスタルの塊であった。
『なんだあれは!?』
『敵か?』
『全員武器を構えろ!即座に応戦するように陣形を組め』
リーダーらしき人物が指揮をとりクリスタルのドームに攻撃していた帝の軍勢が陣形を組見直す。
ライフル銃を上段と中段で構えているでも撃てるような陣形だ。
『オメガ!あの場所って・・・』
『姫子が居た場所だ・・・まさかあの一撃を受けて生きていたのか?』
『倒し損ねたの?』
『いや・・・待て・・・何か・・・おかしい?』
オメガは少し考え込む・・・何故なら姫子を斬り倒した感触は残っていたのだから。
(何故だ・・・俺は確実に殺したはずだ。それにもし生きていたのなら何故あんなに派手に出てくるんだ?
殺していないとしても深手は負っているのは確実・・・普通なら息を潜めて周りから人気がなくなるのを待つはずだ。
しかし何故あんな派手に登場したんだ?)
オメガが異常な登場をしたクリスタルが姫子と仮定するがどうにも腑に落ちない。
パルパトは武器を構えて何時でも攻撃できる体制になる。
当然である。
突然瓦礫を吹き飛ばしクリスタルの塊が出てきたのだから。
ミシリ・・・っと音が聞こえてくる。
今は安定しているが此処は戦場、音というのは非常に重要でありその音を頼りに敵を見つけることもある。
しかし・・・今聞こえてきた音は今までに聞いた事がない音だ。
戦場ではありえない何かが割れる音・・・それも何か硬質な物が徐々にゆっくりと割れる音だ。
『割れている!?』
その音の発信源にいち早く気がついたらのはライフル銃を構えていた帝の軍勢である。
音の発信源が一番近くにいたというのもあるのだが・・・音の正体が帝の軍勢の目の前にあったのも原因だ。
『何か生まれるのか・・・』
『冗談ですわよね・・・』
ベキリ・・・という音と共にクリスタルの塊の皹割れ崩れ落ちた破片が地面に落ちる。
このクリスタルの塊を何かに例えるなら卵から羽化する雛鳥と言うべきであろう。
ベキッ・・・バキッと立て続けに音が聞こえ、クリスタルの塊がボロボロと剥がれ落ちる。
『パルパト行くぞ』
『了解』
異常事態だと判断したオメガはパルパトと共に地上に降りる。
オメガとパルパトは地上に降りるとライフル銃を構える帝の軍勢の前に出る。
突然目の前に現れた仮面と翼を持っている人物に発泡しそうになる帝の軍勢を、他の帝の軍勢が抑制する。
通常であれば目の前に仮面を着けて悪魔のような翼を生やし、右手に身長程の大きさのある大斧、左手にも身長以上の大きさのある大鎌を持っている人物が現れれば警戒もするであろう。
それにその悪魔の翼を生やした人物の隣に、天使とも思えるような人物がいるのでればなおさらだ。
何故天使とも思えるような人物がメイド服なのかは疑問だが・・・
『オメガ様、パルパト様あのクリスタルの塊はいったい・・・』
リーダーらしき人物がオメガに問いかけるが、オメガ自身もあのクリスタルの塊について明確な答えをもっていない。
オメガはリーダーに何時でも撃てるように命令し、帝の軍勢がクリスタルの塊を囲む。
先ほどの上段と中段で構えて撃つ方法はターゲットに対して集中砲火できる代わりに、その構えている場所に密集してしまう。密集しているということはそこに一撃喰らわせられた場合、その密集している帝の軍勢が一気に倒されてしまうリスクがある。
しかしオメガ、パルパトという個で軍隊と渡り合える存在がいれば話は別だ。
少しでも帝の軍勢の生存率を上げるだけでなく、逃げようとする人物に対して円形に囲めば逃げ場をなくす事が出来るし、もし攻撃してきた場合ターゲットを絞らせないのも目的の一つだ。
何時でも攻撃できる手段が整って数分後・・・一際大きくクリスタルの塊が皹割れる音が聞こえ、そのクリスタルの塊の中身が露になる。
『なんだあれは・・・』
『妖精なのか!?』
『凄く綺麗・・・』
クリスタルの塊の中から出てきたのは翼を背中に生やし、長く艶やかな黒髪の少女である。
身に纏う衣装は黒を基調としたセーラー服に黒のタイツ、そしてその両手には淡い輝きを放つクリスタルのガントレットと両足にも同じ輝きを放つロングブーツを装備している。
本来ガントレットとは腕を守る為にある物だが、この少女のガントレットは腕を守る為とは違い逆にまるで芸術品のように美しい。
守るのに適していない程の微細な彫刻が施され鳥の翼のような装飾に、蛇の絡まった模様、そして血管のように数多の鎖がガントレットに装飾された鳥の翼を、蛇を締め付けている様に描かれている。
両足のロングブーツも両腕のような装飾だが、ロングブーツの方は踵の方に鳥の翼が施されている。
そして最も目を引くのはその少女の背中から生えている翼である。
蝶の羽を思わせるような、日に照らされれば透ける蝶の羽はその全てが少女のガントレットと、ロングブーツと同じ輝きを放つクリスタルで作られている。
少女の全身を覆い隠す程のクリスタルの蝶の羽は触れれは壊れてしまう程に微細だが・・・どうやらそんな事はないようだ。
『ふぅ・・・これがAの・・・私の本来の力』
それは鈴が鳴るような綺麗な声であった。聴く者の耳に心地よく何時までも聞いていても飽きないような、そんな声の少女は深呼吸をして自身の背中から生えている羽を動かす。
その姿は優雅でり、可憐であり、そして不気味であった。
『うん、大丈夫。しっかりやれるよ・・・そうだね。
私本来の力と貴女の力なんだよね』
少女は眠っていたのだろうか?数度瞬きを繰り返した後で背伸び、ストレッチをした後真っ直ぐにオメガ達を見据える。
いや・・・正確にはオメガ達ではなくオメガの後ろにある物体、クリスタルのドームを見つめているのだ。
それを肯定するように少女の瞳にはオメガ達は写ってはいない。
『誰だお前は・・・』
オメガは少女に問いかけるがと同時に武器を構える。
それを合図とばかりにパルパト、周囲を囲んでいた帝の軍勢も武器を構える。何時でも攻撃出来るようにする為だ。
『あぁ・・・オメガですか。
懐かし・・・いや・・・懐かしいと言うには少し変ですね』
『お前は何者かって聞いているんだよ!?』
オメガが怒鳴るようにして武器を構え、気迫の籠った声で怒鳴るが・・・怒鳴られた少女はまるで気にしていないのか、『やれやれ』と言っているように仕草をする。
『私の名前はアリス。真命の名A アリス』
少女・・・真命の名A アリスはゆっくりと翼を動かし彼女を包んでいたクリスタルの塊から出てくる。
優雅に、可憐に、そして不気味にゆっくりとオメガ達に向かって歩き始める。




