侵食ト原罪ノ夢
機械侵食者侵食区域 第三戦闘部隊戦闘区画
『こ、ここは?』
目が覚めた姫子は不可思議な空間にいた。
その部屋は全面が真っ白で染め上げられており、壁には窓等は無く家具やベッド等も何もない。
ただ真っ白な空間がそこには広がっていた。
その空間には窓が無く照明らしき物も見当たらず光源らしき物もない。
通常であれば真っ白な空間であっても光源がないのであれば何も見えない。真っ暗な筈だ。
しかしその空間は真っ白であったその理由は・・・部屋の中央部分にある物が原因だのであろう。
『あれは・・・人形?』
姫子が見据える先にいたのは人形のような物がある。
この真っ白な空間が真っ暗でないのはこの人形があるからなのであろう、その人形の膝から下がクリスタルの結晶のようになっていて、地面に触れている箇所から花の様になっている。
そのクリスタルの花が淡い輝きを放ち、真っ白な空間を照らしている。
そしてその淡い輝きを放つ花を姫子は数回目にした事がある。
『膝から下が蓮の花になっているの?』
姫子が言葉にした様に膝から下は蓮の花のようになっていて、クリスタルの結晶によって作られた蓮の花は見事な美しさだ。
美術館にでも飾られてるかの如く美しさを保っている蓮の花に負けじと人形も美しい。
身に纏う純白のドレスには不思議な装飾品が飾っていて人形の胸元にはきらびやかな宝石があり、その宝石の輝きは蓮の花と同じ輝きを放っている。
所々に施された刺繍には金属糸なのか光を反射し模様が描かれている。その模様はドレスの両脇に銀色の金属糸で描かれた十字架、そしてその銀色の十字架から伸びる鎖が絡まる様にして金色の金属糸で柩が描かれている。
柩を鎖で封じるように描かれたドレスだが、よく見てみると胸元にある宝石から蜘蛛の巣の様に薄い糸が延びていて柩を開けようとしているように描かれている。
なんとも不思議な装飾品を施されているドレスだが不思議なのはドレスだけではない。
姫子が言ったように人形の膝から下はクリスタルで出来た蓮の花になっているのだが、そのクリスタルの結晶で作られたのか人形の頭には美しいティアラ飾られてる。
しかしこのティアラは通常のティアラとは大きく異なっている。
まずティアラを作る上で重要である金属の骨組み、そしてその骨組みに添うようにして宝石等が嵌められているのが一般的だがこの人形の頭にあるティアラは全てクリスタルだ。
金属の骨組みもクリスタルで出来ているのだ。
『なんて美しさなの・・・それにこの人形・・・本当に人形なの?』
ドレス、そして蓮の花もさることながらそれを身に纏う人形も美しいのだ。
どんなに衣装が美しくても、どんなに宝石が素晴らしくてもその身に纏う者が美しくなければ全て意味がない。
しかしその人形は美しいのだ。
街にいるであれば10人中10人が振り向くであろう美貌の持ち主だと断言出来るほどだ。
金色に輝く髪はどのような手入れをすればこのような滑らかな輝きを放つのか、シミ一つ無いない肌はまるで赤子の様に思える。
本当に人形なのか?
疑問に思った姫子は吸い寄せられるようにして人形に歩いて行く。
この真っ白な空間が何なのか分からず、そして目の前にいる人形も何なのか分からないままだが姫子は歩く。
まるでその人形に行くのが当然の如く、必然のように。
『・・・人形じゃない!?』
人形の元までたどり着いた姫子が息を呑む。
人形だと思っていた物は人形とは思えないほど人間味が溢れておりその肌は正に人間そのもの。人形なのであれば硬いプラスチックの質感があるはずだが・・・やはりこの人物からはそんなものは感じられない。
しかしもし人形で無いのであればこの女性の膝から下はどうなっているのか?
普通の人間の膝から下がクリスタルの蓮の花になっているなど意味不明であり、普通に考えればありえない。
人体と無機物の融合などありえないのだから・・・
しかし姫子の記憶の中ではそんなありえない事を可能に出来る存在も存在する。
『偽りの名・・・この方はオメガ様と同じ存在なのでしょうか?
しかし・・・何故このような場所に?
それに何故か私はこの方を知っているような』
姫子が記憶の中で人体と無機物を融合する事が出来る存在・・・偽りの名の名を言葉にする。
確かに姫子の記憶の中に存在する偽りの名O オメガや偽りの名P パルパトは自身の中に存在する侵食細胞という能力を使用して、その身に合う鎧や服、武器等を作り出せると言われている。
実際に姫子は偽りの名ではないのでどのようにして作り出せるのかは不明だが、オメガやパルパトが何度も武装や武器を作り出しているのを見ている。
しかし膝から下がクリスタルの蓮の花になっている偽りの名など聞いた事がない。
姫子の立場では数名の偽りの名しか知らないので、この女性が姫子の知らない偽りの名だけなのかも知れない。
もしかすればこの女性はオメガ達、偽りの名ではない存在、神化の名なのかもしれない。
だが疑問がある・・・この真っ白な空間で何故この女性がいるのかだ。
もしこの女性が神化の名なのであればこの真っ白な空間はなんなのか?
何故扉も窓も家具も照明もないこの真っ白な空間で姫子と二人っきりなのか?
もしこの女性が神化の名であり姫子を殺すのであれば簡単なはずだ。
姫子が目を覚ますより早く殺せばよいのだから。
『・・・もしかして寝ているの?』
人形もとい女性の前までたどり着いた姫子だが、祈るように瞳を閉じている女性は目を覚ます気配はない。
寝ているのかと思ったが直立不動で祈るようなポーズで眠る女性がいるのかということだ。
『どうして・・・』
姫子が不思議そうにして人形もとい女性に触れると・・・女性から脈から感じられる。
つまりこの膝から下がクリスタルの蓮の花になっている女性は生きているのだ。
しかしそれだけではない・・・この女性から感じられるのは母から発せられる母性そのものだ。
姫子には母親も父親も存在しない。
気がついたら時には軍の施設に入れられそこで暮らしていた。
母のぬくもりも父からの厳しい言葉無く育てあげられたのだ・・・軍の施設なので厳しかったが。
『お母さん・・・』
姫子が祈るようにして手を組んでいる女性の手に手を重ね、姫子も祈るように手を重ねる。
二人の女性が手を重ね合わせる姿は非常に美しくまるで絵に書いたようだ。
『私は貴女のお母さんではありませんよ』
姫子が急に発せられた言葉に動揺し慌てて周りを調べる。
しかしこの真っ白な空間に変化はない。いるのは姫子とクリスタルの膝から下が蓮の花になっている女性だけだ。
『どちらを見ているのです』
再び声が発せられた姫子は声がした方向に振り向く。
そこには膝から下がクリスタルの蓮の花になっている女性がいるだけだ。
『あっ・・・あなたが私に話しかけているのですか』
『そうですよ。まぁ・・・貴女の姿を見ることは出来ないですが』
『目が見えないのですか?』
『えぇ・・・今の私にはここが何処なのか分からないです』
『この真っ白な空間も、貴女自身の姿もですか?』
『見えないですね・・・まぁ、なんとなくはわかるのですが』
女性が微笑む。
その姿は美しくまるで女神にすら思える程であり、 膝から下のクリスタルもまるで彼女を着飾る宝石のようで瞳が閉じてはいるがその姿は同性でさえ魅了する程だ。
『貴女は何者ですか?』
姫子は女神のごとき美貌を持つ女性に話しかける。
彼女は何者なのか?この真っ白な空間は何なのか知るためだ。
『私の名前はヴィゼイアス・・・偽りの名V ヴィゼイアス』
『偽りの名・・・オメガ様と同じ存在』
姫子が目の前の存在が偽りの名であると判明し姫子の心に安堵と不安が過る。
安堵はもしかすればこの女性は味方になってくれるのではないかということであり、不安はこの女性が言っていることは本当に正しいのかどうかという点だ。
『オメガ?・・・あぁ第三の聖徒の。
しかし変ですね?』
『何がですか?』
姫子は心に残る不安を心の隅に置いといてヴィゼイアスの言葉に耳を傾ける。
ヴィゼイアスの言っている変は事とは何なのか知るためだ。
『だって貴女も私たちと同じ存在・・・偽りの名ですよ?』
『なっ!?何を言っているのですか!?』
偽りの名V ヴィゼイアスと名乗る女性から告げられた言葉・・・それは姫子がオメガ達と同じ偽りの名であるという事実はあまりに現実離れしていた。
それもそのはずである。
姫子は今までにオメガ達と共に行動してきた、もし姫子が偽りの名であった場合普通であれば姫子自身も侵食細胞を使用して戦うだろう。
それにオメガもパルパトも姫子が偽りの名であると教えてくれているはずだ。
しかし姫子に教えてはくれてはいなかった。故意なのかそれともオメガ達が何も知らないだけのか?
『何を言っているのです?
貴女の名前は・・・アリス。
偽りの名A アリス。オメガ達と同じ第三の聖徒ですよ?』
姫子に言葉はない・・・あまりの衝撃で言葉を失ってしまったのだ。
この真っ白な空間になってから何もかもがおかしい・・・窓も扉も家具もない空間、膝から下がクリスタルの蓮の花になった女性、何もかもがおかしなこの状況を姫子は自分が夢の中にいるのだと確信する。
でなけばおかしいと・・・
(夢なのか・・・それにしても何て夢なのかしら)
『夢ではないですよ。
まぁ・・・夢のようなものではありますが。
現実世界の貴女は寝ていますので』
(心を読んだ・・・まさか)
『心を読んだと思っているのですね?ですが流石の私でもそのようなことは出来ませんよ』
『じゃ・・・何故?』
『ただの勘です』
『勘・・・』
勘と言うにはあまりにも的確なヴィゼイアスの指摘に言い様のない恐怖を覚える。
例え勘だとしても他人の考えている事を言い当てる事が出来るものなのかと。
『ヴィゼイアス・・・さん・・・様一つよろしいですか?』
『何でしょうか?』
『ここが夢なのであればどのようにすれば現実へと帰る手段を教えてくださいませんか?』
『・・・どうしてです?』
『私には帰るべき場所があるのです。帰りを待っている人がいるのです。
だからどうか・・・帰るすべを教えてください』
姫子はヴィゼイアスに向かって土下座をする。今この瞬間が夢だとしてもこの真っ白な空間から出れるのであればいくらでも頭を下げるつもりだ。
(何で自分の夢でこんな事をしなきゃいけないのかなぁ・・・夢なら自由に覚めてくれればいいのに)
『ふむ・・・それは出来ないですね』
『な、何故でしょうか?』
姫子は下げた頭を上げてヴィゼイアスを見つめる。
しかし最初に出会った時と何も変わらないヴィゼイアスがそこにはいた。
両手を組み祈るように瞳を閉じた膝から下がクリスタルの蓮の花の女性が、しかし・・・その身に纏う雰囲気まるで別物である。
言葉に出来ない恐怖・・・それはヴィゼイアスから溢れでるようにこの真っ白な空間を覆い隠す。
その恐怖とは正に死そのもの・・・こちらがどのような手段、方法、努力をようしても抗うことが出来ない絶対なる力だ。
姫子は震える・・・例え夢であったとしても怖い物は怖いし、抑えきれないものも存在するからだ。
言葉を発するが出来ないまま数分ともいえる時間が過ぎる・・・実際には数秒程度だが。
『それは出来ませんね』
『なっ、何故でしょうか?』
ヴィゼイアスから放たれる死の気配が遠退き震えていた姫子が言葉を発する。
夢ではあるがヴィゼイアスが並々ならぬ人物だと理解しているから姫子は困惑しているのだ。
何故出来ないのかと・・・
『その理由は貴女が自分の事を理解していないからです』
『自分の事ですか?』
『えぇ・・・そもそも私は偽りの名V ヴィゼイアスではありますが最早出涸らしのようなものです。
まぁ・・・本物の私は今凄いことになっていますが』
『じゃ・・・貴女はいったい?』
『私は貴女自身の体内に存在する侵食細胞・・・偽りの名V の力そのものです』
『私の・・・体内?』
何を言っているんだと言わんばかりに姫子はヴィゼイアスを見つめる。
これが夢だとしても意味不明であり、力そのものと言ってもヴィゼイアスは存在している。
姫子も偽りの名が使用する侵食細胞がどれも同じでないという事は知っている。しかし人間のように言葉をしゃべり、理解する侵食細胞など聞いた事がない。
無論姫子が無知なだけかも知れないが。
『まぁ・・・話せば長くなりますが』
そうしてヴィゼイアスは話始めた・・・自身の状況と姫子について。




