侵食ト再生ノV
神化の名本拠地第1階層侵食細胞研究所
ユセに弾丸を浴びせた姫子だが、急所を外しているためにユセは未だに健在ではある。しかし腹部から流れ出る血をなんとかしない限りはこのまま死亡してしまうかもしれない。
激痛に悶えながらも何とか意識を保とうとするユセに容赦のない蹴りが跳んでくる。
もちろん蹴った本人は姫子であり仮面で覆われていない口元は笑っている。
楽しいのかそれとも、自分を攻撃したユセが悶えているのが愉快だからなのかは不明だが、ユセが気絶するまで蹴りを入れた姫子の靴は赤く染まっている。
『やっと気絶してくれた・・・もう少ししたら起きるけど』
なにやら意味深な言葉を発した姫子。
普段の彼女からはあまり喋らない言葉にユセを気絶させるまで蹴り倒した行動はどれも今まで姫子ではありえない行動だ。
これが姫子の本性なのかは分からない・・・人には誰しも言えない秘密の1つや2つ有るもので、姫子はもしかしたらそっち系の趣味が有るのかもしれない。
『これで貴女も・・・』
姫子が手持ちのナイフで自分の手を斬り鮮血が倒れているユセに滴り落ちると、弾丸によって傷つけられた傷口に浸透していく。
姫子から滴り落ちた鮮血はまるで自分の意志で動いているかのような動きをしていて、通常ではありえない重力に逆らった動きも見せている。
その不気味な行動をし終えた姫子の鮮血を入れられたユセに変化が起きる。
先ほどまで空いていた腹部の傷が無くなっているのだ。
ユセの侵食細胞には再生能力をもってはいない。なのに再生したという事は・・・別の何かで再生した可能性がある。
『それよりも重要なのは私の本体をこの施設から出す事ですが・・・何処にこの施設の自爆スイッチなんてないでしょうかねぇ』
侵食細胞研究所を後にした姫子は第1階層にある情報処理室に向かっている。
姫子が何故情報処理室の場所を知っているのかと言うと、少し前にユセの個人部屋でこの施設の見取図を拝見しており、重要な部分は暗記しているからだ。
『・・・この場所なんですがねぇ。なんとも邪魔ですね』
情報処理室前にきた姫子だが情報処理室前で考え事をしていた。
その理由は一目でわかる。情報処理室前に蜥蜴型の機械侵食者が横たわっており情報処理室の扉を塞いでいるからだ。
この蜥蜴型の機械侵食者はユセの催涙スプレーによって眠らされただけなので、もしかしたらほんの少しの衝撃でも目を覚ましてしまうかもしれないからだ。
倒せば良いと考える者もいるかもしれないが、帝の軍勢である姫子の装備ではこの大型の蜥蜴型の機械侵食者を倒す為には骨のいる作業だ。
爆発系の武器で倒す事は出来るかもしれないが場所が悪い。何処の時代に重要な情報が眠っているかもしれない部屋の近くで爆発物を扱うのは愚の骨頂だ。大事な情報が壊れてしまうかもしれないのだから。
『仕方ない・・・これから忙しくなるので侵食細胞は温存したかったのですがね。
侵食細胞解放 略奪の愚者!』
姫子が右手に半透明なクリスタルの槍を精製し、蜥蜴型の機械侵食者を突き刺す。
突き刺された蜥蜴型の機械侵食者が目を覚ますと、姫子に向かって攻撃を仕掛けてくるが・・・攻撃をしようとした右前足が止まる。
まるで彫刻の用に止まってしまった蜥蜴型の機械侵食者だが、眼だけは無事なのか姫子を睨んでいる。
蜥蜴型の機械侵食者の動きを止めた物・・・それは姫子が作り出した侵食細胞の槍であり、この槍の成分によって動けなくしたのだ。
『侵食と再生の牢獄に永久に囚われていてくださいね』
そう言うと姫子は動けなくなかった蜥蜴型の機械侵食者を通り抜けて情報処理室へと入り、第3階層の資料を探していると上の階層から物音が聞こえてくる。
情報処理室の上の階層ということは機械侵食者達の狩場であり、先ほどオメガ達が居た階層だ。
本来は厚いコンクリートの天井によって音は遮断され第1階層に聞こえる事はない。しかしこの情報処理室前の廊下で蜥蜴型の機械侵食者が暴れた為に天井が崩れ、音が漏れだしているのかもしれない。
確かに天井は壊れてはいたが、目視で確認した範囲では天井に穴は空いていなかったが・・・もしかすると見えにくい箇所に隙間が空いていたかもしれない。
これは非常に不味い事で隙間が空いていたとすると、こちらの動きがわかる機械侵食者がいるかもしれないのだ。
嗅覚が鋭い機械侵食者や音で探知するタイプの機械侵食者は要注意だ。
『遠退いたようですね』
物音が聞こえなくなるまで身を潜めていた姫子は振り込み資料を探す。
あまり大きな音はたてる事は出来ないが。
第3階層扉前
『やっと開いた・・・』
『さっさとユセを見つけて姫子を取り返さないと』
『あぁ・・・彼奴は許さねぇ』
第3階層の扉をぶち破ったオメガ達は先に進んだユセを追いかける為、姫子を救出する為に第2階層へと急ぐ。
本来チームであるオメガとパルパトのペアを崩すのは痛手だが、この際は仕方のないので二手に別れての捜索になる。そもそもオメガとパルパトは近距離戦闘を得意とするオメガを主軸に、パルパトによる罠や援護、飛べる事を生かしての索敵をして機械侵食者の殲滅を行っていた。
『しらみ潰しに探すしか無いのが難点だな・・・』
『もしかすると地上に出たかも』
『それはないんじゃないか?』
『どうして?』
『彼奴は何かを探しているみたいだったからな』
『何かを探す・・・』
『もしかすると人なのかも知れないが』
『人?それはユセと同じ神化の名の仲間?』
『それまではわからねぇ・・・ただユセは俺に何で居ないのって言ったからな。
物がなくなった場合普通居ないなんて言葉使いはしないだろ?』
『確かに・・・』
オメガ達はこの神化の名本拠地の見取図を把握しているわけでは無いので、しらみ潰しにしか探せないのも痛手の1つだ。
そして最も重要なのはユセが何を探しているのかであり、それが分かれば少しは捜索の手掛かりになるのだが・・・ユセの言葉を頼りに探すとしても皆目見当もつかいないのが現状だ。
しかし残念な事に深く考え込んでいる時間はオメガ達にはない。
各々でユセと遭遇した場合対処する事に決めたオメガとパルパトは二手に分かれて捜索を開始する。
『しかし・・・俺達この階層に来るときは上の階層ぶち破って降りて来たんだよなぁ。
それにその上の機械侵食者の狩場みたいな所もぶち破って来たからなぁ・・・またぶち破った方がいいのかなぁ?』
そう言いながらオメガは足を止めて天井を見上げる。
コンクリートで覆われた天井を破壊することは偽りの名であるオメガからすれば造作もないが・・・ここ数時間ほど侵食細胞を過度に使いすぎているため温存したいところだ。
第3階層の扉を破壊する為に侵食細胞を余計に使ってしまった為に、もしこのままユセ以外の神化の名と対峙するとなると少々キツい戦いになるのは必須だ。
そもそも神化の名への奇襲作戦を始める前に化け物と化したネクロートとの戦闘が、何よりも誤算だったのだ。
あの戦闘によってオメガは自身の傷を癒す為に大量の侵食細胞を使用してしまったが為に、今は最初にネクロートと戦闘を始める時に使用した薬を使う事で侵食細胞を使用出来ている状況だ。
しかしこの薬が使用出来るのは1日に1回だけであり再使用する場合は24時間のインターバルが必要なのだ。
以前・・・この地に来る前に1日に2回使用した事がある・・・その時は侵食細胞が暴走していまい身体の一部が機械侵食者の用に機械化してしまったのだ。
実験の被験者はオメガでもパルパトでもない、偽りの名A アリスだったが。
オメガ達の使う侵食細胞も他の生物が機械侵食者化するのも同じ原理ではあるが、オメガ達 偽りの名は侵食細胞に適合した人類であり、機械侵食者は適合出来なかった者の成れの果てだ。
(広い・・・この施設もしかするとかなり広さなのかも)
オメガと別れて捜索しているパルパトは第1階層へと通じる吹き抜け部分にたどり着いた。
吹き抜け部分から第1階層へと行くことは可能だが、そこから各通路には未だに隔壁が降りていて隔壁を破壊、もしくは迂回路を探した方がよさそうだ。
パルパトはオメガと比べて侵食細胞の消費はそれほど多く使ってはいないので、この隔壁を破壊しようと思えば壊すことは可能だ。
そしてパルパトにはまだ薬が残っているので無理をする事は可能だが・・・この薬は神化の名を奇襲した際の帰り道に使用する予定があるので今此処で使用すべきではないのであろう。
(何か手掛かりは・・・これは?
この施設の見取図?)
パルパトが翼を広げ吹き抜けの第1階層に飛び立つと、そこには壁にこの施設の見取図が置いてあり今パルパトがいる位置に赤い目印と現在地という文字が書かれている。
どうやらこの吹き抜けも第1階層と第2階層を繋げる場所なようで、少し見えにくくなってはいたが階段がある。
『この場所・・・制御室で隔壁を上げる事が出来るかも』
そう言うとパルパトは翼を広げ、1番近い距離にある第1階層制御室へと向かっていく。
無論、制御室へと向かう通路にも隔壁は下ろされているが・・・
『剣爪-五爪一剣』
右手の五本の弧爪を何重にも折り重ねパルパトは一本の短剣を造り上げる。
この短剣は近距離戦闘を不得意とするパルパトが考案した物で、敵に接近された場合に使用する事を想定している為切れ味は鋭く、傷を付けた際に深手を負わせる仕組みもある。
そしてこの短剣の利点は通常の短剣とは違い刃が欠けるという事はない。この短剣はパルパトの弧爪を重ねて造り上げているので、外側の部分が傷ついたり欠けた際には外側の弧爪全てがはずれる仕組みとなっており、弧爪が続く限り切れ味は落ちたりはしない。
しかし欠点もあり、短剣を消耗すればするほど弧爪が無くなり短剣が短くなってしまう。
今は隔壁を破壊するだけなので問題はないが。
『・・・これって?』
パルパトは隔壁を破壊して進んでいると隔壁が上がっている通路へと出た。
先ほどまで降りていた隔壁が上がっているという事はこの通路は誰かが通る為に上げたのか、それとも誰かが通過した後なのかは不明だがこれは好機である。
パルパトはこの隔壁が上がっている通路へ進行することにして進んでいく。
神化の名本拠地第1階層侵食細胞研究所
『あぁ・・・やっと目が覚めた。
あっちは今何をやっているのかな?』
姫子が言っていたようにユセが目を覚まして辺りを見渡す。目を覚ましたユセの身体には姫子によって撃たれた筈の傷痕が無くなっている。
流石に血溜まりは残っていた為にユセの服が血で染まり、汚れているがそんなことはお構いなしに侵食細胞研究所の機器を弄っている。
傷が再生したのも疑問だがそれ以前に弾丸を撃たれた筈の人物が、傷が癒えたとはいっても最初にやることが機器を弄ることというのは些かおかしな話だ。
通常であれば傷痕の確認から今まで気絶するまでの記憶を探ったり、弾丸を撃ち込んできた姫子を探すはずだが・・・何故か目を覚ましたユセは別人のようだ。
『これは・・・不味いですね』
ユセがそういい終えるや否や第1.第2階層の区画が全ての隔壁が上昇し全ての通路が通行可能になる。
どうやらパルパトが隔壁を開けたようだ。
『・・・私が足止めしないといけないのかぁ』
そう言いながらユセは侵食細胞研究所を後にする。




